【インタビュー】『崖の上のポニョ』ブルーレイ化の難題は“ポニョフィルター”が解決
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
ジブリ作品のブルーレイ化は今回が初めてとなる。ジブリならではの人肌の温かさを保ちながら、非常に高精細な映像に仕上がっており、DVDに親しんだ人でも驚きや新たな発見が多いはずだ。
今回は、『崖の上のポニョ』で映像演出を担当したスタジオジブリ映像部技術部長である奥井敦氏、ブルーレイのオーサリングを手がけたパナソニックハリウッド研究所(以下PHL)所次長の柏木吉一郎氏に話を聞いた。
■特別に用いられた“ポニョフィルター”
——今回の「崖の上のポニョ」は、スタジオジブリとしては初めてのブルーレイ作品となりましたが、制作を終えられての率直な感想をまずは教えてください。
奥井氏「とにかく良いものができたということだけは自信を持って言えます。ブルーレイ化は初めてなのですが、今までやってこなかったのは、実はジブリでもブルーレイに対する否定的な意見もありまして。それを乗り越えて、やっと第1弾にたどり着いたということで、そういう意味では感慨深いですね」
——否定的な意見とはどのようなものだったのですか?
奥井氏「これまで私たちはDVDを制作してきましたが、最近のプレーヤーだと、アップコンバートの画も非常にキレイなんです。もちろん、それに満足しているわけではないのですが、そこに置き換わるだけの魅力がブルーレイにあるのか?と。それとブルーレイは当然、HD解像度で出力されますので、一般的な家庭に普及している大画面のフラットパネルにブルーレイの画を映したときに、はたして我々の望んでいるクオリティの画が映せるのか、と。その点に非常に疑問がありましたし、もしかすると非常にハードルの高いものになるのではないかと。そこが少し足かせになっていた部分です」
——制作過程の中で、特に印象に残ったエピソードはありますか?
柏木氏「DVDのときには、データ自体をHDの形でいただいて、それをSDの解像度にスケーリングダウンするわけです。その時点でおのずとボケた画になるのですが、そこで副次的にジブリらしい柔らかい画になっている。ですがブルーレイの場合はHD解像度のまま収録しますから、逆にブルーレイとして出すからこそ問題になる部分が出てくるわけです。それで『画を柔らかくしてほしい』という要望を受けまして。柔らかくする方法として一番単純なのはボカすことなのですが、『ボカさないで柔らかくしてね』と言われました(笑)」
奥井氏「注文はその1点だけでした(笑)」
——その注文どおりに仕上がったということですね。
奥井氏「そうですね。言った立場で何ですが、すごい難題を吹っかけたつもりだったんですけど……もちろん、苦労はされていますよ(笑)。ですが、一発回答をいただきました」
——今回の作品用に何か特別な技術を用いたということなのでしょうか。
柏木氏「はい。ブルーレイ用マスター制作の中で、ある非常に特殊な、今まで恐らく誰もそんなことはやっていないだろうなっていうような変換処理をして、ボカさずに柔らかくするという映像を実現しました。PHLの中では“ポニョフィルター”って呼んでいます(笑)」
——“ポニョフィルター”がほかの作品に活かされる可能性は?
柏木氏「ジブリさんの作品をまた扱うとなった際、個々の作品に応じて判断しますが、必要であればもちろん使用します」
——では今後、ジブリのバックカタログでブルーレイ化の予定などはありますか?
奥井氏「まだ予定はないです。これからですね」
——ブルーレイならではの特典として、絵コンテ映像と本編映像を同時に観ることが出来る「ピクチャー・イン・ピクチャー」が収められていますね。楽しんで拝見しました。
奥井氏「絵コンテそのものはDVDから収録しているんですけど、DVDでは切り替えて観るタイプのマルチアングルを採用していました。でも今回は『ピクチャー・イン・ピクチャー』の機能がうまくはまりましたね」
柏木氏「宮崎さんの場合、最終の作品イメージにするための絵コンテというのが詳細に作られていますから。最初から最後まですべてのシーンが作られているんです。なので、本編とあわせて絵コンテを見ると、きちんとその対照が一目でわかるんですよね。それは本当に面白いと思います。絵コンテどおりに話が進んでいて、そこにまず驚かされました」
■手探りで始まったブルーレイの規格化
——ところで、そもそもPHLはどのような目的で設立されたのですか?
