【木暮祐一のモバイルウォッチ】第93回 東日本大震災から5年、通信ネットワークの災害対策は進んでいるのか?
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このように携帯電話やスマートフォンを災害対策等に活用しようというこうしたアイデアは尽きないのだが、どれほどコンテンツ企業や研究者、さらにはユーザーが工夫をこらしたところで、いざというときに通信インフラが正常に利用できなければ災害対策向けサービスは十分な力を発揮できない。ここは通信事業者の努力に委ねたいところだ。
■通信事業者の対策と実用可能なアイデア
震災直後、当然ながら筆者のポケットにあった携帯電話やスマートフォンは使い物にならなかった。音声通話はもちろん、Eメールでさえ送受信できない状況に陥っていた。一方で、TwitterやFacebookは、リアルタイムとまではいかなかったが、なんとか通信を行うことができ、これらを使ってようやく家族の安否を確認することができた。大災害が発生すると一斉に通信が行われるために通信がつながりにくい「輻輳(ふくそう)」という状況に陥る。通信事業者が通信規制も行うのでますますつながりにくい状況となってしまう。音声通話ができなくなるのはこれが要因である。
さらに東日本大震災の教訓としては、長時間の停電によって基地局への電力供給ができなくなり、震災直後は通信できた基地局も、翌日以降は備えられている蓄電池の電力も尽きてしまって、各地で携帯電話の電波が途絶え「圏外」になってしまうという状況に陥った。津波被害を受けたエリアでは基地局そのものが流出してしまったところも少なくなかった。
各通信事業者とも、震災直後はアンテナや通信設備などを装備した基地局としての機能を備えた「移動基地局車」を被災地に派遣し、通信エリアの補完を行った。NTTドコモの場合は自衛隊と連携し、直ちに被災エリアの通信確保に動ける体制を持っていた。一方、KDDIやソフトバンクは東京から東北の被災地まで陸上を自走し支援に向かっていた。その涙ぐましい努力は関係者からたびたび聞かされた話だ。
こうした基地局そのものの被害に対する対策として、通常の基地局とは別に半径約7km、360度のエリアをカバーする災害時専用の基地局である「大ゾーン基地局」の整備を通信事業者は進めている。NTTドコモは2011年度以降全国に106か所の大ゾーン基地局を設置しており、さらに人口密集地の更なる通信容量確保を目的として2016年度末までに全てLTEに対応させるという。大ゾーン基地局のLTE対応により通信容量は約3倍に拡大できるという。大ゾーン基地局は停電対策も通常の基地局以上の配慮が行われており、自家発電機や発電機を回すための重油タンクなども備える。NTTドコモに続き、KDDIも大ゾーン基地局の整備を2013年から始めている。
またNTTドコモは大ゾーン基地局の他に「中ゾーン基地局」の整備も進めている、これは通常の基地局の基盤を強化した基地局で、平時は通常の基地局として運用し、災害時に周辺の基地局がサービス中断に陥った場合、中ゾーン基地局のアンテナ角度を変更することでエリアの広さを拡大できるものである。多様な自然災害への備えとして、大ゾーン基地局ではカバーしきれない沿岸部や山間部などの通信確保を目的に、NTTドコモは2017年度末までに全国で1,200局以上の中ゾーン基地局を整備するとしている。
冒頭、犠牲になられた方の多くが最後まで携帯電話を握りしめていたことに触れた。緊急地震速報に代表されるように、携帯電話(スマートフォンを含む)には緊急時における情報を受け取る機能やサービスは充実してきた。今後期待したいことは、逆に端末側から情報を発信する機能の方だろう。緊急時に助けを求められるよう位置情報付きの緊急信号を発する機能などが考えられる。
またモバイルネットワークも輻輳が想定され、緊急時に本当に緊急の通報が必要とする人たちが信号を発信できる手段の考案も求められる。せっかく携帯電話やスマートフォンには、位置情報を加えた情報を発信する機能が備えられている。これを緊急時に使わない手はない。
2013年から、サイバーフィジカルシステム研究所の曽根高則義氏は、バルーンを使って簡易基地局を上空に飛ばし助けを求める被災者等を捜索できる「初動緊急期対応ソリューション」というアイデアを考案し、実用化に向けアクションを起こしている。技術的な側面もさることながら、こうしたシステムの実現にはさまざまな法律も壁になり一筋縄ではいかないことが容易に想像できる。とはいえ緊急事態は待ってはくれない。ここは緊急時に備える制度整備が迅速に進んで行くことを期待したいものだ。
《木暮祐一》
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