SaaS版「電車でGO!」?——富士通らのフルHD鉄道運転シミュレータ
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富士通はユビキタス最先端アプリケーションサービスとして、サンリオピューロランド、愛・地球博、青梅マラソンなどで映像とIDタグを使用したサービスを提供してきた。また、音楽館は鉄道運転シミュレーションゲームの第一人者として、MAC、PC、PS3などで本格的な鉄道運転ゲームを制作してきた。音楽館はこのノウハウで東急電鉄の運転訓練システムや交通博物館のSLシミュレータを開発した。今回は鉄道会社各社の路線ごとの訓練プログラムを音楽館が制作し、富士通がSaaS技術による業務アプリケーションを提供する。納期は商談成立から半年程度が目標。仕様を調整することで納期短縮にも対応する。
富士通株式会社のアウトソーシング事業本部Webソリューションセンター、ネットワークアプリケーション部長の池田尚義氏によると、業務用鉄道運転シミュレータシステムに着手した背景として、鉄道事業者から「より現実的な訓練システムを導入したい」、「運転訓練だけではなく、業務システムやコミュニケーション機能の連携が必要」、「最先端のシステムを短期間、低コストで導入したい」という要望があった。
また、音楽館が持つフルハイビジョン実写映像による可変速再生技術によって実務に使い環境が再現でき、これと富士通が持つSaaSシステムのノウハウを組み合わせて、eラーニングシステムと連携し、教材の更新や訓練履歴の管理、成績の一元管理ができる。訓練センターなどの大型施設だけではなく、運転士の待機所やノートPCなどでもトレーニングでき、ネットワークで常に情報を更新できるメリットがある。さらに、実写映像とCGの組み合わせにより、臨時列車の運行や事故、災害などの緊急時訓練や車掌業務との連携についても訓練できるという。
今回発表された鉄道運転シミュレータシステムはAシステムからDシステムまでの4種類。Aシステムは実物大の車両モックアップを使用して運転士と車掌の訓練を実施できる。Bシステムは簡易運転台を用いて乗務員詰め所に設置できる省スペース型。CシステムはPCにインストールして簡易ハンドルコントローラを接続し、CAI教室などで使用する端末型。Dシステムは高性能ノートPCにインストールし、運転士が待機時間などでいつでも利用できるモバイル型。
路線の映像データは1920×1200ドットのフルハイビジョンで、数十ギガバイト以上になるため各端末にインストールされる。工事や線路の配置変更、ダイヤ改正などがあった場合はSaaSシステムによって差分の映像データが配信される。実写映像データとCGの組み合わせによって、時間や天候の変化による運転特性の変化にも対応できる。
音楽館の代表取締役の向谷実氏は、「本来、動画は等速でも早回しでも、定速で再生されることを前提としており、再生速度を変化させるという技術は誰もやってこなかった。音楽館が鉄道運転ゲームを発売して以来、リアリティを追求するために開発を続けてきた技術が役に立つ」と語った。また、従来の業務用鉄道運転シミュレータについて「第一世代はレーザーディスクで提供されていた。しかしレーザーディスクでは30分が限度で、全区間の再現はできなかった。そこで第二世代はCGを使ったシステムになったが、CGは制作コストがかかる上、実感に乏しいという現場の声が強かった」とし、自社のシステムに自信を見せた。
従来の鉄道運転シミュレータシステムは、鉄道会社ごとに専用設計で開発されていた。しかし、富士通と音楽館のシステムは路線の映像撮影や車両の特性データなどをカスタマイズするだけで、基本的な動作システムは共通となるため、鉄道会社は専用設計システムよりも低コストで導入できる。また、業務アプリケーションをSaaSシステムで提供することで、契約した顧客に対して同時にアップデートが可能となるほか、技術的なサポートを一元化できるなどのメリットがある。
SaaSシステムを使うメリットは、複数の路線を持つ鉄道会社や相互乗り入れを実施している会社などで発揮されそうだ。路線ごとにこのシステムを配備した場合、車両が別の路線に転属する場合はSaaSシステムで車両データを配信すれば迅速に対応できる。鉄道会社の直通運転の場合、原則として運転士は自社の区間だけを担当するため、乗り入れてくる車両すべてに乗務することになる。各社が共通のシステムで訓練すれば、その中のひとつの会社が新車を導入すると、その動力特性データを乗り入れ先の会社すべてに提供できるというわけだ。ダイヤが乱れた場合の使用車両の変動にも対応できる。
鉄道業界では近年、国土交通省の主導により鉄道安全設備の拡充が求められている。また、災害だけではなく、テロ対策も重要な課題となっている。今回のシステムは鉄道関係者以外には見えない部分だが、安全性の向上という形で多くの鉄道利用者が恩恵を受けることになるだろう。
《杉山淳一》
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