女子高生が生みの親!? 金沢市発祥の人気メロンパンアイス誕生秘話
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まさに地方発のヒット商品と呼べるものだが、そこに至る道は平たんではなかった。「世界で2番めにおいしい焼きたてメロンパンアイス」(以下:メロンパンアイス)を販売し、全国展開しているのは「グランタス」という企業だ。開発したのはグランタス 取締役副社長 三上史朗氏。グランタスを興す前はメロンパンの移動販売をしていたという。どういう経緯でメロンパンアイスを発明し、また全国に広めていったのだろうか。
■20代、30代は逆境を原動力にしていた
三上氏は、20代のころは都内大手商社のグループ企業に属していた営業マンだったそうだ。成績は上位だったそうだが上司とぶつかることもあり、結局その商社は辞めることになった。その後石川県に戻りお見合いイベントの会社を興す。これは、インターネットの普及とともにオフラインでのマッチングに見切りをつけ、次は飲食店経営に乗り出した。しかし、建物のトラブルから事業に支障をきたし、テナントの大家ともトラブルとなり、店をたたむことになってしまった。やむなく始めたのがメロンパンの移動販売だった。
波乱続きの20代、30代、40代、三上氏は「商社マンだったころや金沢で事業をしていたころも、正直なところ、会社やトラブルのあった人を恨むこともありました。その後に始めた移動販売も天候に大きく左右されるなど安定しないこともあり、どちらかというとネガティブな気持ちを原動力に仕事をしていたんですね。」と振り返る。
しかし、3.11の震災を見てこの考え方が変わったという。
東日本大震災の衝撃は、被災者以外にも多くの人に、自分を見つめなおす機会を与えた。三上氏は、「自分はいままで生かされていただけなのでは」ということを考えるようになり、過去のトラブルや恨みなどが自然と消えていったという。
■メロンパンアイスとの出会い
自分でも心境の変化を感じた三上氏にひとつの転機が訪れる。メロンパンアイスとの出会いだ。
ある日、女子高生の常連さんが「おっちゃんのところのメロンパン、アイスと一緒に食べるとすっごくおいしいんだよ。」と言ったそうだ。たまたま自分で試したところ美味しかったのだろう。そう思った三上氏は、「ふーん。そうなんだ。」と普通に聞き流していた。しかし、女子高生は「あ、バカにしてる!」と、そのとき出店していたスーパーでアイスを買ってきてメロンパンアイスにして食べ始めた。いっしょにいた友達も食べてみたところ、女子高生たちの味覚にあったのか、全員が「おいしいーっ!」と悲鳴を上げるほどの騒ぎになった。さっそくマネしようとコンビニにアイスを買いに行く子も現れた。
この出来事で、三上氏はメロンパンとアイスの組合わせは面白いかもしれないと思うようになった。「ひょっとしたら」という想いもあったが、確信するまでには至らなかった。同僚や家族の反応は賛否が分かれたからだ。ちなみに、同じメロンパンの移動販売をする仲間で唯一「これは売れる」といってくれたのが、現在グランタスの専務取締役である小山恭平氏だ。
■移動販売車の故障がメロンパンアイス完成へ導く
三上氏に次の転機が訪れる。移動販売に使っていた車が故障で動かなくなったのだ。トランスミッションの故障で交換しなければ直らないと言われた。修理代や別の車を購入する資金も乏しかったため、移動販売をあきらめざるをえなかった。
以前の三上氏なら、このような逆境に対して別の事業や商売を考えていたかもしれない。しかし、3.11以降考え方が変わった三上氏は、別の道を選んだり、ネガティブになることはなかった。「幸い車が動かないだけでオーブンは使える。むしろ、これはメロンパンアイスを研究し、完成させるチャンスだ(三上氏)」と考えた。
移動販売車が故障したのが、奥さんの実家が山奥の曲水苑という温泉旅館だった。やむなくそこでメロンパンアイスの開発にいそしんだ。メロンパンの焼き具合、味、それに合うアイスクリームの銘柄、味についてさまざまな組み合わせと試行錯誤を繰り返したという。市販のアイスクリームはほとんどすべて試したそうだ。
味の改良・追及を続けながら、旅館の敷地を借りてメロンパンアイスの販売も始めた。通りに手作りの看板を出しただけで、とくに宣伝などしなかったが、旅館の宿泊客だけでなく、メロンパンアイスを買いに来るお客さんもでてきた。やがて山奥の旅館においしいメロンパンがあると評判になり、1日10人以上のお客さんがくるようになった。山奥で「熊出没注意」の看板があるくらいなにもない田舎にもかかわらずだ。
■イベントや物産展では「空振り」なし
三上氏は、この手ごたえでメロンパンアイスの成功を確信したという。といってもすぐに店を出すほど資金はなく、地域のイベント、お祭りや物産展に機会があれば出店し、旅館敷地での販売を続けていた。出店したイベントやお祭りでは、「空振り」することはなく、どこでも行列ができ、完売・大評判となった。あるイベントでのお客さんがメロンパンアイスのことを覚えており、別のイベントでも出店を知るとわざわざ買いにくる人もいたという。
評判や口コミが少しずつ広がっていき、地元の物産展などからは「メロンパンアイスを出してくれ」と逆に声がかかるほどになった。さらに、「条件があえば出資してもいい」という投資家も現れた。これがグランタス社長 河上伸之輔氏である。
