J・ラセターが語る――宮崎駿の魅力、ピクサーの未来、気になる『SW』新3部作は…? | RBB TODAY

J・ラセターが語る――宮崎駿の魅力、ピクサーの未来、気になる『SW』新3部作は…?

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「ピクサー」のジョン・ラセター/Photo:Naoki Kurozu
「ピクサー」のジョン・ラセター/Photo:Naoki Kurozu 全 11 枚
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アニメーションの歴史を変えた男、革命家、天才…と彼を形容する言葉には事欠かない。世界初の長編CGアニメーション『トイ・ストーリー』に始まり、先日より公開され、すでに日本でも20億円の大台の乗った『モンスター・ユニバーシティ』に至るまで監督、エグゼクティブ・プロデューサーなど様々なポジションでピクサーの作品に携わってきたジョン・ラセター。

現在はピクサーおよびウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの両スタジオのチーフ・クリエイティブオフィサー(CCO)を務めるが、立場や肩書が変わっても、どんなに年齢を重ねても、アニメに対する情熱が衰えることはない。公開を控える新作、そして親友であり最も尊敬するクリエイターと公言する宮崎駿の魅力について語る彼の表情は、“オタク青年”そのものである。『モンスター・ユニバーシティ』の公開に合わせて来日を果たした彼がスタジオの理念、自らの創作を支える哲学について語ってくれた。

『モンスター・ユニバーシティ』のアロハシャツに身を包んで登場したラセター氏。先述のようにCCOとしてピクサーとディズニーの両スタジオを統括する立場にあるが、今後について「2つのスタジオは今後も異なるスタジオとして存在し続けます」と語り、そのブランディングに関し両スタジオの共通点と違いを説明する。

「ピクサーはシリコンバレーにあり、ディズニーはハリウッドにあります。共通点を挙げるなら、どちらもフィルムメーカーを中心としたスタジオであり、全てのアイディアが彼ら自身から生まれ出てくるとういうことですが、共通点はそこまで。やはり2つのスタジオは全く異なる存在です。各スタジオの色を決めるのは、そこにいる人間たち。ピクサーは反骨精神を持った人間の集団であり、誰もできないと思っていたCGアニメを作り上げました。スティーブ・ジョブズもパートナーでしたが、北カリフォルニアのパイオニア精神を持っているのです。一方で、ディズニーは伝統を重んじます。1932年にウォルト・ディズニーが創立し、ここまで継続して来たという誇りを胸にさらなる高みを目指しているのです」。

『トイ・ストーリー』を始め、スタジオ初期の作品はいずれもラセター自身が監督を務めてきたが、最近ではプロデューサーの立場で作品に関わることも多い。当初は「監督するのと同じような満足感をプロデューサーの立場で得られるのか?」と不安と疑問を感じていたが、実際に参加してみて、それが杞憂であったことを実感したという。そこにはピクサーならではの“非タテ社会”という構造も大きく関係しているようだ。

「例えば、私がほかの監督の作品をサポートすることになっても、決して私のダメ出しやアイディアが絶対ではありません。これは私自身がピクサーで培ってきた文化なのですが、平等に全ての人の意見を聞き、最高の意見を取り入れるのです。どんな人物のものであれ、最高のアイディアというのはみんながそうと感じるものです。もちろん自分で監督として作品をクリエイトするのも大好きですし大切なことです。いまはまだ言えませんが、自分が監督を務める新たな作品のプランもすでに温めていますよ」。

さらに話題は親友・宮崎駿の作品の魅力に! 宮崎監督も最新作『風立ちぬ』の公開を控えるが、宮崎監督の元を訪ね『風立ちぬ』を鑑賞することも今回の来日の楽しみの一つだったとか。「明日、鑑賞する予定なんだ」と子どものように顔をほころばせる。ラセター氏にとっての宮崎作品の魅力、それは「ハートと独創的なアイディア」だという。

「宮崎さんの全ての作品にはハートがあります。そして、作品ごとに必ず独創的なアイディアが取り入れられています。ネコバスというキャラクターもそうですし、ポニョが波の上を走るなんていうのも考えつかないことです。そうしたオリジナリティに私も刺激をもらい続けてきました」。

特に自身の作品作りにおいて強く影響を受けたというのが作品における“スピード”。「現在のハリウッドの作品はミュージックビデオやMTVの影響もあってか、カット割りが早くスピードアップし続けています」と語り、宮崎作品はその対極にあると説く。

「宮崎さんの作品には“静かな時間”を祝福するような描写があります。それがあるからこそ、そのコントラストでアクションのシーンのスリルが増すのです。ここからはオタクとして話をさせてもらいますが(笑)、『カリオストロの城』の冒頭でフィアットがパンクし、(ルパンと次元が)ジャンケンをして負けた方がタイヤを交換するのですが、(次元が)タイヤを交換する間、(ルパンは)ゆっくりと空を見上げ雲を観察し、風が草をなびかせます。そして次の瞬間、急に別の車がやってきてカーチェイスが展開する。そのコントラストが最高です! (ピクサーを創設した)初期の頃、スタジオの重役からは『もっと早く描かないと、みんなポップコーンを買いに行っちゃうぞ』と言われたものですが、宮崎作品を観ていた私は『違うだろ!』と言いました(笑)。ピクサーの作品もまた特別であるのは、きちんとそうした瞬間を描いているからなのです」。

ディズニーと言えば『スターウォーズ』の新3部作の行方も気になるところだが、「僕もあなた方と同様に『スターウォーズ』の大ファンであり、あなた方と同じくらいにしか知っていることはありません(笑)。もちろん、新作が進められているというウワサは聞いていますが、それ以上は言えない…というよりも僕自身も何も知らない」とのこと。

「でもJ.J.エイブラムスがメガホンを握り、『トイストーリー3』でも脚本を担当したマイケル・アーントが脚本を担当するならきっと素晴らしいものになると信じてるよ」と期待を口にする。

『モンスター・ユニバーシティ』に続いて、年内には同じディズニー傘下のディズニートゥーン・スタジオズ製作による飛行機を主人公にした『プレーンズ』が、そして年が明けた3月にはウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオによる『アナと雪の女王』も公開となる。ピクサー作品の今後については「毎年オリジナルを1本、そして続編作品を2年に1本のペースで発表していくことになるだろう」と展望を語る。

「多くのスタジオは早いペースで作品を量産して儲けようとするけれど、それでは作品の質が落ちてしまう。我々も本数を増やしてはいきますが、それは長年かかってそれができる体制が整ったからこそ。絶対にクオリティを落とすことなく、最高のものを作り続けるよ」。

《photo / text:Naoki Kurozu》

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