【インタビュー】「蒼き鋼のアルペジオ - アルス・ノヴァ -」サンジゲン松浦代表:女の子をかわいく見せる挑戦
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岸誠二監督、シリーズ構成・上江洲誠さんと実力派スタッフも揃い、ヒット作になった。人気原作に加えて、音楽展開も幅広く、話題の多い作品である。
なかでも注目を浴びたのが、本作のアニメーション制作を担当したサンジゲンである。CGアニメのスタジオとして名を馳せたサンジゲンが、全編にわたりフルCGで『蒼き鋼のアルペジオ』の世界を映像化した。
深夜帯のテレビアニメシリーズで、キャラクターを含めてCGで描くのは、かつてない挑戦だ。しかし、作品は広く受けいれられ大きな成功を収めた。
サンジゲンはいかに作品に挑み、その結果をどう受け止めているのか?サンジゲン代表取締役の松浦裕暁氏にお話を伺った。
■ 深夜アニメ30分シリーズをフルCG:
結果的にはベストのタイミング
―AA
『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』は、ストーリーや演出、音楽などの見どころの多い作品です。でも、なかでも今回大きな見どころとなったのが、サンジゲンさんによるフルCGアニメの映像です。このCGについてもう一度、振り返らせてください。
まず、フルCGで30分のテレビアニメシリーズというのは、いままでなかったと思います。
―松浦裕暁氏(以下松浦)
そうですね。深夜アニメ、ハイエンドのアニメーションではなかったと思います。
―AA
それが始まったので観る側としては、とても驚きました。それをいま成し遂げてしまったわけです。当初からこれは出来るという目算があったのですか?
―松浦
不安な点もありましたが、出来る確信はありました。「このタイミングでやらないと」という思いもありましたし、「いま僕らが作らないと誰も作らないだろうな」という思いもありました。
―AA
その時に、遅すぎた、あるいは先をいっているといった感覚はあったのですか?
―松浦
結果的にはベストタイミングだったと思っています。いま思えば、もう1~2年早くやることも出来ただろうし、あるいはもう1~2年遅くても良かったかもしれないというのはありますね。
―AA
企画が誕生した、きっかけを教えてください。
―松浦
南さん(フライングドッグ:南 健プロデューサー)に原作をみせられて、「これをCGでやることは出来ないか?」と言われたのがきっかけです。そのときは、フルCGとハイブリッドのどちらかを選択する感じでした。
僕はCGでやった方が面白いんじゃないかと思って、南さんもCGでやるつもりだったようです。「出来ますか?」といわれて、「出来ます」とだけ言いました(笑)。
―AA
それは何年前になるのですか?
―松浦
『009 RE:CYBORG』を本格的に作る前だったので、2011年ぐらいの話です。
―AA
009の成功体験があって、それで「いける」と思ったのかと考えていたのですが、むしろ同時並行でだったんですね。
―松浦
そうですね。もちろん不安要素はありました。技術的には出来ても、あとは量産体制ですね、009は約1,300カットちょっとですが、アルペジオはさらに上のトータル3600カット、一年間で作る量が3倍になります。スケジュールも、毎週区切りがあります。
■ 12話、3班体制で、制作期間9ヵ月
―AA
制作期間は実際にどの程度かかるものなのですか?
―松浦
通常の制作とあまり変わらないと思います。例えば、1話を作るには3カ月は必ずかかります。監督チェックのタイミングが週一になったりするので、そのぐらいかかります。その3カ月は3本ぐらいをスタッフが掛け持ちでやります。
アルペジオに関しても、3月(2013年)ぐらいに制作がスタートして、11月20日の完成を目指していました。最終話が重かったこともあり、最終的には1カ月ぐらい延びています。ですので、3班体制で12話をちょうど9カ月ぐらいで作っています。
―AA
班体制による制作は、これまでのアニメでも行われていますが、フルCGでも同じ体制と考えていいのですか?
―松浦
だいたい同じですが、人数は圧倒的に少ないです。2Dを例にすると、だいたい5~6班作って1クール2ローテーションで終わる感覚があります。CGの場合は、10~12人で一班なので、2Dと比べれば10分の1ぐらいの人数で、原画、動画、仕上げまでやってしまいます。それで3カ月かかっています。3ラインで9カ月間、最後は総力戦でしたけどね。期間が長い分1班が関わる部分が多いです。
それとサンジゲンのスタッフは、明日まで出来るならもう少し作り込もうという人が多いですね。
■ CGアニメーターも手描きのアニメーターも本質は同じ
―AA
アニメーションにおけるCGは、戦艦や潜水艦を動かすのは想像がしやすいですが、キャラクターは選択肢がより多く、難しいと思います。一方でモーションキャプチャーを使ったリアル感のあるCGも可能だったと思います。今回セルタッチを選択した理由は、何でしょうか?
