多視点動画視聴ソリューション……「VIXT」でできるようになること
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電通と電通国際情報サービス(ISID)は9月17日、インターネット環境でのユーザーと映像の関わりあいに着目し、新しい映像の価値を創出する多視点動画視聴ソリューション「VIXT」(ビクスト)を発表した。
このVIXTは、JR大阪駅前にあるグランフロント大阪北館ナレッジキャピタル ザ・ラボ アクティブスタジオにおいて、19~21日の期間限定で体験できるという。
VIXTは、ウェブブラウザ上でユーザーが自由に見たい視点で映像をシームレスに切り替えながら視聴できるソリューションだ。ISIDが提供する映像配信専用プラットフォーム「PotaVee」によって、通常のWiFi環境(2.4GHz、または5GHz対応)でも、HD動画や音声、テキストなどを、スマートフォンやタブレットといったマルチデバイスへマルチキャスト配信することができ、切り替えた視点は他ユーザーと共有することも可能だ。
具体的には、VIXTを導入するとウェブブラウザのUI上に動画サムネイルが表示され、それをクリックすると選択した動画が大画面に切り替わる仕組みだ。その際に下部スクロールバーの色が変わるため、切り替え時のポイントもすぐに分かる。また任意のシーンで、さまざまなコメントを入力できる「ピン機能」も搭載。個別のユーザーから視た映像やピン情報を保存すると、インターネットを通じて情報がシェアされる。SNSとの連動により、自分のオススメの視点の動画を公開するなど、新たな楽しみ方の可能性が広がるだろう。
●ライブやスポーツの試合で視点を選べる
発表会では、アイドルユニットの「東京パフォーマンスドール」のライブ動画が流された。ここでは6つのカメラから自由に視点を切り替えるデモが実施された。事例として特に面白いと感じたのは、生ライブでの応用だ。実際のライブでは1つの方向しか視えなくても、帰宅後にタブレットから別方向の視点を選べる「ライブおさらい配信」を実現できる。アイドルだけでなく、サッカーや野球などのスポーツ系コンテンツでも、役にたちそうだ。
eラーニングなどの動画教材でも、講師が重要なシーンで前述のようなピン留めやコメントを付与したり、逆に学習者が質問のレスを付けるなど、双方向コミュニケーションが取れる。またリピート視聴によって、コンテンツの価値が高まり、その寿命が長くなる可能性もある。たとえば前述のように、自分が好きそうな視点を後からゆっくり点検したり、自分の同じようなタイプの他ユーザーがどのような視点で見ているのか? あるいはスポーツ選手ならばどう試合を見るのか? など、視点を比較したり、興味の範囲も尽きないだろう。
このように考えていくと、VIXTの利用シーンと価値はどんどん広がっていきそうだ。なお、この多視点動画配信に使われている複数視点合成と視点切り替えの技術は、すでに国内外において特許を出願しているとのこと。電通とISIDの両社は、VIXTによって新しいライブや視聴の体験を世に広めていきたい意向だ。
●撮影から視聴まで、CGM的な観点から“動画革命”
実はVIXTの大きなポイントは、動画を多角的に視るテクノロジーだけにフォーカスされるものではない。もちろん技術的なことは大切だ。だが電通とISIDは、VIXTが今後の動画コンテンツとユーザーのかかわり方を劇的に変化させる可能性を秘めていると考え、そのポテンシャルに期待しているようだ。
これまで両社は、テレビやインターネットにおける広告やイベント・サービスなどで、映像ビジネスと深くかかわってきた。とはいえ近年の技術進歩は大変著しく、業界を取り巻く状況も変わりつつある。たとえばYoutuberという言葉が生まれているように、動画がよりユーザーに身近なものになり、個人でも大きな利益を受けるツワモノも登場している。ユーザーがCGM的発想で動画を気軽に配信し、誰もが、いつでも、どこでも視聴できる環境が整ってきたのだ。
電通関西支社の志村彰洋氏は、「映像の撮影・編集・記録・配信・視聴という各フェーズを総合的にとらえ直すことで、従来にない新しいサービスやソリューションを創出したいと考えている。オーケストラの指揮者のように、ユーザーが主導してサービスが自然発生的に変容していくことになれば、ビジネスや広告の在り方もドラスティックに進化していくだろう」と、VIXTを開発した経緯について説明する。
今回のVIXTは、このような環境変化を鑑み、広告業界のガリバーである電通が、新たな映像革命の中心となるべく動き出した第一弾のプロジェクトという意味合いもあるようだ。現在、国内の映像コンテンツ市場は約4兆5000億円の規模だ。しかし、これまでのコンテンツは「完パケ」(完全パッケージ)が中心の世界だった。誰が見てもコンテンツは同じものばかりという状況は、マルチユースの観点からも勿体ない。これは作り手による一方向からの見せ方が主体だったからだ。
●完パケ提供から解放される?
志村氏は「VIXTの技術を活用することで、完パケ提供から解放される点が大きな鍵になると思う。ユーザー側にカメラ視点の選択権を任せるため、コンテンツ自体とコミュニケーションを取れるからだ。そうなるとユーザー側でも手が加わり、それが架け橋になって、次なる新感覚のコンテンツと有機的な出会いをもたらすことになるだろう」と強調する。
前述のようなソーシャルネットワークで高まる視点の価値は、電通の次世代のビジネス戦略につながるものだ。たとえば、VIXTによる多視点動画を分析することで、アングルごとの視聴率も測定できる。どのシーンで、そういう見せ方がよいのか、制作者側でも把握できるようなる。また動画の視点分析にとどまらず、クッキーからとった他の情報との相関を分析すれば、もっと多様なことが分かる。視聴者の性別・年代などの属性データから、自分の属性に人気のアングルをレコメンデーションしたり、そういったターゲットに向けた広告も打てる。
志村氏は「VIXTのインタフェースにウェブブラウザを選択したのも、そういう点を見越したものだ。また技術は囲い込むのではなく、オープンなものを使っている。これからプロジェクトを成功させるには、我々の力だけでは難しい。ユーザー、ディストリビューター、コンテンツ・オーナーの力が必要不可欠だ。オープン・パートナーシップで広く協力を集っていたい」とアピールした。
《井上猛雄》
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