iOS/Androidアプリ開発の今後はどうなる? 2012 CROSS「スマートフォンの未来を語る」セミナーセッションレポート
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このイベントのセミナーセッションにおいて、メイン会場でおこなわれた「スマートフォンの未来を語る」に参加。その模様をレポートしよう。
登壇者は、「日本Androidの会」からゲームクリエイター/システムアーキテクトの安生真氏(ケイブ)、「Titanium勉強会」から増井雄一郎氏(Appcelerator)、そして「Yokohama iPhone Developers」から吉田悠一氏(デンソーアイティーラボラトリ)の3名。
3名はそれぞれAndroid、iPhoneそしてひとつのソースコードからiPhone OS/Android両方のプラットフォームに向けてモバイルアプリケーションを構築できるTitaniumの開発者・システムアーキテクトという立場から、Android/iPhoneなどプラットフォームにおける開発ノウハウ、そしてマーケットの動向などを語り合った。
2時間半の長時間ディスカッションで話題は多岐に渡るが、ここでは議題の中心となったモバイルアプリのマネタイズと、アプリ開発の将来的な動向を中心に報告したい。
■「Androidアプリは儲からない」は本当?
まず吉田氏は、アプリ買い切りというビジネススキームはメンテナンスが非常に重いと指摘する。「バグ修正や、OSのアップデートに対応するといったメンテナンスは特に個人においては重い。数ヶ月前に書いたソースコードを見てもわからない」(吉田氏)。
また、Androidについては「端末数が多く、検証が開発の負担を重くしている」と安生氏は述べる。「とくに(ケイブのような)ゲームメーカーがスマートフォンアプリを作るとユーザーも相応のクオリティを求められる。しかもアプリ価格はパッケージよりも確実に安い」(安生氏)。
増井氏は、AndroidとiOSのアプリ購入動向について言及し、「同じアプリをAndroidとiOSで出すと、売り上げ費は1:10くらいで、10倍くらいiPhoneのほうが売れると聞いている。Androidはほぼ全滅で、アイテム課金が若干ある程度」(増井氏)。
安生氏はこれに対して「最近はそうでもない。iPhoneと比較すると母数が違うので、課金するレベルで比較するとAndroidのほうがよかったという例もあるくらい」と述べ、「これまではiOSに搭載されたアプリ側の機能が半年遅れでAndroidにやってくるみたいな流れがあったが、最近ではAndroidの方が早く実装されていたりすることもある」など、Androidの開発ノウハウも蓄積されてきているという。
増井氏は、買い切りのマーケットでは開発者のモチベーションを維持するのは難しいが、「広告ならば(収入は)薄いが継続して入ってくる」と述べると、吉田氏は「Androidは広告システムの貧弱さやAPIのダサさは何とかならないものか。アプリ開発で収益を上げようとした時に、広告の部分がメインストリームになるというのならもっと広告システムをよくしないといけない。おそらくWebのシステムをクライアントサイドに持ってきているところに齟齬ができてしまっている」とスマートフォンでの広告システムの貧弱さがマネタイズの課題だと指摘する。
■低価格競争に歯止めを
ただ安生氏は今後の見通しとしては「お金の流れは良くなってきている」として比較的楽観的だ。その要因として、「課金トラフィックをチェックしているGoogleの部署から「最近日本からの課金トラフィックが普通じゃないのだが?」という問い合わせが国内の担当者にきたらしい。つまりmobage、GREEのスマホ対応がはじまったことが大きいのだろう」と述べ、ユーザー心理として課金アプリへの支払いに対する敷居は着実に低くなっていると分析する。
一方吉田氏は、アプリの低価格化に危機感を抱いているという。「アプリの購入平均価格は高くても500円だろう。それではアプリの売り切りで開発費を回収するのはむずかしいが、数を売るためにベンダーは値下げ合戦して、ものすごいチキンレースになっている」(吉田氏)と述べ、アップル自身が「Keynote」などの優良なアプリを低価格で出していることを問題視。
増井氏も、「(iOSの場合は)85円が最低価格になっているが、もし10円とか50円とかの最低価格が設定されることになれば、人気を博すのはそういうアプリがほとんどになるだろう」と指摘。安生氏は「プラットフォーム側は(ベンダーに対して)“大丈夫です。儲かります”と言うんだけどね(笑)」と笑いをとると、吉田氏は「このままではジリ貧になって誰も幸せにならないというのが待っている」と改善を強く望んだ。
■iOS/Andoroid両対応は一筋縄でいかない
モバイルアプリで事業をおこなおうとしている企業にとっては、AndroidとiPhoneという2大プラットフォームへの対応は不可欠となっているが、そのためベンダーには双方への対応を求められることが多くなっているという。「スマホやっているんだから、AndroidとiOS両方やってよ、と簡単に言われると困ってしまう」(安生氏)。
増井氏は「本当にユーザーに使いやすいものにしようとすると、開発全体の1〜2割はプラットフォームごとの書き分けがどうしても必要になってくる」とユーザーインターフェースの最適化は不可欠と述べる。
同一のソースコードでAndroid/iOS双方のアプリケーションを構築できるTitaniumにしても完全ではなく、ハードウェアの「戻る」ボタンの有無やOSのバージョンアップなどが原因でインターフェースに起因するバグを解消しきれないという。「Titaniumは両方の対応するコードを書くことができるというだけで、使いやすいものにするにはまだまだプログラマが苦労しなければならない」(増井氏)と現状を説明する。
しかしそれでもAndroid/iOS双方で別々に開発を進めるよりも効率は良く「もともとiOSだけでつくっておいて、Androidでビジネスラインに乗りそうだったら対応させるためにTitaniumではじめから開発するという例もある」(増井氏)と言い、将来を見据えて同じソースコードをベースにしておくことには意味があると述べる。
■HTML5はモバイルアプリ開発においても今後の主流に
また、HTML5によるスマートフォンアプリ開発について話が及ぶと、安生氏は「以前よりもスマートフォンで出来ることは増えてきた」と将来的な可能性に期待を寄せる。
増井氏は「現状ではすべてをHTML5で、というのではパフォーマンスが出ない。一部はHTML5、一部はTitaniumでみたいな使い分けは可能性がある」と述べ、吉田氏も「HMTL5での開発は今後メインストリームになる。プラットフォームの違いを吸収でき、たとえばソーシャルゲームの場合はユーザーの動向をウォッチしながらチューニングしていく必要があるのでwebベースの方が効率的」と語るが、一方で、現状ではプラットフォームやブラウザによっては同じように動くところまでは完成されていないことも指摘した。
吉田氏は最後に「アップルの功績は“速さ”がもっとも重要であることを知らしめたこと。アプリもキビキビ動かないとユーザーに離れられてしまう。その点、Androidはまだ完全ではない」と述べると、増井氏は「私も初期のAndroidを使って失望した口だが、最近のAndroid端末はものすごくレスポンスがいい。0.1秒の差でも体感的な印象は大きく変わる」と同意した。
他のセッションの音が入って若干聞き取りづらかったり、2時間半に及ぶ長丁場のディスカッションのため議論の方向性がやや散漫になった部分もあったが、奔放で鋭い舌鋒の吉田氏、穏健な安生氏、両者のバランスを保って的確に話題を振る増井氏という3者のキャラクターがうまく引き出されたカンファレンスだった。
《北島友和》
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