【インタビュー】『ニュー・シネマ・パラダイス』のトルナトーレ監督 名作はこう生まれる
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『鑑定士と顔のない依頼人』(12月13日公開)は、そのタイトル通り、オークション鑑定士と、隠し部屋から姿を現さない奇妙な依頼人のミステリー。謎の依頼人をはじめ、歴史的美術品の欠片、美術品修復の天才、いわくつきの贋作など、様々な伏線がからみ、謎は思わぬ方向に深まっていく。
トルナトーレ監督の頭の中を覗いたとすれば、そこには「常にたくさんの映画のアイディアが温められている」と教えてくれた。その中から長い熟成期間を経て映画が誕生する。本作の場合も、その期間は20年。
「アイディアは同時にいくつもいくつもあり、すぐに映画化することはない。熟成され、アイディアが働きかけてくるのを待つ。その中で、何度も現れてくるアイディアがあれば、それがサインだと思い、脚本を書く。それまでには10年かかるものもあれば、15年かかるものもある。もちろん、忘れてしまうものもあるけど、それは忘れるべくして忘れたものだと思うんだ」。
そうして何年もかけてようやく形になる脚本。その内容について出演者とは話し合うが、意見を取り入れることは少ない、というのが監督の流儀。というのもすでに「脚本は細部まで作り込まれている」から。
「なので、脚本に沿って進めていくということがまず大事。この映画の場合でも、小さなこと、所作や風貌については話し合ったことはあったけど、(主演の)ジェフリー・ラッシュの意見を取り入れたというよりは、僕が思い描いていたキャラクターを彼に作りあげてもらったという感じかな」。
もちろんトルナトーレ作品といえば、その存在なしでは語れないのがエンニオ・モリコーネ氏の音楽。「私にとって音楽は映画を彩るものではない」という監督の言葉通り、彼の作品の場合、後から加えられるものではなく、物語と一緒に作り出されるものなのだ。
「音楽は脚本と同じ段階で生まれ、撮影のタイミングではもう出来上がっている。音楽は、映像が伝えきれないものを伝える力があると思う。行間を語るものが音楽なんだ」。
そして生み落とされる名作たち。だが驚くことに、完成した映画はその後、二度と観ることはないという。
「撮影中は、その映画のストーリーとともに生きていると言っても過言でないほど、24時間その映画と生きて、それが何年も続くこともある。完成した段階ではすでに何百回も観ているけど、映画館にかかった時点で、二度観ることはないよ」。
「ところが、インタビュアーや観客に『あの作品とあの作品のこの部分が似てますね』と言われることがあって、『鑑定士と顔のない依頼人』の家から出られない依頼人は、『海の家のピアニスト』の船から降りられないピアニストを彷彿させますねとか…。それは確かにそうだなと思うけど、自分としては全く想定してなかったことなんだ」。
長い期間、トルナトーレ監督に大事に育てられた映画たちは、完成と同時に監督の手を離れひとり立ちするが、どこか大きな輪でつながっているのかもしれない。そして今も、未来の名作が監督の中で静かにその時を待っているのだろう。
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