【東京国際映画祭】市川崑監督、黒澤明賞に感無量
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デコルテがシースルーになったブラックのドレスをまとって松嶋菜々子は胸元だけでなく美しい肩甲骨も披露。オープニングでは金田一耕助の衣装で登場した石坂浩二だが、この日はストライプのジャケットに深紅のスカーフをあしらい、スマートでダンディーな装い。尾上菊之助は紋付き袴、犬神家三姉妹は、富司純子と萬田久子が上品かつ華やかな和服、松坂慶子は豹柄のゴージャスなドレスでベテラン女優の美をを競い、深田恭子は鮮烈なピンクのドレスでスタイルの良さをアピールした。最後に市川崑監督が車椅子で登場し拍手で迎えられると、一瀬隆重プロデューサー、角川ヘラルド映画の黒井和男社長も加わり「犬神家の一族」の勢揃いとなった。まさに映画祭のクロージングを飾るに相応しい日本映画界屈指の豪華な顔ぶれが写真撮影に応じた。
引き続き場内では各賞の表彰式を含むクロージングセレモニーがジョン・カビラと久保純子の司会で開始され、今年の映画祭来場者総数が昨年より多い27万1千人に達したことが告げられた。
まずは、第3回黒澤明賞の受賞者が審査委員長で映画評論家の品田雄吉氏より発表された。今年の受賞者は、「カッコーの巣の上で」「アマデウス」などで知られるミロス・フォアマン監督と、「ビルマの竪琴」「犬神家の一族」の日本が誇る名匠・市川崑監督。それぞれの代表作がスクリーン上で紹介されたのに続き、名監督2人が温かい拍手で迎えられ登壇した。
プレゼンターは第1回の受賞者で審査員の山田洋次監督と、審査員であり黒澤監督の長女で衣装デザイナーとして活躍中の黒澤和子氏。山田監督は「黒澤さんはよく、君たち若い監督は、と仰いました。その時僕はすでに60歳を過ぎていましたが(笑)。そう言われると自分が若くなったような気持ちがしてとても嬉しかったものです。こうして市川さんのおそばにいるとまた同じような気持ちになります。僕はいつまでも後輩の若い監督でいたい。市川崑さんには、いつまでも元気で新しい映画を作り続けて行っていただきたいと心から思っています」と、また、黒澤氏は「父はミロス・フォアマン監督の『カッコーの巣の上で』が大好きで、人間描写の勉強がしたければ、この映画を必ず観るようにと助監督に話していたのを覚えています。父と一緒に何度も観て登場人物について語り合った作品です。これからも世界の映画界のために素晴らしい作品を撮って行ってください」と祝辞を述べた。
「50年以上前、プラハで映画を学んでいたころ、仲間たちと小さな試写室で初めて観た日本映画が黒澤監督の「生きる」でした。老人が死んでゆくというだけの映画で、美女もサムライもカーチェイスも出てきません。けれども、映画が終わった時、誰一人立ち上がることも口をきくこともできませんでした。2人の女子学生は涙を流していました。この映画が私たち全員の心の底に届いた証しです。黒澤監督のこの傑作を観て、ほんとうに心の底から描いたものは世界中の人々の心の底に届くのだと知ったのです。本日、私は謙虚な気持ちにさせられると同時に誇りに思います。尊敬してやまない黒澤明の名を冠した賞をいただいたのですから。ありがとうございます」とフォアマン監督。
市川監督は、「こんなに嬉しいことはないんです。黒さんの賞は私にとって最高のものです。東宝の助監督時代、黒さんに追いつけ追い越せで必至に映画をつくっていた記憶が鮮明に甦ります。私が一番好きなのは『用心棒』です。自分で拙いシナリオを書く時に必ず読み返します。ほんとうにありがとうございました!」と感無量の面持ちだった。
(photo by 稲葉九)
《齊田安起子》
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