【MWC 2011(Vol.38)】「音声からデータへの移行で“憂鬱な現実”を乗り越える」ソフトバンク・孫社長
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
“憂鬱な現実”とは、携帯電話が1人に1台以上の時代を迎えたことにともなう今後の収益性の悪化を指している。2010年時点で、世界の携帯電話契約数は約54億に達しており、普及率は約8割となっている。わずか10年で加入者が7倍にも増えたわけだが、この先そこまでの劇的な増加は期待できない。しかも、1加入者から得られる平均収入(ARPU:Average Revenue Per User)は年々低下する傾向にある。孫社長は、このまま今後5年が経過すると、加入者は1.5倍になるが、ARPUは3分の2に低下すると見積もる。すなわち、両社をかけ合わせると、5年後も売り上げはまったく伸びないということになる。しかも、ネットワークのトラフィックは爆発的な増加を続けており、設備投資は続けなければならない。
逆に言えば、通信事業者が収益を拡大するには、シェアを拡大しより多くの加入者を得るか、ARPUを上向きに戻すかという2つの解決策しかない。ソフトバンクは、長らく漸減傾向にあったARPUを横ばいないし増加に転ずることのできた、世界でも数少ない事業者のひとつだが、その内訳を見てみると、音声ARPUは世界と同じように落ちているが、それを上回る勢いでデータARPUが伸びており、音声の収入低下をカバーしていることがわかる。
孫社長は、同社の通信料収入にデータが占める割合は既に54%まで達しており、これは世界の主要携帯電話事業者の中でトップだと強調。この事業構造が、“憂鬱な現実”の中で売上・利益を伸ばす原動力になっている。そして、データARPU拡大を牽引しているのが、スマートフォン(孫社長は「スマートフォン」と表現していたが、実態としてはそのほとんどがiPhoneだと考えられる)に注力する戦略だ。
調査会社やアナリストのリポートでは、2012年にも国内外の携帯電話出荷台数に占めるスマートフォンの割合が従来型端末を追い抜くといった予測が見られるが、一部の実績ではその予測を上回るスピードでスマートフォンへの移行は進んでおり、例えば、今年に入ってからソフトバンクに新規加入する高校生・大学生ユーザーを見ると、実にその85%がスマートフォンを選択しているという。そして、スマートフォンとタブレットにフォーカスすることで、ソフトバンクがユーザーの関心を引きつける力も上がっており、結果としてARPU向上と加入者獲得の両方を同時に実現している。
このような事業構造の転換を図るための考え方として、孫社長は「競合に先駆けて未来への投資を行うこと」を挙げる。ソフトバンクの携帯電話事業自体、2006年に当時苦境に陥っていたボーダフォン日本法人を、兆単位の借金をしてまで取得したところから始まったものだ。「多くの人は私のことを“クレイジーなやつだ”と酷評する。私もそれは認める。絵年前、このような成長を遂げられるとは誰も信じてくれなかった。ボーダフォン買収は極めてリスキーな投資で、大きな賭けだった。当時ソフトバンクの株価は急落した」(孫社長)
しかし、モバイルインターネットの時代が来ることを確信して行った投資は、その後の大胆な料金戦略やiPhoneへの注力で実を結び、ソフトバンクグループの売り上げの大半を占める主力事業となった。孫社長は、近い将来のインターネット利用のトレンドを先取りしている例として、ソフトバンクが2月3日に株式の35%を取得した中国のオンラインテレビサービス「PPLive」(http://www.pplive.com/)を取り上げた。このサービスは1億以上の月間アクティブユーザーを擁し、1ユーザーあたりの平均視聴時間は2時間33分/日と、中国のオンラインサービス中最長の利用時間を誇る。さらに興味深いのは、中国の20代・30代の間では、オンラインテレビの視聴時間と従来の地上波テレビ放送の視聴時間が既に逆転しているという調査結果である。
基調講演の後に行われたパネルディスカッションで孫社長は「この30年間で、デジタル機器はCPUスピード、メモリ容量、通信速度は100万倍に加速した。これは始まりに過ぎず、今後30年で次の100万倍の進化が訪れる」と発言。また「自動車のエンジンの性能は30年で倍程度の進化だが、デジタル産業は100万倍。デジタルのビジネスでは、他の業界に比べ大きな想像力が求められる」と述べるとともに、「人間の数は限られているが、人対マシン、マシン対マシンの通信需要は無限にある」とも話し、一見“憂鬱”に見える通信市場には、これまでよりもさらに大きなビジネスのチャンスが無数に存在すると指摘した。
《日高彰》
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