劇場版『ペルソナ3』サウンドコンポーザー目黒将司インタビュー前編…ギリギリを狙っていきました | RBB TODAY

劇場版『ペルソナ3』サウンドコンポーザー目黒将司インタビュー前編…ギリギリを狙っていきました

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目黒将司氏
目黒将司氏 全 4 枚
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2013年11月23日(土)、大ヒットゲームを原作としたアニメが劇場公開された。タイトルは「PERSONA3 THE MOVIE #1 Spring of Birth」。大人気RPG『ペルソナ3』(以下P3)の劇場アニメ化だ。

『P3』は2006年にPS2用ロールプレイングゲームとして発売され、後日談となるストーリー”Episode Aegis”などが追加された『P3フェス』(単独起動版/アペンド版)の発売を経て、2009年には女性主人公を選択できるようになった『P3ポータブル』がPSP用ソフトとして発売された。

『P3』はその音楽も大きく話題となったゲームだった。ロック、R&B、ヒップホップと横断的に取り入れたゲームサウンドはポップにゲームを彩る。好評を博したサウンドは『ペルソナ4』(以下P4)へも引き継がれ、『P3』『P4』の両シリーズで音楽イベント「Persona Live」 を開催するまでになった。2013年には日本武道館でのライブを成功させるなど、楽曲の人気は絶大だ。

この度、『ペルソナ』シリーズを通して音楽制作に関わり続けているサウンドコンポーザー・目黒将司さんにインタビューを行った。『P3』で、どうしてこのような音楽を取り入れることとなったのか、そして劇場アニメ作品として生まれ変わった「PERSONA3 THE MOVIE #1 Spring of Birth」の見どころなど音楽的な観点から詳しく話をうかがった。
[取材/構成 細川洋平]

劇場版「ペルソナ3」公式サイト
http://www.P3M.jp/

■ どうしたら驚きを与えられるのか

--目黒さんにとってゲームミュージックとはいったいどういうものなのでしょうか。

--目黒将司氏(以下目黒)
3Dモデルや背景のテクスチャといったものと同じくゲームを構成する要素のひとつという認識です。大層に構えてもいませんし、なくてはならないとも思ってないですね。
ただ、たとえば背景のテクスチャがより微細に描かれていれば没入感が出るし、キャラクターがキレイで動きがよかったらプレイヤーもやってて気持ちいいだろうというのと一緒で、ゲーム音楽もキャラクターへの感情移入や、世界観を補助するようなものであれば、という認識で作っています。

--初めからそうした考えだったんですか?

--目黒
そうですね。ゲーム会社に入った一番のきっかけは「ゲームを作りたいから」でした。その中でぼくが一番貢献できる部分は音楽を作ること。
ですから会社に入った時から音楽を作っているというよりも「ゲームを作っている」という認識ですね。

--『P3』のゲームが発売された当時、今までにないゲームミュージックだなとびっくりした記憶があります。

--目黒
テクスチャを描く人やモデルを作る人も「ゲームってこんなもんですよ」と作るのではなくて、プレイヤーを驚かせたいとか、すごいって思わせたいという気持ちで作ってるんです。
「このゲームの世界観でぼくはこう感じた、だからこう作りました」というのは大前提。その上でプレイヤーへどうしたら「驚き」を与えられるのか、みんな日々考えていて、ぼくもそうした試行錯誤の中で曲を作っていきました。

■ 『呼ばれた』ものから、驚きや感動を

--ボーカル曲を取り入れようと考えられたのはきっかけがあったのでしょうか。

--目黒
ぼくは入社したのが1996年。『女神異聞録ペルソナ』で初めて関わったんですけど、最初に作った曲が「ベルベットルーム」の曲だったんです。それがボーカル入りの曲だったので、最初からインスト/ボーカルって、分けて考えていた訳ではないのかなと、今振り返っても感じてます。
曲を作る時って皆さんいろんな方法があって、モデルや絵が出てきたのを見ながら、という人もいるでしょうし、ゲームの流れを見ながらという人もいるでしょう。
ぼくは世界観やシナリオのテキスト、そういうのを読んで文章から「こういうものかな?」と『呼ばれた』音楽を書くという感じです。たまたま『呼ばれた』のがボーカルの曲だったりR&Bだったりということですね。

--『呼ばれた』というのを具体的におうかがいしてもいいですか?

