相次ぐ豪雨災害、どのような対策が必要?
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◇事業の必要性、広い視野持ち判断を◇
9月の関東・東北豪雨は、河川インフラの重要性を社会にあらためて認識させた自然災害だった。茨城県常総市三坂町では、利根川水系鬼怒川の左岸側堤防が一部決壊し、多くの家屋が流された。関東地方の国の直轄河川が破堤したのは1986年の小貝川以来。漏水や、のり崩れ、堤防・河岸の洗掘なども合わせた鬼怒川全体の被害箇所は、9月25日時点で計95カ所に上っている。
国土交通省関東地方整備局によると、鬼怒川の河川整備基本方針では、100年に1回程度の洪水を安全に流下させられる治水機能の確保を最終的な目標にしている。計画上の堤防の高さは、計画高水位に1・5メートルを加えた水準が基本。しかし、現在は、30年に1回程度の洪水を想定したインフラの整備を進めている段階で、完成した築堤の割合は、対象区間の4割程度にとどまっているという。
堤防拡幅の完成までに長い期間を要するのは、沿川の地権者らとの用地交渉が必要になることが要因の一つだ。しかし、用地取得を早めるため、巨額の予算を投じればいいというわけでもない。築堤は川の上下流、左右両岸のバランスを慎重に計算した上で進めなければ、増水時に思わぬ負荷が堤体に発生し、かえって危険を招く恐れもある。関東整備局は、治水対策の優先区間を定めた上で、用地を取得できた箇所から順次事業の進ちょくを図っている。
今回の豪雨災害を受け、外部有識者らで組織する関東整備局事業評価監視委員会は、「公共事業の必要性は、単なる費用対効果の観点にとどまらず、広い視野で判断しなければならない」と強調している。治水対策の一層のスピードアップには市民の理解を促進する努力が欠かせないことを踏まえ、激甚化する自然災害への備えとなるインフラの社会的役割を世間に発信していく方針だ。
ハード整備の完了までには一定の時間を要する以上、並行してソフト対策の準備を進めておくことも必然といえる。鬼怒川の破堤箇所の本復旧工法などの検討に携わっている専門家は、「川の近くに住んでいる市民には、水害のリスクを背負うことの自覚を持ってもらうことも必要だ」と話している。
◇八ツ場ダムの重要性再認識◇
過去の教訓を基に計画的に整備されたインフラのおかげで自然災害の危機を回避できたケースも多い。9月の豪雨災害では、関東整備局が管理する鬼怒川上流の四つのダムが1億立方メートルもの水をダム湖にため、下流側の増水を抑えた。
豪雨災害の頻発を受け、関東整備局が利根川水系吾妻川に建設中の八ツ場ダム(群馬県長野原町)などの役割も高まっている。
鬼怒川上流にある関東整備局のダムは、▽湯西川▽五十里▽川俣▽川治-の4カ所。関東整備局によると、堤防が決壊した常総市三坂町では、堤体の高さを約20センチ上回る越流が起きたとみられている。
それでも四つのダムがあったことによって、決壊地点の水位は約30センチ低下したと試算。鬼怒川から常総市内にあふれた水の量は3400万立方メートルに上ったが、ダムがなければ、水量は6200万立方メートルに達し、被害はさらに拡大していたと分析している。
ダムと同様、9月の豪雨災害で浸水被害の軽減に寄与したとされる河川インフラの一つが、本川から水があふれた場合に備え、川に並行する形で設ける人工の貯留池(遊水池、調節池)。渡良瀬川にある遊水池は、東京ドームの容量の約70倍に相当する8600万立方メートルもの水をため込み、地域に水があふれるのを防いだ。
中川・綾瀬川流域にある首都圏外郭放水路も効果を発揮している。同放水路は、02年の部分通水の開始以降、最大の流入量(1837万立方メートル)を記録したが、流入した水を立坑から地下に流し、トンネルを通して江戸川まで排出した。土砂崩れが多発した栃木県日光市芹沢地区では、渓流に設置された砂防堰堤が土砂や流木をせき止め、住宅地への被害拡大を抑止している。
既に機能している一連の水害対策を強化する新たな備えとして期待される河川インフラの一つが、19年度完成予定の八ツ場ダムだ。
関東整備局によると、総貯水容量(1億0750万立方メートル)は他のダムに譲るものの、雨をとらえられる範囲(集水面積)は最大級の711平方キロに上る。
このため、完成すれば、さまざまな進路の台風や雨の降り方に対応し、効率よく水をためることができる上、新たなダム湖は夏場の渇水対策にも役立つとみられている。
現地では、ダム本体の基礎掘削の一環として発破で硬い岩盤を砕く作業などを実施中だ。堤体のコンクリート打設には16年度に着手する。
相次ぐ豪雨災害……堤防の課題露呈、計画的整備が危機回避
《日刊建設工業新聞》
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