【ニールセン博士のAlertbox】KinectのジェスチャーUI: 第一印象(前編)
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
ジェスチャーには一貫性がなく、コマンドははっきりしない。警告は見落としやすく、確認ダイアログは不便である。でも、プレイは楽しい。
Kinectは体の動きによって完全にコントロールできるというビデオゲームの新しいシステムである。なんとなくWiiに似ているが、コントローラーは用いない(そして、テニスで攻撃的なスイングをしていて、Wiiのリモコンスティックを手から離してしまい、リビングルームがめちゃくちゃになるというリスクもない)。
Kinectはビデオカメラを通して、ユーザーを観察し、手や腕、脚、全体の姿勢等の身体の部位から構成されるジェスチャーを認識する。例えば、私はKinectのフィットネスのプログラムから「もっと深くスクワットしなさい」とよく言われるのだが、それは私の身体全体がどのように動いているかをわかっているからこそ可能なことといえる。身体の動きをここまで細かく解析する能力はWiiのそれを大きく超えている。まだ、私のジムのトレーナーを失業させるほどではないとしても。
Kinectが提示しているのは、高度なラボ以外の場所で目にしていた、これまでのあらゆるシステムより、さらにずっと進化した、ジェスチャーに基づくユーザーエクスペリエンスである。 そう、1985年というかなり昔に、最先端の学会で似たようなインタフェースを私は見た。それのもっとも有名な例がMyron KruegerのVideoplaceである。しかし、100万ドル規模の研究システムと150ドルのXboxのアドオンでは大きな違いはある。
Kinectは、特にその価格の安さを考えると、驚異的な進化であるといえる。その一方、ジェスチャーによるUIの研究が実用化されるまでに25年かかったというのは、HCI研究の進歩の一般的な結果に比べると、やや遅いともいえる。例えば、Doug Engelbartによるマウスの発明(1964年)から、マウスをベースにした最初のコンピューターの商用化(1984年のMac)までにかかった時間は20年だったからである。
■ジェスチャーベースのUI = ユーザビリティ上の弱点
Kinectが示している弱点はいろいろとあるが、ジェスチャーによるインタフェースのユーザビリティ上の問題についての分析の中で、Don Normanと私が挙げたのは以下のような点である:
―可視性
選択肢がメニューとしてはっきりと表示され、見ればわかるようになっているときもある。しかし、ゲームをプレイしている間にできることのほとんどに対して、画面上ではなんの明確なアフォーダンスも与えられていない。そもそも、ユーザーはゲームが始まる前に、提示される手順を記憶し、それを頼りにしていくしかない。(しかし、当てにならないことが多い人の記憶というものに依存することを減らそうというのは、重要なヒューマンファクターの原則ではある)。
例えば、Kinect Sportsで幅跳びをするのに前方向に長く跳ぶためには、上に跳べばよいなど、どうすればわかるだろう。動きとして全く論理的でないではないか(それが走り高飛びのために高く跳ぶための動きというならもっと納得できるかもしれないが)。そして、こうしたことは、もちろん、あなたのアバターがスタジアムに入場する前に、読んだことを思いだして、やっていかなければならないのである。
Kinectが示す可視性の問題には別のタイプのものもある。それは、ユーザーの注意が別のところに向いているため、画面上のアラートが見落とされやすいということである。こうしたことは、モバイル機器のタッチ式のUIではめったに起こらない。機器自体が小さいため、画面上にポップアップされたものは、なんであろうと目に入るからだ。対照的に、ウェブページ上が雑然としていると、ユーザーはエラーメッセージを見落とすことが多いといえる。
Kinect上でユーザーがメッセージを見落とすのは、画面が雑然としているからではなく、自分が動いているからである。例えば、Kinect Adventuresをプレイ中のユーザーを観察しているとき、画面の左上には、床の上で場所を移動するよう、警告メッセージがたびたび出されていた。そう、ユーザビリティの観察者として言うが、私にはこの警告は見えていたのである。しかし、ゲームをプレイ中のユーザーの目にそれは入っていなかった。彼らは画面の中心でなんとか動こうと必死だったからである。彼らが見ていたのは、自分のアバターとゲーム空間であり、画面の隅に出ていた、UIの見かけ倒しの機能には気づいていなかった。
