【ひとりでいけるもん!Vol.4】必死のスワンボート、池の真ん中の歓喜
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しかしスマホを手に入れてからは、それでも乗りたいという気持ちが強くなった。というのも、スマホにはGPSがついていて、スワンボートに乗ってスマホの地図を見ると、現在地が池の真ん中に表示されるはずなのだ。それをしたい。
それの何がいいの? と聞かれると困るけれど、道路の白線の上だけを歩いて家まで帰るようなワクワクがあるのだ。ブルーチーズやくさやのような分かる人しか分からない楽しみかもしれない。ということで、ひとりでスワンボートに乗ってみようと思う。
■首は100円
休日のお昼頃の上野公園は動物園目当ての家族連れやカップルであふれていた。そんな集団を横目にひとり不忍池にやってきた。風の強い日だったけれど、池にはボートはもちろん、スワンボートもキチンと浮かんでいた。眼鏡をつければ視力1.5の私の目には、それを漕ぐカップルがよく映った。また池の周りにもカップルはいた。こちらは眼鏡を外してもよく見える。現実だ。
スワンボート乗り場の前にやってきて値段を確認する。普通の手漕ぎボートは1時間600円。スワンボートは30分700円で、スワンボートの首のないバージョン(サイクルボート)は、30分600円だった。スワンの首は100円ということになる。それを高いと感じるのか、安いと感じるのかは人それぞれと思うけれど、私は安いと思った。首が100円。安いではないか。ということで、迷わず当初の目的通り、ひとりスワンボートに乗り込んだ。人生で初めてのスワンボート。いつか乗ってみたい、という夢がかなった瞬間だった。
■白鳥の気持ちを理解できる
優雅に見える白鳥も水面下では一生懸命に水をかいている、と言ったりする。これはもののたとえだと思っていたけれど、スワンボートに乗ると、それがもののたとえでないことが分かる。風に流されて全然思う方向へと進まないのだ。必死に漕ぐのだけれど、全然ダメ。こんなにもダメと思ったことは、大学時代の就職活動以来だった。
私だけでなく多くのスワンボートがダメなようで、流されたボートが池の端に集まっていた。その結果、近距離で目に入るスワンボートに乗るカップル。流されたら流されたで楽しいようで、とてもよく笑っている。そして、池の中心を彼女が指差し、必死に二人で漕いで行く。微笑ましい光景ではないか。私も負けじと池の中心を目指してひとり必死にペダルを漕いだ。そこで気がつく悲しさである。
スワンボートは二人漕ぎのため、左右にペダルが存在する。私は左に乗ったので、必然的に左のペダルを漕ぐことになるのだけれど、このペダルは左右で連動していて、左のペダルを漕ぐと、右のペダルも回る仕組みになっている。誰も漕いでいないのに回るペダル。空回りのお手本のような空回りだった。それが私をたまらなく悲しくさせたのだ。
風がやんだ気がした。さっきまであんなにうるさく耳にまとわりついていた風の音が消え、代わりにギコギコという空回りする右のペダルの音だけが耳を刺す。優雅に見える白鳥も水面下では一生懸命に水をかき、どこに向ければいいのか分からない悲しみを抱えているのだ、きっと。スワンボートは哲学だ、そう思った。
■湖の真ん中でチェックイン!
ひとり必死にギコギコとスワンを漕いでどうにか池の真ん中までやってきて、おもむろにスマホを取り出した。私はこれをしにここにやってきたのだ。別にスワンボートに哲学を感じにやってきたわけではない。池に真ん中でチェックインするためにやってきたのだ。
Facebookにはチェックインというものがあり、いま自分がいる位置を記録することができる。早速、Facebookのアプリを立ち上げ、チェックインのページを広げる。すると光り輝く青い点が池の真ん中にあった。その瞬間にすべての悲しみが吹き飛んだ。一度も信号に捕まらずに帰れたような喜び。いま私は道のない場所にいるのだ。池の真ん中にいるのだ。素晴らしき達成感だった。
以前もGPSロガーを持っていたのだけれど、それは家に帰りパソコンに接続するまで、自分がどこにいるのか分からなかった。しかしスマホならリアルタイムで池の真ん中にいることが分かり、それを自慢することもできる。もっともその自慢に共感してくれる人はひとりしかいなかった。ひとりしか「いいね!」してくれなかったのだ。
ただしそれは別の問題。自分の中では素晴らしき達成感なのだ。そんなことを思っていたら、すぐに30分は経ってしまった。白鳥の気持ちを理解して、ひとりの悲しみを知り、自分だけの達成感に浸る。スワンボートの30分は忙しく楽しい。乗ってよかった、と帰りにひとり秋葉原まで歩く道のりで思った。ちなみに秋葉原についたら完全にホームで悲しい気持ちは全くなくなった。ここにスワンボートがあればいいのに!
ひとりスワンボート
オススメ:★★★
ハードル:★★★★
GPSでの達成感:★★★★★
《地主恵亮 》
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