【テクニカルレポート】ユニファイドコミュニケーションのためのスマートフォンを応用した高度プレゼンス……OKIテクニカルレビュー
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プレゼンス
(1)プレゼンスとは
固定電話がオフィス内電話の主流だった時代には、「遠隔地の相手に電話をかけたが、相手が離席していたり、電話中であったりして話ができなかった」ということは一般的に起きていた。日経産業新聞の記事1)によれば、ある企業では、全電話件数の4分の3以上が、不在または話し中であったという。PHSなど、個人が携帯する電話が一般的になってきた現在でも、「電話をかけたが、会議中で現在話ができないと断られた」、また逆に、「重要な会議中に不要不急の用件で呼び出された」という経験は珍しくはないだろう。このような問題を解決するために、コミュニケーションをとる遠隔地の相手が、現在どのような状況、状態にあるのかを示す情報を提供するための機能がプレゼンスである。また、提供される情報自体もプレゼンスと呼ぶ。
プレゼンス情報は、1.「コミュニケーションをとる相手(システムのユーザ)が現在どこにいるのか」、という場所に関する情報および、2.場所以外のユーザの状況認識を示す情報からなる。2.はユーザが「現在重要な会議中であるとか、移動中であるから電話応対ができない」という状況の情報を含む。
(2)プレゼンスシステムの先行研究
プレゼンスを、電話などのコミュニケーションシステムに導入する必要性は以前から知られており、長い研究の歴史がある。また、現在市販されている製品にもその機能が一部組み込まれている。先述した通り、電話をかける時にプレゼンスを提供することは、固定電話の時代に、特に必要性が高かった。これは固定電話の場合、離席中の通話相手に転送するために、電話の受け側で相手を探す作業が面倒であったこと等が主な理由とされる。常時「通話相手がどこにいるか」、場所を知ることができれば、この問題を解決できるという期待があった。
以下では、ユーザが持つ端末と、空間に配置された装置(環境装置)との通信で、ユーザの場所情報を取得するという構成を共通して持つ、1990年前後に行われた2種類のプレゼンスシステムの研究事例を紹介する。
(2-1)先行研究事例1 Active Badge
1992年に発表されたOlivetti Research Ltd.,のActive Badge2)はユビキタスコンピューティング(以下UC)の先駆的事例として著名な、オフィス内のリアルタイム位置検知システムである。UCとは、あらゆる人が小型のコンピュータを持ち歩き、 ユーザが活動する環境に設置された無数のコンピュータと通信することで、コンピュータシステムの利用可能性が広がるという概念である。Active BadgeはUCをプレゼンス提供に応用した事例、と位置づけられる。
Active Badgeはオフィス内のユーザが各自携帯している5cm×5cm程度の赤外線通信端末(Badge)と、オフィス環境に配置された赤外線通信装置(環境装置)の通信でオフィス内の人物位置をリアルタイムに検出する仕組みであった。Badgeから環境装置にIDを含んだ赤外線信号が送信され、信号のIDと受信した場所(環境装置の位置)を対応付けて、Badgeを持つ人物位置を把握できた。
(2-2)先行研究事例2 個人位置認識カードシステム
OKIは竹中工務店との共同開発で、Active Badgeに先んじて、1988年に類似のシステムを開発していた1)。Active Badgeのように赤外線だけではなく、無線を併用し、ユーザに携帯される端末(カード)側から、オフィスに設置された通信装置(環境装置)に無線で、端末を持っているユーザの情報を送信して、ユーザの室内位置を把握する仕組みであった。これは国内の先駆的なUCの研究開発事例として、3)でも高く評価されている。
プレゼンスシステムの普及が進まない理由
このように、プレゼンスを提供するシステムの研究は長く行われてきたが、現在一般に広く普及しているとは言いがたい。原因としては、これらのシステムでは、位置検出機能のために多数のユーザに特殊な専用端末を配布したり、オフィス環境に装置を導入したりするなどの必要があり、導入コストが高くなったこと、ユーザが専用端末をプレゼンス配信のためだけに携帯することに抵抗があったこと、などが考えられる。
スマートフォン普及の影響
将来の遠隔コミュニケーションの姿を考えると、スマートフォンの普及が影響することが考えられる。スマートフォンは国内累計出荷台数で1574万台以上(2012年調査)普及しており、現在も増加傾向である。スマートフォンは通常の携帯電話と同様の通話機能に加え、高度なセンサ情報を処理できる情報処理機能、無線LANなど多様な通信機能を有している。また、ユーザ個人が常時電源を入れて携帯するなど、利用法が前述のシステムのユーザ端末と類似している。これらの特徴から、スマートフォンは前述のプレゼンスシステムのユーザ端末として、すなわち、自動プレゼンス検出、プレゼンス情報送信機能を実現する端末として利用可能と考えられる。さらに個人端末を利用することで、前述のシステムの普及を阻んだ、コストと、常時携帯することによる問題を解決できる可能性がある。
《RBB TODAY》
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