VoLTEは、現在の携帯電話システムにおいて回線交換網を用いて提供されている音声通話サービスを、VoIPに置き換えてLTEネットワーク上で実現するものだ。現行の2Gおよび3Gネットワーク上には回線交換網とパケット交換網が構築され、一般に前者で音声通話サービス(およびSMS)を、後者でデータ通信サービスを提供している。これに対してLTEのネットワークはIPベースのパケット交換網のみで構築されているので、音声サービスをどのようにハンドリングするかが課題となっていた。
同社の展示ホールで行われたデモでは、Samsung製のLTE対応スマートフォンを利用して、VoLTEによる通話が従来の回線交換と同レベルの品質で可能となっていることが紹介された。利用できる機能自体は現在の音声通話サービスと変わらないので、ユーザーが通話中にVoLTEを意識する機会はないと考えられるが、発信ボタンを押してから相手側の電話が鳴り始めるまでのレスポンスは現在の携帯電話より素早くなっており、伝送遅延だけでなく接続遅延も小さいLTE網のアドバンテージを実感できた。
なお、既にLTEサービスは各国の事業者が開始しているが、エリア構築や対応設備の展開には時間がかかるため、ほとんどの事業者では当面のところ、音声サービスは従来の3G網での提供となる(呼び出しのみをLTEで行い、実際の通話は3Gに切り替えて行う)。ネットワークの保守・運用コストはIPベースであるLTEのほうが優れるため、将来的にはすべての音声通話がVoLTEによってLTEネットワークに収容され回線交換網はなくなると考えられるが、携帯電話システムの最も基本的な機能である音声通話に関わる変更のため、移行にはそれなりの時間がかかると考えられる。
また、同社はMWC開幕前に携帯電話ネットワークを通じた送金サービスへの進出を表明していたが、このシステム「エリクソン・モバイルマネー・サービス」のデモも公開された。正確には、同社が直接送金サービスを提供するのではなく、銀行口座、携帯電話事業者との契約、その他決済サービスのアカウントなど、世界各国のローカルな口座の間を同社が結ぶものである。
携帯サイトやアプリなどからモバイルマネー・サービスのアカウントにログインし、送金したい相手先のユーザー名を選択し、金額を入力するだけで、相当額の現地通貨が相手のアカウントへ即座に送金され、相手の携帯電話には入金があったことを知らせるSMSが届く。日本でもコンテンツや商品の購入代金を携帯電話料金にあわせて決済したり、「ケータイ送金」(NTTドコモ)、「ケータイ番号振込」(じぶん銀行)などを利用して個人間送金を行ったりできるが、同様のサービスを提供するためのソリューションと考えるとわかりやすい。しかも、事業者や国の枠を超えたサービスを実現することも可能だ。
同社では先進市場・新興市場いずれの事業者にも提案できるサービスとしているが、新興市場では携帯電話の契約はあっても銀行口座を持たない人々の層が少なくなく、それらの市場においては特にこのような決済サービスの需要は大きいと考えられる。
そのほか、同社CEOのHans Vestberg氏がアナリストや報道関係者を招いて行ったブリーフィングの席上、同社とコンテンツ配信ソリューションを手がける米アカマイ・テクノロジーズ(Akamai Technologies)との間で独占的な戦略提携が結ばれたことを発表した。Ericssonでは「モビリティ」「ブロードバンド」という同社がこれまでも豊富な実績を持つ要素に、「クラウド」を加えることによって、2020年までに500億台の端末がネットワークで結ばれる社会を実現するとしているが、膨大なリクエストに対して正確かつ高速にコンテンツを届けるAkamaiの技術を統合することで、モバイルブロードバンド環境におけるクラウド利用の品質を飛躍的に向上させることができるとしている。