佐々木俊尚氏が語る電子出版ビジネス……ソーシャルリーディングの重要性
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■「電子出版で重要な事はコンテンツでもフォーマットでもない」
佐々木氏は、現在市場を騒がせている電子出版は、端末や技術についての議論ばかり先行しており、その本質を見極めている人はすくないのではないかと、問題提起から講演を始めた。iPadとGALAPAGOSのどちらが勝つかといった議論よりも、電子出版によって変わる業務や生活、そこから生まれる新しいビジネスの視点から考えることが重要だという。これは、端末や技術は常に変化、または進化していくため、特定の技術にこだわってもしょうがないという認識だ。
佐々木氏によれば、これからの電子出版の流れに乗るためのひとつのポイントとして「ソーシャルリーディング」の考え方があるとした。ソーシャルリーディングとは、クチコミやソーシャルネットワークをベースとした、自分にとって面白い本、役に立つ本を手に入れるための「場」であり、そのような情報を得るための手法でもある。
■電子書籍は流通の導線確保が困難
なぜ、ソーシャルリーディングが重要なのだろうか。現在の電子出版は、まず
読者が探しにくい、買いにくいという問題があるという。App Storeにおける電子書籍は膨大なアプリケーションのひとつとして分類され、非常に探しにくい。アプリであるためデスクトップ上でも整理しにくい。独自プラットフォームで配信するにしても、そのサイトや自分のブログにどれだけ人が来てくれるかという問題もある。事実、ヒットしたといわれる電子書籍タイトルでも100冊程度という数字は珍しくない。電子書籍の場合、流通の中抜きのメリットがあっても、導線確保のハードルが高くなっているというのだ。
流通基盤、配信プラットフォームの重要性は、インターネットでも見ることができると佐々木氏はいう。1995年ごろはWebで情報を調べようとすると、ヤフーのトップページが主流だった。人力によるディレクトリだが、対象にすべきWebサイトが増えてくるとGoogleのような検索エンジンが主流となる。しかし、2000年代半ばくらいから検索エンジンの問題点も目立つようになってきた。キーワードで検索しても、自分のほしい情報にたどりつけなくなってきたからだ。レコメンデーションのような機能も工夫されているが、基本的に過去の情報をベースとしたもので、新しい情報の検索や発見には向いていない。
■情報収集ツールとしてのソーシャルメディア
現在は、ソーシャルメディアが目的の情報にたどりつくための機能や新しい知見との出会いの機能を提供している。つまり、インターネットの世界でも情報流通のためのプラットフォームのパラダイムシフトが起きているというわけだ。
出版物を「コンテンツ」(内容)、「コンテナ」(流通)、「コンベア」(媒体)の3つの構成要素に分けるとすると、コンテンツは印刷以前から現在まで本質的な変化はない。コンベアは石板、粘土板、羊皮紙、紙、磁気媒体、電子媒体など、時代ともに変化の激しい要素である。コンテナだけは、写本から印刷に変わっただけで、有史以来大きな変化は1回しかおきていない。これが電子出版によって、本格的な電子データに変わろうとしており、だとすると、16世紀以降、ヨーロッパ中世から産業革命までのさまざまな変化に匹敵するインパクトが今後おきるかもしれないと佐々木氏は述べる。
さらに、コンテナの変貌による「知のオープン化」は、同時にノイズとなる情報も増やしてしまうという。印刷から電子に移行するとなると、情報のノイズはさらに多くなり、冒頭で述べたような目的の情報が探せないという問題に直面するようになる。電子出版の時代は、選ぶことの重要性がさらに増すとの認識を示した。
この問題に対して、検索エンジンが機能しないことは先に述べたが、ソーシャルメディアによるクチコミ情報や、「キュレータ」と呼ばれる、ネット上で影響力のある人物が提供する情報が鍵となる。佐々木氏は、また、特定の視座によって情報をフィルタリングするキュレーションは、そのままメディアとなったり、コンテナと一体化する可能性もあり、新しいビジネスを生むのではないかと語った。
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