--目黒 
ロールプレイングゲームって「ロールプレイ=役割を演じること」じゃないですか。シナリオを読んでいるときも主人公になりきってロールプレイするんです。そうして、世界に入ると、その場面の曲は「あ、こういう曲だ」とパッと思いつく。「降りてくる」なんてそんな格好いいものじゃないので『呼ばれる』という表現を使っています。
その中でも、よりおもしろいもの、驚きを与えられるようなものであったらいい、という思いがあるので、定型的な音楽が『呼ばれた』ときにはもうひと、ふた工夫します。基本的には作品が呼んだ曲の中で驚きや感動を与えられるようなものを目指して作っているつもりです。

■ ボーカル曲という冒険

--そうして『呼ばれた』音楽が2006年『P3』リリース当時は非常に話題になりました。

--目黒将司氏(以下目黒)
一応は計算して驚かせたつもりではあるんです。ゲームって何度も何度も同じ曲を聞くんですよね。ゲーム音楽をずーっと作ってるとなんとなく、「こういう曲を何度も聞いてるとプレイヤーはこういう気持ちになるんだろうな」という経験が積み重ねられていく。どこまでがプレイヤーの許容範囲か、驚きが怒りに変わってしまわないか、という閾値をなんとなく探りつつ、ギリギリの線を狙っていきました。

--ボーカル曲には必ず歌詞が入ります。その歌詞に関して気を遣われた部分はあるのですか?

--目黒 
ボーカル曲を何度も流すことに対してはギリギリの線を狙いました。だけどそれ以上振り切ることはできず、実験第一段階をまず踏み出してみたという状態でした。それで日本語詞を避け英詞に。英詞ならプレイヤーの意識をさほど邪魔しない、という思いがあったので。
歌詞は外部の作詞家さんにお願いしたんですけど、世界観に合わせた上で、だけど場面にそれほど引きずられなくていいです、というオーダーはしました。バトルだから「シャドウが出てきて闘ってこいつをぶちのめしてやるぜ」じゃなくていいですと。
闘っている時、主人公はどんな気持ちでいるのか、『P3』のテーマや主人公の気持ちとどうつながっているのか。『P3』のテーマとその場面にある程度則したものであれば自由に作ってください、というオーダーの仕方でした。

■ 『P3』の音楽のジャンルは「フューチャーポップ」

--ロックだけではなくてR&Bやヒップホップといった幅広いジャンルが入っているのは改めて聞いてもすごく面白いですよね。

--目黒
どういうテーマにするのかは、だいたいシナリオや設定ができてきて、サンプルで何曲か作ろうという初期段階に考えます。「ジャンル分け」は社内の皆さんにも伝わりやすいので「今回はロックです」「今回はナントカです」というのでよく使います。
だけど『P3』に関しては、特定の音楽ジャンルに縛られるような世界観ではないと思った。だからぼくの造語で「『フューチャーポップ』というジャンルでやります」と言いました。みんなポカーンとしてましたね(笑)。言ったはいいけど、ぼくもポカーン(笑)。
その後、ネットで調べたら「フューチャーポップ」というジャンルはすでにあって「やべ、被っちゃった」って(笑)。もちろんそのジャンルとは違います。「オレの中の『フューチャーポップ』を作ります」と。

--(笑)。『フューチャーポップ』、具体的におうかがいしてもいいですか?

--目黒 
現実世界の延長線上にある未来ではなくて、『P3』の未来では、そういうふうに変化しているであろうポップミュージック、という「想像のジャンル」です。

--今の世界ではなくゲーム世界で進化した音楽、ということですね。

--目黒
だからといって『P3』の世界で売れていたり流行っていたりする音楽が、『P3』で実際に流れるようなポップなミュージックなのか、というのとはまた別です。「世界観」に合わせて進化したポップミュージックの形はこんなものなのかな、という感じです。

--難しいですが、『P3』の世界内の音楽、というよりは、外側にあって世界全体の空気感を表した音楽というような感じなんでしょうか。

--目黒
そうですね。

後編に続く

“ギリギリを狙っていきました” 劇場版「ペルソナ3」サウンドコンポーザー・目黒将司インタビュー-前編

《animeanime》

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