―松浦
最初からそのイメージでした。セルルックなキャラクターになると考えていましたし、僕たちもそっちの方向に長けているので、その方向でやりたいと思っていました。
モーションキャプチャーを使わない理由ははっきりしていて、それですとアニメーターが育たないからです。これだけは間違いないです。
アニメーターが自分で考えて、絵コンテやシナリオを読んだり監督と話して、ここはこういう芝居をするんだというイメージを持って作らないといけないと考えています。そこの動きの部分をアクターにゆだねてしまうと、アニメーターはもらった素材を何とかするだけになります。
―AA
手つけであることで芝居を意識するわけですね。
―松浦
アニメーターが自分達で考えた芝居や表現は、自分の手で動かさないと育たない。加工屋になっては、誰も感動してくれないと思います。
大げさにいうと、その人がそれまで生きてきた人生をかけたワンアクションを作らないとお客さんは感動してくれない。手で動かしたものがアニメの世界では向いていると思います。
―AA
手描きのセルアニメと、CGは本質的に同じものなのでしょうか?どこか違うところはあるのでしょか?
―松浦
僕は違わないと思っています。作っている思想は一緒です。原画マンがイメージしたものを、線を書いて表現するのか、CGで表現するのか、の違いで、アニメーターの質に違いはないですね。ただ、いいアニメーションに仕上げるのは別の話で、アニメーターの技量です。
―AA
すると、CGアニメーターは、技術の部分、感性の部分、両方求められてハードルがかなり高いと思うのですが。
―松浦
それは手描きのアニメーターも一緒だと思います。キャラクターデザインに似せて描かなければなりませんし、キレイな線が描けるといった身体能力があるじゃないですか。特殊な技術が必要とされますので、CGアニメーターよりハードルは高いと思います。
■ 女の子のキャラクターを“かわいく見せる”挑戦
―AA
アルペジオが、サンジゲンさんのこれまでの作品と違う部分はありましたか?
―松浦
最初のコンセプトに、商業的に受入れられる女の子のキャラクターをいかに表現するかがありました。要するに“かわいく見せる”、そこは挑戦でしたね。
―AA
最終回までやり、成果はありましたか?
―松浦
フルCGでテレビシリーズを1クール作ったことが最大の成果だと思います。それがお客さんに受入れられてもらったことが、最高の成果です。
あとは、サンジゲンが最初にフルCGで作りきった。一回も落とさずに…当たり前ですが(笑)。監督も納得したものを作り上げたのも大きいです。これは今のサンジゲンにしか出来ないことだと思います。CGプロダクションからアニメ制作会社になって作りきったことも成果ですね。
―AA
今回のサンジゲンさんのような制作体制は、他社でも出来るものなのでしょうか?
―松浦
問題は、アニメーターの成熟度やトータルにまとめられるかです。技術的には難しくないです。
あとは本当にアニメに飛び込めるかでしょうね。CGプロダクションの人たちがアニメを作るのはハードルがあるので、それがクリアできれば出来ると思います。逆に言うとどんどんやって欲しいと思います。
―AA
今回のような表現技術は今後広がっていくのでしょうか?
―松浦
広がると思います。アニメのCGを本格的にやるところは少ないですが需要はあります。僕たちだけの技術ではないので広がると思います。
唯一無二の存在になりたいと思いますが、僕たちだけで自立して作品を作ることもあれば、みんなで技術を共有して作りたいと思います。出来れば広がってほしいですね。
ただ、僕らは作画をしたくってCGを使っているのでなく、CGを使ってアニメを作りたいが先にあります。いいアニメーション、お客さんが感動してくれる、世界の人たちがいいねといってくれる作品を作るのが目標です。手法としてCGを使っているにすぎません。アニメを通じて作品を生み出していくのが達成すべき目標です。
■ シリーズを乗り切った反響 「全然問題ない」
―AA
『アルペジオ』への反響についてどのように感じていますか?
