【テクニカルレポート】LED照明駆動用IPDの開発……パナソニック技報(後編)
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
3. LED照明駆動回路の特徴
今回のLED照明駆動回路の特長は下記の2点である。
(1)電解コンデンサレスの1コンバータ型PFC
(2)トライアック調光器への対応
以下にその内容について述べる。
3.1 電解コンデンサレスの1コンバータ型PFC
〔1〕力率改善の目的
力率は有効電力と皮相電力の比率であり、電圧と電流がサイン波でその位相差がφであればcosφで表される。力率が1より小さいということは、同じ電力を受け取るために無効電力が線路を往復することを意味する。無効電力のやりとりは、電力が行き来する際に線路の直流抵抗分で熱としてロスしてしまい電源には戻らない。近年では省エネの観点から、このロスを防ぐために力率を規制する動きとなっている。
入力電圧サイン波形に対して、入力電流波形も位相が同じサイン波形に近い形になればなるほど、力率は上がっていく。しかし、通常のスイッチング電源では安定動作をさせるために入力電圧を平滑する必要があり、平滑用の電解コンデンサが必須であった。この場合、整流後の電圧がコンデンサ電圧より高いごく短い期間にだけコンデンサへの充電が行われる。この結果、入力電流波形は導通角の短いとがった波形となり、力率の悪化や、高調波を発生する原因になる。
〔2〕1コンバータ方式の実現
通常、力率改善のためには、前段に力率改善用の昇圧コンバータを設け、後段にエネルギー変換用のコンバータを設ける2コンバータ方式となる。また、入力電圧平滑用の電解コンデンサが必要であった。
しかし、今回のLED照明駆動回路は、第4図に示すように、非絶縁ローサイド降圧チョッパー回路の1コンバータ方式である。また、入力電圧を平滑するための電解コンデンサは不要である。
全波整流後の入力サイン電圧は抵抗によって電流に変換されてCL端子に印加されるので、CL端子印加電流は入力サイン電圧波形に応じてリニアに変化する。この結果、入力サイン電圧波形に応じてIPDに流れるドレイン電流値が変化するため、第5図に示すように入力電流波形も同様に変化する。このようにして力率改善を図ることができる。
第5図でパワーMOS-FETのドレイン電圧波形がサイン波形になっているのに対して、ドレイン電流波形のピーク部はある値でクランプされている。これはEX端子であらかじめ設定された最大のピーク電流検出値に達しているためである。
3.2 トライアック調光器への対応
トライアック調光器は第4図の駆動回路には記載されないが、整流前の入力ラインに接続され、入力サイン波形のゼロクロス点に対して任意の位相差を持つトリガパルスを入力して電力位相を制御できる原理を利用した機器である。ボリューム調整をすることによりトリガパルスの位相差を自由に変えることができ、白熱電球に印加する電力を調整することで調光を行っている。
トライアック調光器をLED照明器具に利用する場合の課題への対応方法について述べる。
〔1〕入力電圧波形の位相情報の検出
第6図に示すように、トライアックがオフの期間は、トライアック調光器から出力される電圧、すなわち駆動回路への入力電圧がほぼゼロになるため、CL端子の間欠発振機能によりIPDの発振が停止する。トライアックがオンの期間は、トライアック調光器から出力される電圧に応じて、パワーMOS-FETのドレインピーク電流が変化しながら動作する。トライアック調光器により動作位相角を小さくしていくと、調光器から電圧が出力される期間、すなわちIPDが動作できる期間が短くなる。さらにCL端子機能により、ドレイン電流ピークが小さくなるため、光束の低い(暗い)状態まで調光が可能である。
〔2〕 トライアック調光器の誤動作対策
トライアックがオンした瞬間に突入電流が流れて入力電流のリンギングが発生すると、瞬間的にトライアックに電流が流れなくなり、トライアックがオフする場合がある。また、トライアックは保持電流と呼ばれるある一定の電流が流れていないと動作が停止してしまい、トライアック調光器が誤動作する。
トライアック調光器が誤動作すると、LEDの“ちらつき”や、スムーズな調光ができないなどの問題が発生する。
そこでトライアックが正常な動作を保持するために、第4図の“3 トライアック調光対応部品”に示すように突入電流防止とトライアックに保持電流を流すための部品を接続することで対策できる.
