「スマホとクルマ、ライブラリ再生とストリーミング再生の融合」…メディアクリック大田育生の挑戦
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
このふたつによって音楽は建物の中から解き放たれ、人々の可処分時間を多く獲得できるようになった。音楽文化と音楽ビジネスの広がりが、そこから始まったのである。
音楽メディアをとりまく環境も大きく進歩した。往年の磁気テープ時代からCDになり、MDを経て、今ではHDDオーディオやシリコンオーディオが主流派になりつつある。音楽配信があたりまえになり、ユーザーはすばやく、膨大な音楽コンテンツにアクセスできるようになった。
そして、現在。人々の"音楽シーン"がスマートフォンにも広がる中で、新たな音楽サービスが始まった。メディアクリックがAppleのiOS向けに提供する「ON-GAKU」である。
ON-GAKUとはどのようなものなのか。そして、スマートフォンとクルマが急速に接近する中で、どのような狙いを持っているのか。メディアクリック代表取締役社長の大田育生氏に話を聞いた。
◆シチュエーションに応じて最適な音楽を再生
メディアクリックが提供するON-GAKUは、スマートフォン内に保存されている音楽を自動的に選曲・再生するプレーヤーアプリだ。というと、AppleがiOSのミュージック機能に内蔵している「Genius」に類似しているように思えるが、ON-GAKUがユニークなのは、"シチュエーションにあわせて最適な選曲すること"。この部分のクオリティに、メディアクリックの技術とノウハウがつまっている。
「ON-GAKUの選曲では現在地や日時、季節、その日の天気など様々なリアルタイム情報をスマートフォン側から得て、それに基づいて最適な選曲を自動的に行っていきます。すでにカーナビに提供している『Music Stylist』機能と同じように本物のDJの音声によるコメントや曲紹介とともに再生します。ON-GAKUではこの自動選曲の機能に『MY DJ』という名前をつけていますが、まさにラジオ番組を制作するようなイメージですね」(大田氏)
iPhoneなどのスマートフォンは、GPSによる位置情報と時刻情報、通信機能を内蔵している。これを用いることでユーザーが「音楽を聴くシチュエーション」を判別。ON-GAKUアプリ内でユーザーのiPhone内にある音楽ライブラリの中から、最適な楽曲を選んでいき、再生していくという仕組みだ。一般的な音楽プレーヤーの「シャッフル再生」や類似性の高い曲をグループ化して再生するAppleの「Genius」と違い、"シチュエーションにあわせて再生曲が選ばれる"ため、聴いていて唐突感がないのが特長である。
この「シチュエーションにあわせた選曲」を行うには、スマートフォン側のリアルタイム情報だけでは不足だ。より的確に曲を選ぶために、"その楽曲がどのようなシチュエーションに合致するのか"を把握する必要がある。そこでメディアクリックでは独自にメタデータ(データの内容を知るための付加情報)を制作。ON-GAKUでは、このメタデータとスマートフォンのリアルタイム情報を組み合わせることで、選曲のクオリティを高めている。
「我々が持つメタデータは、邦楽30万曲、洋楽で30万曲分。さらに今後のアジア展開を睨み、中国の楽曲2万曲分を用意しています。これは(音楽のメタデータとしては)国内最大規模のデータベースです。
しかも、このメタデータはかなり細かな項目で楽曲を分析している。(楽曲内で描かれている)季節や時間、天気といった情報だけでなく、『どのようなシチュエーションに合うか』や『どのような気分で聴く曲か』といった雰囲気の部分まで踏み込んで解析しているのです」(大田氏)
むろん、歌詞の内容や曲の雰囲気まで把握することは、どれほどのビッグデータを用いても機械的なデータマイニングや曲調解析では不可能だ。心のひだに寄り添うような音楽の機微はコンピューターにはわからない。そこでメディアクリックではあえて人の手で、この巨大なデータベースを構築している。
「あまり詳しいことは申し上げられませんが、我々のメタデータは音楽業界の協力を得て、プロの方に実際に楽曲を聴いてもらって『曲の内容・雰囲気』を判断してもらい、データ入力してもらっています。このような人の手によるデータベースを構築し、データ制作のスキームを持っていることがメディアクリックの特徴であり、強みと言えるでしょう」(大田氏)
この"メタデータの精度の高さ"は、ON-GAKUを試してみるとすぐにわかる。MY DJの自動選曲がシチュエーションに最適化されているのはもちろん、自分で聴きたい曲の条件を細かく設定する「SELECT PLAY」でも的確な選曲が行われる。また、ユニークなのが「WALKING PLAY」というメニュー。これはその名のとおり、ウォーキング用のプレイモードであり、30分や60分といったウォーキング時間にあわせてDJがアドバイスや励ましとともにハイセンスな選曲が行われる。
