【連載・シンクライアントソリューション(Vol.1)】新世代型シンクライアントの紹介〜何故、今シンクライアントなのか?〜
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「シンクライアント」という言葉自体は決して最近生まれたものではなく、およそ10年前から存在していたもので、クライアント端末側でのデータ処理を極力省き、クライアントから演算装置・記憶装置を極力省いた状態にすることにより、演算装置・記憶装置をサーバー側へ集約して、システム全体のスリム化・集約化を図るものだ。
図1-1に主な概要をまとめてみたが、従来のPCソリューションとの一番の違いは「ユーザーの目の前でデータ処理を行わずに、目の前で行うのはキーボードやマウスによる情報の入出力と、画面転送による処理結果の表示のみが行われる」という点にある。
もう少しこの部分に踏み込んで見ると、シンクライアント環境を実現する方法は大きく分けて3つの方式が生まれた。この10年間の間にハードウェアの進歩やビジネス要件の変化に合わせてこれらの方式が提案されたが、残念ながら「主流」と呼べるほどの普及には至らなかった。これらの方式の概要と弱点について触れたい。
1.ネットワークブート方式
ディスクレスPCに代表される、PC本体にHDDを持たずにネットワーク上のサーバーに格納されているOSイメージを使用して、PCを起動する方式。主に学校の教室のPCの様に「シャットダウン時に授業で使用したデータを消去すること」が求められる様な環境で導入された。リアルタイムでのデータ更新が要求されるビジネス用途に適さない事と、サーバー上のOSイメージをPCでロードする際にネットワークに多大な負荷をかけてしまうため、ビジネス用途ではほとんど導入されなかった。
2.サーバーベースドコンピューティング方式
「Citrix Presentation Server(現在はCitrix XenApp)」や「Microsoft Terminal Services」に代表される画面転送方式。各クライアントPCはCitrix Presentation ServerやMicrosoft Terminal Servicesといったアプリケーションを通して、クライアントアプリケーションをサーバー上で実行する。メモリやCPUを使用する演算処理はサーバー上で実行され、キーボードやマウスによる入力情報と処理結果となる画面遷移情報だけがIPネットワーク上でやり取りされる。特にCitrix Presentation Serverは画面遷移データの圧縮率の設定や、起動しているアプリケーションの画面のみを転送できるため、ネットワーク帯域の負荷の問題は解決されるものの、移行の際にアプリケーションの動作検証と性能設計にコストがかかってしまう点が足かせとなる。現在、クライアントPCの性能は数年前に比べて飛躍的に向上したが、クライアントPC上で重い処理を頻繁に実行する場合は、どうしても1台のCPSサーバーが賄うクライアントPCの数を減らさざるを得なくなり、その性能設計や検証はとてもシビアなものとなる。
3.仮想PC方式
「VMware View」に代表される、仮想化ソフトウェアを使用して既存の各PCのブートイメージを仮想PCとしてパッケージし、クライアントPCが起動するたびにパッケージされた仮想OSを呼び出して起動する方式。ネットワークブート方式と違い、IPネットワーク上に伝送されるデータは画面遷移データのみとなるため、ネットワークに大きな負荷を与えるような事はない。ただし、サーバーベースドコンピューティング方式はアプリケーションのみを複数起動するのに対して、仮想PC方式は1台の物理サーバー上に複数の仮想OSを起動する為、1台のサーバーで賄えるユーザー数は当然少なくなる。
仮想とはいえ、1台のIAサーバー上に複数のWindows OSを起動するため、従来のクライアントPCと同様の性能やパフォーマンスを期待することは難しいと言える。これもまた導入に際しての性能設計や検証にコスト(手間)を要し、サイジングはさらにシビアになる。
ここまで様々なシンクライアント方式が提案されてきたが、享受するメリットと引き替えとなるデメリットを、段階的に縮小しながら、シンクライアントソリューションは進歩してきた。そして最近になって第4世代とも言える、新たなシンクライアントソリューションが市場に登場した。それが今話題の「ブレードPC方式」だ。
現在「シンクライアント」が再び注目されている最も大きな理由は、これまで提案されてきた方式の欠点を補い、それぞれの方式の利点を実現できる方式が「ブレードPC」であると注目され始めたことにある。これより「HP CCI(Consolidated Client Infrastructure)」を例にブレードPCによるシンクライアントソリューションについて詳しく説明する。
図2-1にHP CCIの代表的な構成のイメージ図を掲載した。このシステムイメージ図に沿って、ブレードPC構成の各部の役割について説明する。
まずはシンクライアントについて。デスクトップ型の場合はモニターやキーボードとセットで、モバイル型の場合は従来のノートPCと同様の構成で最小限のメモリ・CPU・記憶装置とネットワークカードで構成されている。この最小構成のPCは、Windows OSやMicrosoft Officeといったアプリケーションを動かすというわけではなく、マシンルームやデータセンターに設置されたブレードPCに接続するために存在する。このシンクライアントは自身のローカルディスクにデータを保存するという前提で作られていないため、ユーザーのファイルデータやアプリケーションデータはブレードPC内のHDDか、マシンルームのストレージサーバー上に保存される事になる。
こうした構成は特にモバイルPC環境で威力を発揮する。昨今の情報漏えい事件のケースとして、モバイルPCを外出先で紛失してしまったり、盗難にあってしまったりというケースがあるが、モバイルシンクライアントであれば、紛失・盗難の発覚後に速やかに該当ユーザーのアカウントをロックしてしまえば、機密情報が漏洩してしまう事はない。モバイルPCのローカルにはデータが存在せず、データはあくまでもマシンルームの中にあるのだから……。もちろん、シンクライアント上にログイン履歴が残っている場合や、パスワードがすぐに破られてしまう可能性が残るが、こうした構成が従来のモバイルPCに比べて安全性が飛躍的に高まる事は事実だ。他のベンダーから提供されている認証ソリューションと組み合わせる事で、安全性を完全なレベルに近づける事も可能となる。
続いてブレードPC本体について。従来のデスクトップPCのPC本体に該当する部分となり、こちらのPCブレードの中に従来のCPUとメモリ、HDDが内蔵されている。ネットワークカードはブレード構成の為、ブレードのエンクロージャーに統合されている。このブレードPCとエンクロージャーは非常にコンパクトなサイズになっており、エンクロージャーは3Uで、最大20枚のブレードPCを搭載することができる。シンクライアントとブレードPC、エンクロージャーで構築する事もできるが、それでは従来のデスクトップパソコンの本体部分をマシンルームに集約しただけとなってしまい、導入効果は非常に薄いものになってしまう。
ここでストレージサーバーや、セッション管理サーバー等の説明に入る前に、HP CCIシステムの3つの構築パターンを紹介する。
これらの3つの構築パターンの最大の目玉は「ダイナミック接続型」だ。昨今の不況でIT投資のコスト削減が求められる中で、最もコスト削減に効果を発揮するものがダイナミック接続型になるからだ。この構成により、シンクライアントの最大のメリットである、「PC一人一台」から、「PC一人一アカウント」への変貌が実現する。
情報漏洩対策、内部統制対策が求められる中で、クライアントPC1台当たりのソフトウェアのライセンスコストは大幅に上昇してしまったが、PCそのものの台数を削減し、クライアントPCのローカルデータの集中管理の実現、システム担当者の運用コストの削減などのメリットから、このソリューションが大きく注目を集める事となった。
次回はHP CCIのダイナミック接続型のコスト面、システム面での課題について紹介する。実際の導入コストとコスト削減効果、CCIへ移行する際のシステム課題について説明する。
(CSE 櫻井 智行)
《RBB TODAY》
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