【対談:福井晴敏×阪本順治】映画『人類資金』が投げかける、日本経済への疑問符
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先日、7年後の2020年の東京オリンピック開催が決定。経済戦略をますます加速させる要素として7年後の明るい未来を喧伝する声も多いが…2人はこの“朗報”をどう受け止めたのだろうか?
阪本:アスリートには罪も責任もないけど、オリンピックというお祭りを国や自治体が先導し、福島の汚染水の問題を民間(東京電力)に任せてきたというのは本末転倒だなと思います。オリンピックこそ民間主導で進めて、それで景気が良くなるなら公がサポートすればいいのに…逆なんだよね。開催が決まった後のアンケートで「(開催が)決まってよかったか?」という問いに70%が「よかった」と答えているのだけど、一方で「汚染水はコントロールされていると思うか?」という問いに70%が「思わない」って答えている。そういうある種の矛盾をみんな自覚してはいるんだよね。国民性ということなのか…?
福井:政府が「これから景気が良くなります」と声を掛け続けないといけない事情も分かるんですよね。国債の信用が落ちたら一発で終わりだから、お祭りを継続させて花火を上げ続けなくちゃいけない。でもそのツケは否応なく溜まっていく。スポーツをやる人たちがオリンピックを目標に奮起するのは素晴らしいことだし、それで景気が良くなるならそれに越したことはない。アベノミクスで株価が安定し円高が是正され、今度はオリンピックまで決まって……と良いことづくめ。良い材料ばかりでしょ? でも若者に「5年後、10年後に自分の暮らしが良くなっていると思うか?」と聞いてもほとんど誰もそう思わない。それはどこかで3.11の“トラウマ”が残っているからだと思う。自分たちが危うい土壌に立っていることをどこかでみんな自覚しているし、オリンピックがそうした不安を解消するかというとそうはならないとどこかで予感していると思う。
東日本大震災の発生時、日本中がひとつにまとまったという実感を多くの日本人が持ったのは確かだ。一方で震災から2年半を経て、被災地や原発に関する様々な現状に触れる中で、あの時、共有した危機感や連帯が確実に弱まっていることを感じずにはいられない。この映画では、確かな良心の存在と変わることの難しさ――映画の中では経済システムの劇的な“変革”が叫ばれるが、実際に変革に何が必要なのか?
阪本:正直、そこは僕は若い人たちに強く期待しています。汚染水のニュースに触れて、改めて自分が死んだ後のこと――日本は、家族はどうなるのか? ということまで考えて死ななきゃいけない時代だと感じたけど、そこで(若い層が)こうした問題に触れて、彼らだからこそできることがあると思う。
福井:例えばバブル崩壊後の若者たちは消費に走らないと言われるけど、あれはケチっているわけではなくて単純に現代の若者の視点で見て、バブル時のファッションや生き方がダサいってことなんですよね。だからあの頃の姿をひとつの教訓として、景気が上辺だけよくなっても、若い人は消費に走ろうとはしない。あの震災の時、僕は正直、ある程度の時間を置いて(人々の心が)元に戻ってしまうだろうと思っていました。人間はやはり、キツい記憶は封印しちゃうんですよ。そうしないと前を向いて生きていけないから。でもバブルの話と同じで、そのトラウマというのは、多くの人々の心に確実に教訓として残っていると思う。「このままでずっと良いわけがない」「このままでは済まない」って。そうした気分が「変えよう」とする新しい才能を生み出すんじゃないかと思う。もう僕らの世代よりもさらに下の30代、20代…いや、もっと若い層が、我々には想像もつかない発想をしてくれるんじゃないかという期待を持っています。映画の中にはアイテムのひとつとしてPDA(携帯情報端末)が出てくるけど、そうした情報機器の発達で、いままでなら声も聞こえなかったような発展途上国の人々の声が確実に聞こえるようになっている。少しずつだけど、地球全体に血が通い始めて、活動してなかった脳みそが動き始めている。そうした世界から新しい人が現れるのを期待しているし、その材料としてこの映画を残したいという思いがあった。その意味でもこの映画ができたことは自分にとってすごく大きなことだなと感じています。
《黒豆直樹》
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