【テクニカルレポート】業務改善につなげるエネルギー見える化の推進……NEC技報 | RBB TODAY

【テクニカルレポート】業務改善につなげるエネルギー見える化の推進……NEC技報

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図.1 電力消費インジケータ(画面例)
図.1 電力消費インジケータ(画面例) 全 5 枚
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<要旨>

 電力供給や法規制が厳しさを増すなか、エネルギーの見える化は、単なる見える化から業務改善のための見える化へと発展しつつあります。本稿では、そのための見せ方や分析方法について事例を交えて紹介します。

<キーワード>

・省エネ ・見える化 ・エネルギーマネジメントシステム(EMS)

・業務改善 ・エネルギー分析

1. はじめに

 2010年4月の改正省エネ法や東京都環境確保条例の施行で、企業の省エネ担当者は法規制の対応に苦慮されたことと思います。その後、法規制のための報告も無事終わったところに震災による停電や電力不足と、2011年は新たな試練に見舞われました。大口需要家(契約電力500kW以上)に対しては15%節電(電気事業法第27条)が義務付けられ、前年のピーク電力の15%カットが至上命題となりました。各社・各位の努力の結果、東京電力管内における2011年夏の高気温発生時の需要水準は、前年と比較して約900万kW~約1,000万kW低い水準となりました。

 この節電を実現できた背景には、工場の土日稼働、空調の設定温度の変更、照明の間引きなど働く人々の努力が必要不可欠でした。また、節電義務ではなく節電協力となった小口需要家(契約電力500kW未満)や家庭・個人においても、同じような努力が求められました。

 私たちNECグループでも、節電対策プロジェクトを設置して、使用する最大電力を前年比で15%削減することを遵守目標に設定し、節電施策を(1)平常節電、(2)夏季節電強化、(3)緊急停止の3段階で節電の具体的施策を実施しました。その結果(1)平常節電だけで21%の電力カットを実現し、最終的には東京電力管内で27%のカット、東北電力管内で29%のカットを達成しました。

 しかし、原子力発電所の問題もあり2012年夏も厳しい電力需給見通しとなりそうです。そのため、「見える化」で真の原因を追求して業務改善につなげ、我慢の省エネからの脱却を図る必要があります。本稿では、見える化を単なる見える化から業務改善にまで発展させる過程を、次のSTEP順に紹介します。

STEP1:結果のフィードバック

STEP2:機器利用における無駄の発見

STEP3:業務プロセスの無駄の発見

STEP4:現場の自主行動で業務改善

2. 我慢の省エネから業務改善へ

2.1 見える化の取り組み

 2011年の夏、「見える化」による従業員の節電意識向上を図った企業は多かったのではないでしょうか。弊社グループも、「電力消費インジケータ」(図1)を社員が毎日必ず見るポータルサイトに掲載し、事業所ごとの現在の使用電力量と目標ピーク電力量に対する割合をパーセント表示するとともに、ひと目で分かる信号のような色分けで従業員の省エネ意識向上に努めました。

2.2 STEP1:結果のフィードバック

 「自分たちの努力が目に見える形で現れる」これは、省エネ実践を一過性に終わらせず継続させるための必須要件です。ただ、残念ながらこの総量のフィードバックからは、具体的な施策との因果関係や無駄を発見するのは困難と言わざるをえません。総量のフィードバックで自分の努力結果が分かりやすいのは、例えば電力会社から毎月届く利用明細です。現在では前年同月比の数値も表示されており、自分たちの努力の結果をフィードバックとして活用することができます。ただし1カ月分をまとめた情報のため、具体的にいつのどの施策が効果的だったのかは把握できません。次のSTEP2では、機器利用における無駄の発見のための「見える化」について紹介していきます。