柏木氏「2001年に設立した当初は、今のようなHD規格が民生ではまだ立ち上がる前だったんです。DVDが全盛で、まだ頭打ちもしてない時代でしたから『HDって意味があるの?』なんて意見もありましたね。ですから、『それまでのSD映像とどう違うのか』の見極めからスタートしました。次に、次世代HDメディア——まあブルーレイのことなのですけれども——も考えていかなくてはいけないと。まだブルーレイの規格すらなかった状態でしたけれどもね。どういう圧縮技術が次世代HDメディアに向いているのかを考えるところから始めたんです。
実は、民生機器メーカーの中で映像関係のラボをハリウッドに構えているのって、パナソニックだけなんです。なので、ハリウッドに対する窓口という役割も非常に大きいわけです。言うなれば交渉窓口ですよ。たとえばハリウッドの映画会社から質問があったり、あるいは実験してみたいとの申し出があったり、知りたいことがあったりすると、相談に来てくれるわけです。それをブルーレイの規格化団体にフィードバックして、意見交換・情報交換の窓口になっている感じですね。ハリウッドの現地の人たちと一緒に映像を見ながら、いろんなやり取りができることも魅力です。そんな中で、さきほど申したようなHD映像向けの圧縮技術の検討もやってきたわけです。当初はMPEG2をブルーレイにも使う方向で話を進めていたのですが、H.264を改良してハイプロファイルという形式を作って、MPEG-2よりもはるかに良いものができましたから。それを改めてブルーレイに採用して、そこからH.264のハイプロファイルを利用した圧縮システムを開発して、という流れで今に至ります」
——なるほど。最後にぜひお聞きしたいのですが、ブルーレイをご覧になって宮崎駿監督はどういう感想をもたれていたのでしょうか?
奥井氏「いや、観てないんです」
——え、そうなんですか!?
柏木氏「『ブルーレイって何?』とおっしゃっていましたよ(笑)」
奥井氏「『ブルーレイどころか、DVDも観てないですから。意識して観ないというより、むしろ意識の範疇にないのでしょう。眼中にないといったらおかしいですけど、基本的には劇場公開する作品が自分のクリエイトしたものなので、創り上げた時点で宮崎の中ではその作品は終わっているんです。今後も目にする機会はないと思いますよ(笑)」
——本日はありがとうございました。
スタジオジブリの奥井敦氏、PHLの柏木吉一郎氏には貴重な時間をいただき、制作の裏側やブルーレイの成り立ちといった興味深い話を聞くことができた。また、エピソードからは、宮崎駿監督のアーティスティックな一面も浮き彫りになった。“ポニョフィルター”が施された『崖の上のポニョ』ブルーレイ版で、ポニョの新たな魅力に出会えそうだ。
・製品ラインアップ
<2009年12月8日(火)発売>
『崖の上のポニョ』
ブルーレイディスク:7,140円
『ポニョはこうして生まれた。〜宮崎駿の思考過程〜』
DVD:9,240円
ブルーレイディスク:11,340円
『「崖の上のポニョ」特別保存版』 初回限定生産
DVD:19,110円
・『崖の上のポニョ』(2枚組)
・『ポニョはこうして生まれた。〜宮崎駿の思考過程〜』(5枚組)
・『久石譲in 武道館〜宮崎アニメと共に歩んだ25年間〜』
『「崖の上のポニョ」ブルーレイディスク 特別保存版』 初回限定生産
ブルーレイディスク:18,480円
・『崖の上のポニョ』
・『ポニョはこうして生まれた。〜宮崎駿の思考過程〜』(2枚組)
※ 初回限定特典
・「ポニョのシールブック」、
・DVD「課外授業 ようこそ先輩 〜伝わる“地図”を描く〜」(出演:鈴木敏夫(映画プロデューサー)他)
※「崖の上のポニョ」ブルーレイディスクの初回限定特典は、「ポニョのシールブック」のみとなります。
<発売中>
『崖の上のポニョ』
DVD:4,935円
VHS:4,725円
三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー提供作品
『ウォレスとグルミット ベーカリー街の悪夢』
DVD:3,990円
ブルーレイディスク:4,935円
《小口》
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