◆MY DJに紹介・販売を織り込み、音楽ビジネスを活性化
ON-GAKUでは、音楽ビジネスの面でも興味深い計画がある。それが新譜の紹介機能だ。
前述のとおり、ON-GAKUのMY DJではスマートフォン内にあるユーザーの音楽ライブラリの中から、シチュエーションにあった選曲を行う。しかし、再生が進むと"自分が持っていない新曲"をDJが紹介し再生される。これが新譜紹介の機能である。曲紹介や曲のデータはライブラリ内の曲の再生中にバックグランドでキャッシュされているので、回線による音声劣化や音切れはない。さらに、ここでもメディアクリックのメタデータが活用可能ため、MY DJ内で紹介されるのは"ユーザーの嗜好とシチュエーションにあった楽曲"にできる。
「スマートフォンの通信機能を活かして、新曲だけでなくDJのトークやニュース、天気予報、ガソリン価格情報なども音声データとして送ることができます」とライブラリ内の楽曲再生とダウンロードキャッシュの再生のさらなる融合が大田氏のビジョンなのだ。
「ユーザーが所有していない楽曲の紹介・販売機能はまだ試行錯誤の段階ですが、スマートフォンでは(楽曲が買える)オンラインストアにもダイレクトで誘導できるため、相性はとてもいいと思います。著作権処理において、レコード会社やJASRACと調整しなければならない部分がありますが、我々としては音楽販売の裾野を広げる意味でも、音楽業界とよい関係を築きたいと考えています。
また、MY DJでのストリーミング再生以外にも、ON-GAKU内に『新譜紹介』や季節に合わせた『お勧め』のコーナーを設けており、音楽販売サイトへの誘導を行っています」(大田氏)
MY DJ内での新譜やお勧め曲のストリーミング再生はユーザー所有の音楽ライブラリに混じって行われるため、ユーザー側からすると唐突感がなく、自然に受け入れられる。そのためメディアクリックとしては「レコード会社にとって、これまでのFMやコンビニで流れる有線放送のように利用できる、スマートフォン向けの新たなプロモーション機会」(大田氏)と位置づけ、今後、音楽業界との提携を進めていきたいという考えだ。特に現在ON-GAKUアプリが提供されているiPhoneはミュージックプレイヤーとして使うユーザーも多い。そのためメディアクリックとレコード会社がうまくコラボレーションすれば、この新たなスキームが成功する可能性は高いと言えそうだ。
◆近い将来には「クルマ連携」も
ON-GAKUの持つ"シチュエーションにあわせた選曲"という特長は、ドライブシーンにも最適だ。日時・天気による選曲は通勤時の気分を盛り上げてくれるし、位置情報に基づいた選曲はロングドライブを楽しいものにしてくれる。より踏み込んでいえば、ON-GAKUは「ドライブシーンでこそ使いたい」とも言える。
このようなニーズはメディアクリックでも理解しており、2012年中をめどに"ON-GAKUとクルマ連携"の機能が強化される計画だ。
「具体的な部分はお話しできませんが、すでに某メーカーと共同開発に入っています。iPhoneなどスマートフォン接続対応のカーナビと連携し、ON-GAKUをカーナビから利用できるようにする計画になっています」(大田氏)
すでにiPhoneではカーナビとBluetoothやケーブルで接続する仕組みができはじめているが、これらのスキームを活用しつつ、車載モードが用意される模様だ。この際には単純にカーナビとつながるだけでなく、UI(ユーザーインターフェイス)やメタデータと連係するドライブならではの新たな項目も加わる可能性があるという。
「我々としては、まずは(ON-GAKUを)スマートフォンでなじんでいただき、それをクルマ向けにも展開していく形にしたい。スマートフォンと音楽で新たなサービスを作り、それをクルマにも広げて使っていただければと考えています」(大田氏)
「アメリカのカーオーディオやカーナビは『PANDORA』というインターネットラジオと連携させることがトレンドになっています。著作権の関係で『PANDORA』のようなインターネットラジオは日本では行えませんが、日本ならではの車内音楽環境をつくりあげたい」(大田氏)
音楽シーンの進化は常にモバイルから行われてきた。リアルタイム情報とメタデータを活用し、音楽の楽しみ方を広げるON-GAKUが、スマートフォンとクルマの音楽環境をどれだけ変えるか。そして新たな音楽ビジネスの可能性を広げるのか。今後の取り組みを見守りたい。
《神尾寿@レスポンス》
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