2.3 STEP2:機器利用における無駄の発見

 見える化の情報も、肝心の情報が総量や1カ月の積算では、更なる省エネの実現に役立てるのは容易ではありません。もっと詳細な電力データを時系列で計測する必要があります。例えば家庭の電力を計測、見える化する仕組みに「HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)」があります。これは、家庭の分電盤に電力測定装置を設置し、ブレーカごとの電力使用量を計測するなどのシステムのことです。HEMSを活用すれば、タイムリーな省エネ結果のフィードバックが可能です。例えば、エアコンの設定温度を変更したことでどのくらいの節電効果があったのか、誰もいないはずの部屋で電力を消費している家電が存在するなど、効果測定の情報を得たり、タイムリーな無駄を発見することが可能となります。また、削減数値が電力量やパーセント表示のみならず円換算された削減可能な電気料金として表示されることにより、より消費者の省エネ意欲が向上すると思われます。

 この無駄の発見は家庭だけでなく、オフィスや店舗でも同様に取り組むことができます。オフィスや店舗の分電盤にブレーカ単位にセンサを設置し、分単位の電力データを計測します。その際オフィスや店舗では計測点数が多くなることが予想されるので、あらかじめカテゴリを分け、ひと目で傾向が分かり、かつ分析しやすくしておくことが必要です。

 図2はNECの某オフィスで計測した日別の電力データです。平日の総電力量のうち45~50%をICT機器が占めています。このようにまずは機器ごとの使用割合を見て、削減効果の大きなところ、削減余地がありそうなところにめどをつけることが重要です。更に図2を見てみると、人がいないはずの休日も、平日の40%程度の電力が常時使われていることが分かります。ここに削減余地があることが想像できます。同様に1日のなかでも時間帯別に分析することで、早朝・深夜の人のいない時間帯における無駄の削減で、平日の10%弱の電力が削減できる見通しが立ちました。

 次は店舗でもオフィスでも応用できる例です。個別空調を使っている施設は多いと思いますが、空調の消し忘れは最も分かりやすい無駄の発見例でしょう。消し忘れ以外にも図3のように知らない間に無駄に消費してしまっている例もあります。天候が変わりやすい環境では、寒い日が続いた後に急に暖かい日が訪れたり、夏であれば、暑い日が続いた後に急に気温が下がるというような気温の変化がよく起こります。図3は夏の空調の電力使用状況をイメージデータ化したものです。本来空調は気温と相関するので、気温が一定温度より低ければ冷房をつける必要はありません。その場合、図3の上のグラフのように待機電力のみになることが理想です。しかし、前日まで暑い日が続いていたりすると、つい癖で空調の電源を入れてしまうことがあります。誰かが気付くまでそのままということもありえます。図3の下のグラフがその状態です。午前中に必要のない空調が稼働しており、誰かが気付いた瞬間からOFFされていることが分かります。予想気温から空調が必要なさそうだということがあらかじめ分かっていれば、こうした無駄はなくなるはずです。

 また食品小売店舗にある冷蔵・冷凍ケースにも電力削減の余地があります。食品小売店舗における冷ケース、冷凍機の店舗全体における電力の使用割合は一般的に高くなっています。リニューアル店舗であれば省エネケースの一括導入も検討できますが、通常は大きな投資が必要になります。例えばケース内照明の消灯時間を30分早める(閉店後可能な限り早めに消灯)だけでも、電力量を削減することが可能です。これは照明機器の消費電力が削減できるのは言うまでもありませんが、合わせて冷凍機の使用電力も下がるという副産物が付いてきます。こういったわずかな電力使用量の変化も、見える化を行うことにより把握することが可能となります。店舗全体の照明に目が行きがちですが、このようなところにも潜在的な無駄は隠れています。ケース内照明の点灯・消灯時間はタイマーで設定されているのが一般的です。一度設定を変えてしまえば、ずっとこの省エネ施策は継続できます。

 STEP2では、機器の利用状況からピンポイントで無駄を発見する「点の無駄の発見」を紹介しました。次のSTEP3では日々の業務運用や業務プロセスを、省エネ視点で見直すことによる「業務プロセスの無駄の発見」という「線の無駄の発見」の例を紹介します。