三上氏は、これで店がだせると店舗探しに奔走した。多数の物件をあたるが、なかなか条件にあうものが見つからなかった。当時、三上氏はメロンパンアイスのターゲットを決めていた。やはりアイデアをくれた生みの親でもあり、これまでの販売実績などからメインターゲットは女子高生と絞り込まれていた。三上氏の目に留まったのは、市役所の向かいにある古いテナントだ。たまたま立ち寄った市役所から、近くの高校の生徒が下校するのをみてピンときた。さっそく不動産屋に連絡した。元は蕎麦屋だったらしく、厨房用の水回りなどが確保されており、オーブンの位置などすぐにイメージできた。しかも、市の助成金の対象となる物件で、家賃の半分が補助される。これなら、河上氏の出資額で賄えると、そのテナントを契約した。
■ようやく1号店を開店するも…
工事は知人の協力を得ながら、自分で大工仕事もこなし、出資してくれたお金を無駄にすることはなかった。看板の位置にもこだわった。通学のバスから見えるようにと少し高い位置に「世界で2番めにおいしい焼きたてメロンパンアイス」という看板を掲げた。現在の広坂本店の誕生である。
なお「世界で2番め」というフレーズは、女子高生にキャッチ―な商品名を狙ったという表面的な効果もあるが、もっと深い意味が込められている。ひとつは三上氏が師匠と思う人のメロンパンは越えられないという意味。もうひとつは、どんなものでも1番は、家族だったり恋人だったり自分に近い存在の人に関わるものだという三上氏の哲学だ。
2013年8月12日、「世界で2番めにおいしい焼きたてメロンパンアイス」の1号店が開店した。オープンが夏休みと重なったため、客足が思ったように伸びない。9月に入ってもあまり客足が伸びず、社長からは9月もこの調子なら店をたたんだ方がよいという声も聞こえだす。三上氏は、10月まで続けられるだろうかと、本気で心配したという。しかし、9月15日、アルバイトから連絡が入る。
「大変です。お店の前に行列ができてます!」
きっかけはツイッターの書き込みだった。実は看板効果もあり、女子高生たちは休み明けからお店の存在は把握していたようだ。徒歩通学なら下校時に店の前を通るが、バス通学だと途中下車しないかぎり通過してしまう。すでに食べた子らの口コミやツイートが徐々に広がり、夏休み後の連休となる9月15日に行列を引き起こしたのだ。人気はその後も続き、行列が通行人のじゃまになったりゴミ問題まで持ち上がるほどになった。
■店舗開設希望者も殺到――フランチャイズ展開に
そのため、わずか2か月後には2号店を開店している。そんな評判は、地元メディアやマスコミにも広がった。
あるインタビューで、社長が「店舗をもっと増やしたい」と発言したところ、「メロンパンアイスを私もやりたい」「地元に店をだしたい」という希望者がすぐに現れた。三上氏らは、拒む理由もないし自分たちの商品が広まっていくならと、希望者に必要な研修と指導を行っていった。現在、全国に20店舗以上がフランチャイズ展開しており、年内には40店舗が見えているというが、きっかけは店をだしたいというリクエストに応えるためであり、グランタスが積極的にフランチャイズを始めたわけではない。
フランチャイズ店の研修を一手に引き受けるのは、前述専務の小山氏だ。小山氏は「フランチャイズといっても、一般的なシステムとは違い、うちのはのれん分けとフランチャイズの中間のようなものです。例えば原材料の銘柄は指定しますが、調達先などは店ごとに自由です。安く仕入れるルートがあれば、そちらを使ったほうがいいですから。また、オリジナルメニューもOKです。地元の特色を生かしたメロンパンアイスも認めています。正直言ってゆるいです(笑)。」と語る。
■渋谷店はVineでブレーク
もともと計画したフランチャイズではないので、グランタスのシステムは、面倒な業務の制限はない。中小企業や小規模事業者の場合、従来型の囲い込むモデルは古いとし、ポリシーや価値観の共有を優先する次世代型のフランチャイズが今の時代に合っていると考えている。その価値観の共有に重要な役割を果たしているのが、三上氏・小山氏の原点ともいえる「移動販売」だ。フランチャイジーの研修の最後は実際に移動販売を経験することが必須だ。
フランチャイズでは、渋谷店で面白いエピソードがある。メロンパンアイスは渋谷にも出店しているが、渋谷の女子高生はノリが違うのか、出店当初じつはあまり売れなかった。「申し訳ない」と渋谷店の店長から相談があると、三上氏は「今日のお客さんに売れないなら、明日のお客さんに売ろう。」と答え、SNSの利用をアドバイスした。
そこで、渋谷店では、お店の前でメロンパンアイスをVine(6秒間の動画投稿アプリ)に動画を投稿したら50円引きというキャンペーンを展開した。これが瞬く間に話題を呼んだ。女子高生の間でメロンパンアイスの動画をVineにアップするのがちょっとしたブームになる。すると、若手モデルたちがプロモーションになる(女子高生に見てもらえる)と、メロンパンアイスの動画をVineに投稿しだした。
■商品力+ソーシャルネットワークという戦略
数年前、とある女子高生のレシピから生まれたメロンパンアイス。それを商品化しただけでは一過性のブームで終わったかもしれない。
女子高生のちょっとしたアイデアを三上氏が商品として完成度を高めたこだわり。試行錯誤(商品開発)とシミュレーション(露店売り、イベント販売)などからのフィードバックの的確な分析とターゲットの絞り込み。イベント、看板、ツイッター、Vineなど情報ツールを活用するセンス。独特のフランチャイズ展開。インタビューで感じたのは、メロンパンアイスは、商品力、マーケティング、ソーシャルネットワーク(SNS)や外部リソース(フランチャイズ)の効果的な活用に裏付けされたヒット商品だったということだ。
~地方発 ヒット商品の裏側~女子高生が生みの親?――「世界で2番めにおいしい焼きたてメロンパンアイス」はどのようにして誕生したか
《中尾真二/HANJO HANJO編集部》
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