【インタビュー】SaaSビジネスの実行基盤は最終段階へ——富士通
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——「J-SaaS」の基盤は富士通が手がけたそうですね。
弊社は2年ほど前からSaaSプラットフォームの開発に着手していましたので、今回のプロジェクトにもいち早く手を挙げることができました。サービス開始日が決まっていましたので、弊社の業界に先駆けた取り組みが評価されたのではないでしょうか。
——富士通のように「SaaS」と名の付く部署名があるのは珍しいですね(笑)
私はSaaSビジネス推進部の人間ですから、SaaSだけ売っています(笑)。昨年4月の黒川の社長就任で明確にした会社の方針からも、SaaSは全社的な取り組みの1つとなっていますし、意気込みは十分あります。
——富士通のSaaSへの取り組みについて教えてください。
弊社のSaaSプラットフォームをISV(独立系ソフトウェア会社)やSE会社などの弊社パートナーに活用してもらうことで、弊社のSaaSビジネスを拡大したいと考えています。弊社のプラットフォームは、インフラとなる「SaaSリソースサービス」と、アプリ連携に必要な「SaaSアプリケーションプラットフォーム」で構成されていて、これら2つを統合して提供します。SaaSリソースサービスでは、LinuxホスティングとWindowsホスティングの提供をすでに始めていて、3月末からは仮想化のVMwareホスティング提供も予定しています。また、SaaSはオンデマンドかつ従量制での提供となりますから、SaaSアプリケーションプラットフォームとして、サービス運用管理制御(ログ管理など)、認証・権限管理制御(認証IDなど)、実行環境(J2EE型)を提供します。さらに、これら2つのプラットフォームにオプションとして、PDF帳票作成、FAX送信、課金計算といったユーティリティも搭載します。現在、こうした“SaaSの肝”となる部分の作り込みをほぼ終えていて、来年度にはSaaSビジネスに必要な実行基盤はすべてそろう予定です。
——クラサバ型アプリケーション用の実行環境も富士通で提供するんですね。
ISVに話を聞くと、クラサバ型でサービス提供しようとしているISVがけっこういるんです。Web化するには今まで作り上げたものを1から作り直す必要がありますから、既存のクラサバやPCインストール型パッケージをそのままSaaS化したいと考えているようです。そこで、アプリケーションをユーザに配信してシンクラ方式で動かすことができる「アプリケーション配信基盤サービス」を用意しました。これはすでに提供を開始しています。
——館林のデータセンターにSaaSプラットフォームを構築しているそうですね。
館林ではすべてがグリッドとグリーンで構築されます。今までのようにラックを置いてお客様の設備を預かって、といったスタイルではなく、ブレードを中心として、仮想的に連携できるような仕組みになります。もちろん、お客様のニーズによって、他のデータセンターにもSaaSプラットフォーム構築をしていきます。ユーザには、オンデマンドで必要な領域を割り当てられる環境を用意します。また、クラウドになると、自社サーバがどこにあって、どういう状態にあるかがわかりにくくなりますから、ダッシュボード機能を用意して、OS/ミドルウェアの情報に加え、運用状況を“見える化”する機能も提供します。
——SaaSアプリケーションは自社で作らないんですか?
もちろんSaaSアプリケーションも投入していく予定です。すでに電子申請は始まっていて、もうすぐ電子調達も開始予定です。弊社には、ERPや業種別パッケージなどのアプリケーションも豊富にそろっていますので、それらのSaaS化に向け、拡販部隊やパッケージ部隊と協力して、ビジネスプランを作っているところです。共通化が難しくSaaSに向かないアプリケーションもありますから、まずは共通的に使えて需要の高いものから優先的にやっていくというイメージです。
——複数のプラットフォームを使うのはユーザとしてもたいへんですよね。となると、早くプラットフォームを立ち上げた者の勝ちでしょうか?