2.4 STEP3:業務プロセスの無駄の発見でプロセス改革

 弊社のようにICT機器を多く使うオフィスでは、オフィス全体の使用電力におけるICT機器の占める割合が比較的大きくなっています。パソコンの省エネ設定はもちろんですが、日々の運用の仕方でも最大電力のピークを抑え、電力の平準化に寄与することが可能です。図4は、弊社の某オフィスにおけるICT機器の使用電力量について1日の動きをグラフ化したものです。朝の8時台にピークを迎えているのが分かります。これは弊社の始業が8:30であり、始業と同時に皆がパソコンの電源を入れることが原因と考えられます。デスクトップPCであればやむを得ないですが、ノートPCの場合には必ずしも電源をつないでおく必要はありません。その1、2時間後に来る電力の谷間の部分で充電すれば、ピークを作らず平準化することが可能となります。

 職場によって慣行となっている業務プロセスがありますが、エネルギーの視点で一度プロセスを見直してみると、新たな気付きを発見できる可能性があります。最後のSTEP4は、この気付きによる業務改善指示を省エネ担当者からするのではなく、現場自らが気付き、率先して省エネを含む業務改善活動をしてもらうためのSTEPです。

2.5 STEP4:現場の自主的行動で業務改善

 現場の忙しい人たちが自ら気付き、省エネ活動をしてもらうためには仕掛けが必要です。現状把握のための見える化はもちろんですが、現在の状態が良い状態なのか悪い状態なのか分かるような指標が必要になります。そのためには、最低ここまではやりましょうというベースラインと、ストレッチを含めた目標の設定が重要です。電力消費量はその業種・業態、業務内容によって影響を受ける変数が変わります。例えば、店舗であれば床面積であったり、売り上げであったり、その日の気温によって電力消費量は異なります。オフィスであれば床面積や従業員数、気温などどれもがこの変数になりえます。どの変数を活用すべきかは業種・業態、業務によって異なります。最も適切な変数を選択し、ベースラインを作成することが求められます。図5は最高気温と電力量のベースラインを作成したものです。このベースライン(黒のライン)より下にあれば省エネ行動が実現できていることが分かります。これに目標値(白のライン)もプラスすれば、より高い省エネレベルに引き上げることも可能でしょう。

 見える化で無駄の発見や省エネの余地が発掘されていれば、それに対応する対策に現場自ら取り組むことができるようになります。例えばピークカットの例を考えてみましょう。高圧(500kW未満)契約の企業であれば、契約電力は当月を含む過去1年間の各月の最大需要電力のうちで最も大きい値となります。よって夏の一時期だけでも最大需要電力が大きければ、その後1年間高額の基本料金を払い続けているのが現状です。仮に、この特定のピークに近づいたときだけアラート機能で通知されるとすると、あらかじめ発見された削減余地の施策を実行することで突発的な電力ピークを回避することが可能となります。これはその後の契約電力(基本料金)の低減に大きな効果を現します。ただしこの最大需要電力は、30分ごとに計測されている値が用いられるので、ピークカットの電力削減は30分以内に行わないと意味がありません。従来どおりの本部からの示達後の現場の実践では間に合いません。現場でも常に見える化し、いざというときにはアラート機能を活用して即効性のある削減施策を現場自ら実践するという、現場の主体的な省エネ施策実行が、長期的な契約電力削減に大きく寄与することになります。現場のコスト意識が徹底されている小売店舗であれば、店舗のコスト削減=利益向上となって業績にも大きく影響してくるため、現場の省エネマインドも向上するはずです。

3. まとめ

 見える化を単なる見える化で終わらせないために、時系列分析はもちろん、施設間分析・オフィス間分析・売り上げといった変数との相関分析など、さまざまな角度から分析を行って傾向を把握することが重要です。また、機器ごと業務ごとの傾向を見つけることにより、省エネのみならず機器の事前保守や業務プロセス改革などへの活用も可能となります。省エネを切り口に業務プロセス改革を進めていくことが、今後の見える化の大きな目的の1つになるものと確信しています。


■執筆者紹介
尾崎 多佳代
新事業推進本部
環境エネルギー事業推進部
マネージャー

田村 徹也
新事業推進本部
環境エネルギー事業推進部
シニアエキスパート

※本記事は日本電気株式会社より許可を得て、同社の発行する「NEC技報」Vol.65(2012年) No.1(2月)収録の論文を転載したものである。

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