―松浦
3カ月の間に、少しずつ変わってきた部分がありますね。お客さんの見方も変わってきましたし、作り手であるアニメ業界の人たちの見方も変わってきました。いろんな人の意識が変わってきたと思います。
最初は違和感から入ったと思います。「キャラクターがCGだから良くない」との声は多かったですが、3カ月が過ぎて、10話になってくるとお客さんも、「CGだったの?」、「CGで全然いいよ、アニメとして面白い」とか目に見えて変わってきました。これは作り手もそうで、アニメ業界の人からも話が進むにつれ「全然問題ない」という声を聞きました。
―AA
なぜ受入れられたのですか?
―松浦
憶測もありますが、僕たちが本当に進化したのと、みんなの目が慣れたのと、その両方だと思います。それで一つのアニメのかたちが出来たと思っています。
―AA
記念碑的な作品になりますね。
―松浦
そうなると嬉しいですし、それを目指してやっています。
―AA
題材としてのアルペジオは、やりがいはありましたか?
―松浦
これまでのハイブリッドアニメの場合ですと、下請けとしてCGをやることはあっても、制作の母体となってやることはなかったと思います。その場合、CGをどれだけ使いましょうという話が先行するんですね。
今回のアルペジオは、全部CGで作りますので、トータルで予算を組みました。演出も話に沿ってCGを使うことが出来る、他のアニメーションとは明らかに違う部分です。当然、予算は気にしなくてはいけませんが、配分を気にせずに絵づくりが進められるのが大きな違いです。
―AA
演出のハードルは上がりますが、それも含めてやりがいはあるということですか?
―松浦
もちろんそうです。カットの数やモデリングの量を気にせずに、トータルの予算のなかでSFの作品を作る。全然いいですね。キャラクターだけでなくメカも作らなければならないので大変なのですが(笑)。
■ ファンたくさんついてくれる作品を僕たちは作りたい(松浦)
―AA
松浦社長のお気に入りのシーンがありましたら教えてください。
―松浦
いろいろありますが、最終話、イオナが飛び回るシーン。「キター」と思いましたね。これかっこいいなと思いました。これがサンジゲンらしさだと思っています。
第一話の群像が手を握るシーンはシンプルなカットですが秀逸なシーンだと思います。あのカットは、普通に握っただけでは、握りこぶしに見えないんですよ。手間をかけて調整していく関節を曲げながら変形させます。
10話もいいですね、イオナの顔がいいですね、泣きそうになりますね、僕はギリギリ泣いてないですが(笑)。
―AA
自分の作品でこれはいいなと何回も見ることはあるのですか?
―松浦
10話とか11話とか何回も見てますもん。
―AA
最後に全編を終えた感想と、ファンに向けてメッセージをお願いします。
―松浦
全ての準備が整った状態で制作が始められたわけではないので、“まず終わってよかったな”があります。現場にしてみれば、いきなりすぎるというのもあるでしょうが、最後は転がりながらのゴールであっても僕たちは達成しました。
お客さんの反応をみても、いろんな達成感と充実感があります。あとは商業的に成功してくれればいいですし、作品的にも評価されたら、僕は満足です。
今後、僕たちの目標は、やっぱり売れる作品を作りたいと思います。言い方を変えると、ちゃんとファンたくさんついてくれる作品を僕たちは作りたいと思います。
実はCGがどうのというのは、お客さんにとってはどうでもいいことなんです。面白い作品を見たいはずですから、僕たちはそちらの方向に向いていきます。
もちろんCGで作る部分では、もっと進化させていきます。僕の中には作り方を変えるイメージがすでにあります。次にイメージする作品がありますので、そこに向けて新しい作り方をやっていきたいです。
―AA
まだ足りないのは、どのような部分なのですか?
―松浦
例えばCGではアニメーターの仕事の範囲がそんなに決まっていないです。モデリングとアニメーターと合成・撮影と大まかに3つの領域があるのですが、今はその真ん中にアニメーターがいて一番負担も多いんです。
それぞれの領域をもう少し整理することで、アニメーターの人がよりクリエイティブになれるんじゃないか、撮影の部分もアニメーターの方に寄せることで、よりクリエイティブになれると思っているんです。その境目を変えていかないと。
ソフトウェアの開発も終わっていますので、アニメーターを変えようとやっています。そこが変わることで、全体の制作業務が変わると思っています。
アルペジオよりクオリティを落とすことなく、よりクリエイティブに、より速く、大量に作れると思います。クオリティはもっと上がると思います。
「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」 サンジゲン・松浦裕暁代表インタビュー:女の子をかわいく見せる挑戦
《animeanime》
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