4. LED照明駆動特性
LED照明器具は各国の安全基準に対応するために、電源仕様別に設計することが多い。今回の評価では入力AC100V系(AC85V~AC138V)とAC220V(AC187V~AC264V)系に分けて、それぞれいくつかの部品定数を変更している。また、非調光時にはトライアック調光対応部品は外した状態で評価している。
出力はLED12個を直列に接続した場合を前提としており、出力電圧Vo=37V、出力電流lo=315mA、出力電力Po=12Wの場合の結果である。LEDは順方向電圧のばらつきが大きいデバイスであるため、出力電圧が変動した場合を考慮して、出力電圧は34V、40Vも評価した。
4.1 非調光時の力率
力率改善にはIPDの制御方法に加えて周辺部品の定数設定も重要である。例えば、第4図のC2、C3容量値が大きすぎると、コンデンサに流れ込む突入電流が大きくなるため、力率が低下する。逆にC2、C3容量値が小さすぎると、入力電圧が不安定になり発振開始時の入力電流に高周波数のリンギングが発生して力率が低下する。また、CL端子に接続するR(CLa)、R(CLb)の抵抗値の設定が適切でないと、発振開始時のドレインピーク電流値が高くなり、入力突入電流が大きくなるため、力率が低下する。
第7図に示すように、周辺部品の最適化後の評価結果はAC100V系、AC220V系共にエナジースター規制(PF>0.7)をクリアしており、実力はPF>0.9である。AC220V系の方が力率が低下するが、これは第5図の入力電流波形からわかるように、同じ電力を出力する場合、高入力電圧の方が少ない入力電流となるからである。
4.2 出力電流と変換効率
〔1〕出力電流の入力電圧依存性
入力電圧変動に依存してドレインピーク電流値の最大値が変化するのを補正するには、第4図の“2 入力電圧変動補正回路”が必要となる。この回路、設定された入力電圧になるとトランジスタQ1がオンし、CL端子電圧と抵抗REで決定される電流が流れる。また、入力電圧が高くなると抵抗R(CLa)、R(CLb)に流れる電流が増加するが、抵抗REに流れる電流も増加するため、CL端子に印加される電流が補正される。この結果、第8図に示すように入力電圧変動±15%に対して、出力電流変動を±5%以内に抑えることが可能である。
〔2〕変換効率
変換効率nは高いほど望ましいが、トランスを使用するフライバック電源の場合は、n>70%程度が一般的である。これはエネルギー変換の際にトランスの漏れインダクタンスなどによるロスが生じるためである。
第9図に示すように、本製品はAC220V系でもn>80%の高い効率を実現できる。
なお、第4図のトランスT1の補助巻線は、“4 LEDオープン保護回路”のためのものであり、LED電流のエネルギー変換には無関係である。補助巻線を付与したトランスを用いて、1次巻線とバイアス巻線の巻数比で決定される電圧以上になることを防止している。
5. トライアック調光
トライアック調光器を使用する場合は第4図の“3 トライアック調光対応部品”を接続した状態で評価した。位相角に対する出力電流の変化を、第10図に示す。
調光器はAC100V系では当社製WNP575280、AC220V系では当社製WLO1727を使用した。
消灯状態から最大電流までスムーズな調光特性を得ることができた。
6. まとめ
今回、力率補正機能と調光機能を内蔵したLED照明駆動用IPDを開発した。本製品はフィードバック回路を使用しないで定電流制御が可能である。本製品を使用したLED照明駆動回路は、入力AC100Vの場合、出力電流精度±5%、力率0.98、効率85%の出力11WのLED照明電源を実現することができた。
今後は、さらに定電流精度の向上と少部品点数を両立できる新たな制御方式を開発して商品展開を図っていく。
■執筆者紹介
國松 崇 Takashi Kunimatsu
デバイス社 半導体事業グループ
河邊 桂太 Keita Kawabe
デバイス社 半導体事業グループ
石田 敏文 Toshifumi Ishida
デバイス社 半導体事業グループ
※本記事はパナソニック株式会社より許可を得て、同社の発行する「パナソニック技報」2012年4月/Vol.58 No.1収録の論文を転載したものである。
《RBB TODAY》
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