早くクラウドを作った者の勝ち、でしょう。あとは、アプリケーションの豊富さが勝負の分かれ目だと思います。ですから弊社はISVをどんどん囲い込みたいんです。しかし、プラットフォームがないと、それはできません。ですから、まずしっかりとしたプラットフォームを自前で作り、そこにISVやパッケージを持っているパートナーを誘致して、プラットフォームを盛り上げていきたいんです。「J-SaaS」も、ポータルを用意して、ユーザは使いたいアプリケーションを選べばすぐ使える仕組みがありますが、富士通も同様のポータルを作って、様々なサービスを富士通のプラットフォーム上で提供できるようにしたいと考えています。そのために、様々なベンダと協調できる部分は協調しつつ、共通基盤を作り上げたいと考えています。そういう意味では、ソフトウェアありきネットワークありきで自社製品を売りたいベンダとは、SaaSビジネスの展開の仕方が違うと思います。
——大企業は既存システムをクラウド上に持っていくのはたいへんですね。やはりSaaSを使いやすいのは中小企業ですか?
実は、弊社の商談の割合では大手のお客様がけっこう多いんです。ただし、基幹の周辺系となるSFAやCRMが中心で、こうしたフロントの軽いところは、自前で持たずどんどん外に出していこうとする傾向があるようです。中小の場合は、当社ではグループウェアやeラーニングが多いようですね。
——eラーニングの事例ではテンプスタッフがありますね。
テンプスタッフ様でeラーニングを考えられたのは、IT部門ではなく、登録スタッフのスキルアップを考える部門の方々です。
自分たちはどういうコンテンツをどう充実させていくかに専念したい、余計なシステムを持たず外で運用してもらいたい、という企業は増えてくるでしょう。テンプスタッフ様は年間1,000万円単位のコストダウンも見込んでいますし、コストメリットの観点からもこうした利用シーンは増えていくと思います。
——eラーニング以外に増えていきそうな利用シーンはありますか?
HOYAサービス様が眼鏡店に導入した、顧客管理のSaaS化も今度増えていくのではないでしょうか。HOYAサービス様は、これまで約7,000店舗に専用端末で導入していた顧客管理を、端末のOSアップグレードを機に、Web顧客管理システムに一新しました。
今後は店員教育や販売会議など、マッシュアップも検討しているようです。マッシュアップの事例では、某メーカー様が、バイヤーとサプライヤー間で発生する見積書や図面、帳票の管理を、資材調達EDIとグループウェアを組み合わせることによってSaaS化しました。クラウドになってくると、こういった事例も増えてくると思います。
——昨年は「クラウド」が騒がれましたが、今年は何がきますか?
クラウドは、IaaS(インフラ)、FaaS(ファシリティ)、PaaS(プラットフォーム)、SaaS(ソフトウェア)、NaaS(ネットワーク)と階層別になってきています。PaaSのみを求めるユーザもいれば、上位アプリケーションだけ使えればいいと考えるユーザもいますので、ベンダ側も階層別のすみ分けができてくるのではないかと思います。また「プライベートSaaS」、日本で「企業内SaaS」も注目されてきているようです。大企業の情報子会社が開発を手がけて、グループのSaaS基盤上で基幹システムを安く効率よく運用するなど、企業内で必要なところとそうでないところを選別しつつ、いろいろな取り組みが始まっているようです。
——SaaSの普及でSIビジネスはなくなるのでしょうか?
SIビジネスがなくなるとは思っていません。逆に、SaaSならではのSIが新しい領域として出てきています。カスタマイズを希望するユーザもいれば、標準仕様でリプレイスも簡単なものを希望するユーザもいますから。しかしどちらかというと、米国流の考え方が広まってきていて、すでにあるものを使って簡易的に済ませる傾向は強まってくるのではないでしょうか。
——パッケージビジネスはどうでしょうか?
現在でもWeb型アプリケーションはまだそれほど多くありません。これまでパッケージの世界はライセンスで守られてきましたが、これをWeb型の月額従量で提供するとなると、ビジネスモデルが大きく変わってきます。また、これまでソフトウェア会社は1本のアプリケーション開発に何億も投じることもありましたが、SaaSでは回収スパンが長くなっていきます。この流れがなくなることはなくて、最初は緩やかかもしれませんが、次第に売り切りのパッケージビジネスはなくなっていくのではと思います。
——個人的に「こうなったなら面白いな」と思うものはありますか?
「複数の会社が、同じような設備を、同じように作らなくてもいいよね」という考え方からすると、餅は餅屋というか、数社合同で開発されるメモリがあるように、A社はある分野が得意で、B社は別の分野が得意なら、双方をつなげて共通基盤にして、クラウドで使えるようになればいいなと思います。ベンダを気にせず共通ポータルを提供できれば、ユーザはすごく使いやすくなりますよね。
《柏木由美子》
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