【ショートコラム】テレビがデジタルになるということ——テレビの良心が死ぬ日
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アナログ放送終了を控えて、アナログ放送を受信しているテレビに「アナログ」という小さい文字が表示されるようになった。前後の報道や総務省のPRもあり、少なくともいま使っている古いテレビでは、放送が見られなくなるという認識はかなり広まってきたといってよいだろう。しかし、テレビ放送をデジタルにする意味や意義、機器の入れ替えに見合う視聴者メリットの周知はあまり進んでいないといえる。そのためか、「アナログ」表示について違和感や利権がらみの思惑がかえって強調される結果となり、ネガティブな意見も多い。
一般には、テレビ放送をデジタル化することで放送の付加価値を高めたり、新しい技術導入による市場の創出、そして、アナログ放送の周波数帯を整理することで、空いた帯域を使った新しい通信サービスや放送サービスを広げるということが、その意義とされている。とくに周波数の整備は、予想されるLTEや4G、それ以降の商用サービスを含めたグローバルなコミュニケーション市場のニーズに応えるためにも急務ともいわれている。同じ理由でデジタル放送に移行したEU諸国も少なくない。とくにケータイ先進国といわれる北欧諸国に多い。
問題点は、テレビ受像機や一部の古いアンテナが使えなくなり、ユーザーに買い替えを強要する形になること。周波数帯が変わることで、難視聴地域が増えること。そして、政府・官僚主導による施策につきまとう、関連団体の天下り、利権にからむ企業との癒着なども問題視されがちだ。
これらの問題点はアナログ停波が機関決定されてからすぐに話題になり、議論されてきている。ここでは少し視点を変えて、デジタル放送の別の問題点にスポットをあててみたい。
それは、デジタル化による放送のリアルタイム性が損なわれる問題だ。現在でも地デジ放送は生中継番組であっても、実時間の映像ではない。デジタルデータのエンコード・デコードにかかる時間によって2秒前後のズレが生じている。大した問題ではないという意見もあるが、デジタル放送では、テレビ画面の時報はあまり意味をなさない。おそらく、ガジェットでも有名なNHKのアナログ時計の時報はなくなるだろう。行く年来る年のカウントダウンは録画をみているのと本質的には変わらなくなる。ロケットの打ち上げ中継も同様だ。画面の秒読み時刻と手元の電波時計の時間は同じではない。発射の映像を見た時点ではロケットはすでに上空数キロといった具合だ。
たかが2秒くらいで大げさだというかもしれないし、アナログ放送とて、光速(電波の到達時間とテレビの電子回路内の電子の移動時間)レベルでは遅延が存在している。なにが問題なのだろうか。
そもそも、デジタル信号とアナログ信号ではどちらが「正確」かというと、原理的にはアナログ信号のほうである。デジタル信号は元の情報を量子化、サンプリング化している時点で誤差が避けられない。デジタル信号はそもそもオリジナルの情報ではないわけだ。もちろん、アナログ式の時計やメーターは人間の読み取り誤差や精度の問題がある。現実的には人間の認識できる解像度以上で量子化したデジタル情報のほうが「正確」に読み取れるのも事実だ。それでも、現場、現地の生の映像をデジタル化することによる「情報の操作」は、報道メディアとしてのテレビの本質的な価値や意義を変えかねない。
先のオリンピックでは中国が開会式の映像をCG処理して問題になった。完全デジタル化されたテレビは、もはや体制やスポンサーの恣意的な映像メディア、宣伝ツールでしかなくなってしまう。すでにテレビは公共性を失い仕込みとヤラセが蔓延し、そこに真実はないという現実もあるが、それでも、ヤラセは誰かがそれを演じて「事実」を作らなければならない。これが最後の砦だ。しかし、完全デジタル化になれば、その原理部分まで「良心」を失ってしまうということだ。この視点でいえば、デジタル情報のかたまりであるウェブメディアも同様だ。ウェブのライブ中継の遅延は2秒どころではない。一般的にライブ配信といわれているものでも数分遅れた映像だ。ウェブメディアには(パケット方式である限り)、本質部分で「即時性」は存在していない。またレイヤー構造のパケットと複雑になるサービスやアプリケーション(API)、ミドルウェアが改ざんや詐称、偽装の余地を増やしている。複数の意味で仮想世界なのだ。
