「SIMロックに対する議論は勘違いだらけ」――ソフトバンクモバイル取締役副社長 松本徹三氏
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SIMロック解除の主な利点として挙げられる「端末メーカーの国際競争力向上」と「消費者の利便性向上」について同氏は、「世界市場での日本端末メーカーの不振はSIMロックとは無関係だ。消費者の利便性についてもデメリットの方がはるかに大きい」と語った。
同氏は、世界市場に進出するならば、既存の国内端末を流用するのではなくその市場の要求に合った端末を作る必要があるため、国内でのSIMロックの有無は関係がないと述べた。また、フィンランドのノキアや韓国のサムスンなどを引き合いに出し、国内市場での成功がなくとも投資によるブランドづくり等で世界市場で成功できると語った。
そのうえで日本メーカーの世界市場での不振の原因を、日本独自の携帯用OS作られなかったため、ソフト開発費が巨額化し、1台あたりの端末開発の負担が増えたためとした。
また、SIMロック解除により消費者が1つの端末でキャリアの乗り換えが容易になるとされている点については、メリットよりもデメリットの方がはるかに大きいと語り、以下のような理由を挙げた。
1. 端末価格の値上がり
SIMロックを解除して1つの端末を全てのキャリアで使えるようにするためには、端末メーカーが異なる通信事業者のネットワークで動くように端末を製造しなくてはならない。実際には事業者によって周波数やセンター設備でのサポートの仕方などが異なるため、メーカーはそれぞれのネットワークに対して動作環境をテストしなくてはならなくなり、多大な時間とコストがかかる。その結果端末価格を値上げせざるを得なくなる。
2. キャリアによるサービス、サポートの低下
ユーザーによるキャリア間の行き来が自由になると、サービスに関して問題が起きた場合責任の所在が不明確になる。ユーザーは問題が起きたら複数のキャリアやメーカーに問い合わせざるを得なくなる。つまりたらい回し状態となる。また、他キャリアへ移行した場合のサービスの違いなどを細かく説明しなくてはならなくなり、販売員の負担が増す。氏は「店頭説明の責任というのは重い」と強調する。
3. ネットワークに対するコントロールの低下
いままでの音声通信に加え、多量のデータが送受信されるようになるにつれて、ネットワークのパンクを防ぐため、キャリアが自社のネットワークをよりコントロールする必要が出てくる。具体的には、一定環境下では、3Gネットワークではなく、まずWiFiを利用するなど仕組みづくりをしなくてはならない。サービスが1つの事業者に統合されていなければこのようにネットワークをコントロールすることができない。たとえばハンドオーバーなどの仕組みをどう実装していくかなどの問題も残る。
4. 料金面の負担増
キャリアは、ユーザーが自社の通信回線を使ってもらうことを前提に、端末価格を設定しているため、ユーザーが自由に他のキャリアに乗り換えられるようになると、採算が取れる端末価格の見極めが難しくなり、高めの値段に設定せざるを得なくなる。端末代の支払いが24カ月後に終了した際に、SIMロック解除を可能にすべきとの意見もあるが、それで上記の問題が解決しても、各ネットワークに対応した端末の製造コストや、キャリアによるサービスの低下などの問題は残る。
5. 犯罪の助長
現在購入した端末のSIMロックを外し国内外で売り捌くというようなケースが多発しているため、ソフトバンクとしてはこのような犯罪を防止するためSIMロックを一層強化する方向で検討していたが、SIMロックが強制的に解除されることによって、このような犯罪を助長することになる。
6. 基本的な問題
現在W-CDMA方式やCDMA方式などキャリアごとに異なる携帯電話規格が採用されており、これが次世代規格のLTEで統一されるとSIMフリーの実現も容易になると言われているが、仮に各キャリアのシステムがLTEに統一されても、周波数の違いがあれば、音声通話などの基本サービスすらできない。
上記のような理由を挙げた上で、松本副社長は「総務省などでSIMロックの問題が議論される際、このような事情が言及されることはなく、当事者であるメーカーへの聞き取りも十分に行われていない。深い議論なしに思いつきレベルで本当にSIMロックが全面解除となったら日本経済は崩壊する」と述べた。
また、2008年から導入された割賦販売制度によって、08年度のソフトバンクの携帯国内出荷台数が大幅に落ち込んだ件に言及し、「SIMロックを解除することによって販売台数や売上がさらに落ち込むのではないかと懸念している。経済にも悪影響を及ぼす可能性がある」と語った。
《RBB TODAY》
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