似たような、でも、これほど、深刻ではない問題は、Your Shape: Fitness Evolvedで、激しい有酸素運動のプログラムをひととおり行おうとするときに起きる。1セット中でまだ繰り返さなければならない回数が隅に出ているが、トレーナーと、彼女の動きに付いていくことに集中してしまい、それを見落としてしまいがちなのである。
ゲームで本来の動きをすることの邪魔をせず、システムからのメッセージにユーザーが気づきやすくするというのは、今後、デザインの
―フィードバック
可視性が足りないことに関連していうと、ある動きによって、どうして特定の効果が起きるかがわかりにくい。なぜならば、そこには直接的なフィードバックがほとんどないからである。卓球のゲーム中に、強打をしようとして、ラケットでボールを打つ真似をすれば、ボールを「打つ」ことができたかどうかを示すフィードバックを、確かに、即、得ることができる。しかし、なぜたまに強いスマッシュが打つことに成功するのか、その理由を解明するのは難しい。手を動かすスピードだけがその理由ではないということははっきり言えるが。
Kinectはあなたがたの動きを直接、観察することによって、すばらしいフィードバックをもたらしてくれることもある。Dance Centralでは、画面上のダンサーの動きについていこうとするわけだが、ダンサーの身体の部位が光ることによって、自分の踊りがうまくいってない所がわかるようになっている。これは声で「左の腕をもっと上げてください」と言われるよりも、優れた(そして、邪魔になりにくい)フィードバックである。
―一貫性と基準
ジェスチャーによるインタラクションに共通の基準がまだないということ、それ自体が問題といえる。なぜならば、それは、UIが学習行動を当てにできないということだからである。しかしながら、Kinectにはシステム共通の基準がいくつかはあり、それはユーザーの助けになっている。
例えば、メニューを呼び出すためにゲームを中断するには、1つの標準的な方法が存在する。それは、立った姿勢で、右腕を真っ直ぐに下ろし、左腕を45度の角度に上げて、保つことである。自然体ではありえないポーズというわけだ。実際のところ、たぶん、ふつうにゲームをしていれば起こりえないポーズだからこそ、それが選ばれたのだろう。
中断用のジェスチャーはユーザーにとっての頼みの綱なわけだが、それ以外の皆が欲しがっている、「back(:戻る)」のような汎用コマンドには基準がない。このことによって、ユーザーがUIをナビゲートするのは、さらに難しくなっている。というのも、こうした基本的な操作をいちいち解明していかなければならないからである。同じことが別のゲームでは違うやり方で行われていると、学習機能というのは働きにくい。
以下の2つのスクリーンショットが示すように、「back(:戻る)」のためにどちらの手を利用するか、どのジェスチャーを利用するかはもちろん、その機能を視覚的にどのように示すか、ですら、統一されていない。
少なくとも、デザイナーがユーザビリティテストを実施したということはわかる。つまり、Dance Centralの一貫性のない「Back(:戻る)」コマンドの隣に「left hand(:左手)」と書いた付箋を貼り、UIに応急処置をしているからである。GUIウィジェットに説明が必要だとしたら、そのやり方はたぶん間違ってはいるが。
Kinect Sports内では、ボーリングのボールや、円盤、槍を投げるために使う動きは異なっているし、さらには、卓球のボールを強く打つために使う動きと、サッカーボールをキックするための動きも違う。しかしながら、ゲームをまたがるこの一貫性のなさはそれほど問題にはならない。なぜならば、そのデザインには外の世界にある一貫性が組み入れられているからである。つまり、このゲームのジェスチャーは現実世界でこうしたものを扱うために利用されるジェスチャーに類似しているのである。
《RBB TODAY》
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