まあ、実際には、ここまで強迫観念にとらわれる必要はないが、その危険性や可能性を常に意識しておくくらいはしたほうがいい。
一般には、テレビ放送をデジタル化することで放送の付加価値を高めたり、新しい技術導入による市場の創出、そして、アナログ放送の周波数帯を整理することで、空いた帯域を使った新しい通信サービスや放送サービスを広げるということが、その意義とされている。とくに周波数の整備は、予想されるLTEや4G、それ以降の商用サービスを含めたグローバルなコミュニケーション市場のニーズに応えるためにも急務ともいわれている。同じ理由でデジタル放送に移行したEU諸国も少なくない。とくにケータイ先進国といわれる北欧諸国に多い。
問題点は、テレビ受像機や一部の古いアンテナが使えなくなり、ユーザーに買い替えを強要する形になること。周波数帯が変わることで、難視聴地域が増えること。そして、政府・官僚主導による施策につきまとう、関連団体の天下り、利権にからむ企業との癒着なども問題視されがちだ。
これらの問題点はアナログ停波が機関決定されてからすぐに話題になり、議論されてきている。ここでは少し視点を変えて、デジタル放送の別の問題点にスポットをあててみたい。
それは、デジタル化による放送のリアルタイム性が損なわれる問題だ。現在でも地デジ放送は生中継番組であっても、実時間の映像ではない。デジタルデータのエンコード・デコードにかかる時間によって2秒前後のズレが生じている。大した問題ではないという意見もあるが、デジタル放送では、テレビ画面の時報はあまり意味をなさない。おそらく、ガジェットでも有名なNHKのアナログ時計の時報はなくなるだろう。行く年来る年のカウントダウンは録画をみているのと本質的には変わらなくなる。ロケットの打ち上げ中継も同様だ。画面の秒読み時刻と手元の電波時計の時間は同じではない。発射の映像を見た時点ではロケットはすでに上空数キロといった具合だ。
たかが2秒くらいで大げさだというかもしれないし、アナログ放送とて、光速(電波の到達時間とテレビの電子回路内の電子の移動時間)レベルでは遅延が存在している。なにが問題なのだろうか。
そもそも、デジタル信号とアナログ信号ではどちらが「正確」かというと、原理的にはアナログ信号のほうである。デジタル信号は元の情報を量子化、サンプリング化している時点で誤差が避けられない。デジタル信号はそもそもオリジナルの情報ではないわけだ。もちろん、アナログ式の時計やメーターは人間の読み取り誤差や精度の問題がある。現実的には人間の認識できる解像度以上で量子化したデジタル情報のほうが「正確」に読み取れるのも事実だ。それでも、現場、現地の生の映像をデジタル化することによる「情報の操作」は、報道メディアとしてのテレビの本質的な価値や意義を変えかねない。
先のオリンピックでは中国が開会式の映像をCG処理して問題になった。完全デジタル化されたテレビは、もはや体制やスポンサーの恣意的な映像メディア、宣伝ツールでしかなくなってしまう。すでにテレビは公共性を失い仕込みとヤラセが蔓延し、そこに真実はないという現実もあるが、それでも、ヤラセは誰かがそれを演じて「事実」を作らなければならない。これが最後の砦だ。しかし、完全デジタル化になれば、その原理部分まで「良心」を失ってしまうということだ。この視点でいえば、デジタル情報のかたまりであるウェブメディアも同様だ。ウェブのライブ中継の遅延は2秒どころではない。一般的にライブ配信といわれているものでも数分遅れた映像だ。ウェブメディアには(パケット方式である限り)、本質部分で「即時性」は存在していない。またレイヤー構造のパケットと複雑になるサービスやアプリケーション(API)、ミドルウェアが改ざんや詐称、偽装の余地を増やしている。複数の意味で仮想世界なのだ。
まあ、実際には、ここまで強迫観念にとらわれる必要はないが、その危険性や可能性を常に意識しておくくらいはしたほうがいい。
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