【インタビュー】『ライヴ』井口昇監督 前編……「新人俳優の未開の地を開拓するのが監督の楽しみなんですよ」
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彼の手にかかればミステリー小説もただで済まされるわけもなく、ギャグなのかお色気なのか井口節が随所に効いた“愉快犯”な仕上がりになっている。この独特な作風の映画を公開するにあたり、井口監督にインタビューを行った。
――映画『ライヴ』拝見しました。原作は角川書店から出版されている山田悠介氏の作品ですが、この企画は角川映画の方から井口監督にオファーがあったんですか?
最初、角川のプロデューサーさんから「角川書店の作品で何本か映画化候補作品があるんだけど、この中でやりたい作品はありますか?」と言われた中にこの『ライヴ』があったんですが、そのとき、「山田悠介さんの作品と僕という組み合わせは、なかなか結びつかないだろうな、普通だとオファーされないだろうな」と思って、だから逆に「やりたいな」と思ったんです。
――山田悠介作品の中でもなぜ『ライヴ』を選んだんですか?
山田さんの作品って、一つの閉鎖的な場所で閉鎖的に展開する話が多いんですけど、『ライヴ』はデスマラソンの話なので、外に移動できるところに可能性を感じたんですよ。「いろいろなつくり方、遊び方ができるな」って思って。
――映画の中では『ライヴ』原作本を読みながら登場人物たちが本に書いてある内容に沿ってマラソンするという筋書きですが、どこからこんな発想が出てきたんですか?
苦し紛れって言ったら何ですけど……原作が大変な展開なんですよ。そのまんまやっても予算がかかるだけで大変だなと思って。小説では成立するけど映画では成立しにくいような世界なんですよね。やっぱり、“原作を読みながら原作に近いことをしていく人たち”っていうことにしないと成立しないなと、正直、思いました。
――なるほど、必要に迫られた部分があったんですね。じゃあ、逆に、原作のまま残そうと思った部分はありますか?
原作を読んだとき、「主人公たちがいい子すぎる」って思ったんですよ。だから、映画では、主人公の直人はイヤな奴からスタートして、いかに原作の直人になっていくかっていうところを裏テーマにしました。原作から一番遠いところからスタートして、ラストに近づくにつれてどんどんシンクロしていくようにしたいなと思ったんです。あと、ヒロインのルミは原作だと「ルナ」なんですけど、わざと1文字違いにして。いかにもかわいいかわいいみたいにさせたくなかったんで「えっ、この子がヒロイン?」って思うようなキャラクターにして、最後には紛れもないヒロインになるっていう風にしました。見終わったときに読者が「わりと『ライヴ』だったよね」っていう感じになればいいんじゃないかなぁって、思ったんですよね。ゴールから逆算して組み立てました。
あとね、原作だと直人とルミと伸介の3人の関係性がすごい薄くなるんですよ、後半になればなるほど。だからその真逆をいって、原作にはなかったけど映画の方にあることによって、原作に元からあったかのように思えるようなつくりにしたいな、と思って。
――主人公の直人役には何故、山田裕貴さんを抜擢されたんですか?
オーディションをさせていただいて決めたんですけど、山田さんはワイルドな感じがありながらも、すごく繊細なところがあって。今の役者さんって線が細いじゃないですか。だけど山田さんの場合は野生な感じがする。あと、すごく真面目だし、お茶目でユーモアがあるところがあって。彼はお芝居が大好きなんですよ。スタッフ側というか、つくることが大好き、みたいな感じ。今の若手の役者さんは自分が周りからどう見えてるかっていうかっこつけが先に来ちゃう人が多い気がするんですけど、別のインタビューでもご本人と話したときに「観客のためだったらどんなに鼻水が出ようが顔が歪もうが全部さらけ出したい」って言ってらして。そういう意味ですごく役者向きだなと思ったんです。
――では、ヒロインのルミ役にはどうして大野いとさんを?
オーディションのときに「この人の普段の感じは面白いな」と思ったんです。本人はどういう内容のオーディションか詳しく知らされずに呼ばれていたみたいで、すっごく怯えてたんですよ。その怯えた表情がすごい面白かった。だから「この人にいろんなことさせたいなー」と思って。そんな風に思う女優さんは久しぶりでしたね。
《奥 麻里奈》
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