スーパーホテルがビジネスマンに支持される理由
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今年で20回目の節目を迎えた日本経営品質賞は、過去に日本電気、アサヒビール、日本アイ・ビー・エムなど、日本を代表する錚々たる企業が受賞しているが、今回受賞したスーパーホテルは2009年度に続き、2度目の受賞となった。なぜ、同社が2度目の受賞ができたのであろうか? そこには、あくなき経営品質向上へのこだわりと、お客様視点の徹底したサービスの追及、IT化による生産性向上、そして優秀な人材育成に秘密があった。
■従来の低価格路線に加え、“Lohas”を盛り込んだ新コンセプトで女性客も急増中
スーパーホテルは1989年に設立され、国内112店舗と海外4店舗(2016年1月現在)を展開している国内屈指のホテルチェーンとして知られている。同社の山本梁介会長は、1970年からシングルマンションビジネスを展開していたが、その後1990年にホテルビジネスへ参画。現在のブランド名となる「スーパーホテル」として、宿泊特化型ビジネスホテルをスタートさせた。
2009年に初めて日本経営品質賞(中小企業部門)を受賞した同社は、「安全」「清潔」「ぐっすり眠れる」空間をローコストかつハイクオリティで提供するビジネスモデル戦略をとっていた。しかし、リーマンショック以降、シティホテルの低価格路線が浸透し、競争も激化してきたという。
山本会長は「そこで時代を先取りする創造的企業として“Lohas”(Lifestyles of health and sustainability)を新コンセプトに加え、環・眠・食・気・地域(環境・睡眠・食事・元気・地域)のLohasサービスを打ち出しました」と振り返る。
これらの取り組みにより、2011年にはホテル業界で初めて環境省から「エコ・ファースト企業」にも選出された。これは、企業が環境大臣に対して、地球温暖化対策など自らの環境保全に関する取り組みを約束する制度で、現在39社が認定されている。同社では「省エネ設計」「ITの省エネ化」「ISO14001準拠の環境マネジメント」の3本柱で環境改善を進め、2010年には同ホテルのCO2排出量を32%(2001年度比)も削減したという。
またスーパーホテルには、年間で延べ466万人が訪れるため、宿泊客を巻き込んだ形でのエコ活動も展開している。たとえば「エコ泊」は、スーパーホテルの公式Webサイト(http://www.superhotel.co.jp/)から予約することで、1泊の宿泊で発生するCO2分を同ホテルがクリーンエネルギー事業に投資してカーボンオフセットを行う仕組みだ。
また、マイ歯ブラシやマイ箸を持参すると、地元のお菓子や植物の種がもらえたり、連泊中の清掃不要でオリジナルミネラルウォータをプレゼントする「エコひいき」も好評だ。これによりビジネスマンだけでなく、女性客の評判も非常に高くなったという。
山本会長は「省資源・省エネルギーの21世紀型ホテルとして環境と健康に配慮し、宿泊されるすべてのお客様に“幸せホルモン”を出してもらいたいと考えています。女性の社会進出が増えるなか、我々にとって女性の皆様も大変重要なお客様なのです」と語る。
睡眠については、ぐっすり眠れるための拘りとして、8種類の枕をチョイスできたり、ダブルベッドの固さも予約時に選べるそうだ。また眠りを促進する照明設計や、健康イオンスリッパ、ぐっすり眠れるオリジナルのBGMなど、細かい点にも配慮している。
「高級シティホテルにも負けないぐらいのダブルベッドと、8種類の枕をチョイスできます。これも他のホテルにはないサービスだと自負しています。また食事面では無料の朝食バイキング時に、有機JAS認定野菜を使用したサラダやオリジナル健康ドレッシングなども提供しており、こちらも女性のお客様に大変喜ばれています」(山本会長)。
元気の源は「気」だ。同社では、宿泊客が元気になってもらうフロントサービスを常に心掛け、接客と育成を徹底している。数多くの研修制度や能力開発プログラムが用意され、支配人・副支配人の右腕となる「NO2.育成」(アテンダント)にも力を注ぐ。また年1回、接客スキルを競いあう「スーパーホテルグランプリ」も開催。地区大会を勝ち抜いたアテンダントが接客スキル競い、その模様も教育ツールとして社員にDVDで頒布される。
その一方で、同社では全国ホテルチェーンとして、競合他社が出店することが難しい地域にもフランチャイズ(FC)を積極的に展開している。これにより地方創生と雇用創出に結びつけているのだ。たとえば、愛媛県八幡浜市や、四国中央市、島根県江津市にも新たなホテルをオープンさせている。
「地方にお客様を呼び込むためには、宿泊施設が必要です。しかし人口が数万人の地方都市では、全国区のホテルを誘致することが難しいのです。そういう状況のなかでも、ローコストで高い顧客満足度をもち、全国区で展開できるのは当社しかありません。そこでCSV(Creating Shared Value:共通価値創造)の考え方を取り入れ、地域活性化に取り組んでいるのです」(山本会長)。
■ITシステムによる徹底した合理化と、データ分析による改善案で顧客満足度もアップ
スーパーホテルのユニークな点は、このような“Lohas”の環境理念だけではない。ホテル業界のなかでも先進的なITシステムを自社で設計していることも特筆すべき点だ。
どんな業界でも共通していることだが、IT投資には相応のコストがかるため、トップへの理解を求めることが大変だ。特にホテル業界などのサービス分野でIT投資を行う際には、トップダウンでの意思決定が重要になることは言うまでもないだろう。
実は、山本会長はシングルマンション事業を展開していた当時から、ITを積極的に取り入れており、その理解も深い。まだマンパワーが中心で、一般的にもITを刷り込むことに理解が得られなかった時代だ。そんな早い時期から導入したITシステムがベースとなり、現在のITシステムは非常に高度に進化している。ビジネスモデルの根幹となるローコストオペレーションと、日常の感動サービスを支える縁の下のインフラになっているのだ。
たとえば、ホテルシステムをプライベートクラウド上で運用し、予約・残室・チェックイン会員などの管理を行ったり、各ホテルに配置した自動チェックイン機と各部屋の暗証番号錠と連動させ、「ノーキー・ノーチェックアウト」を実現。このシステムはビジネスモデル特許を取得しているという。
「自動チェックイン機から発行される領収書に暗証番号が記載されています。これを入力すると客室が開錠されるので、従来のようなカードキーは不要です。また部屋に電話を設置せず、チェックアウト時の精算も要らないため、朝の忙しい時間帯にすぐに出発できるのです」(山本会長)。
特に驚いた点は、10年前に室内電話をすべて廃止したことだ。これはホテル業界で初めての試みで、現在も追随する競合他社はない。
「徹底的なIT化を進めるなかで、やがて室内電話がいらなくなると感じていました。そこで思い切って廃止の決定を下しました。いまは携帯電話が主流なので、室内電話がなくても困りませんし、フロントとの連絡には各フロアーにある内線電話をご利用いただけます。またモーニングコールは室内の目覚まし時計で設定できます」(山本会長)
これらの大変ユニークなモデルは、宿泊客の利便性だけでなく、少人数のフロントオペレーションにおいても効果を発揮し、生産性に貢献している。
またホテル最小単位の情報をDWHサーバに蓄積し、様々な情報を分析している。たとえば、需要に応じて宿泊単価を適正化させるために「ナビゲーションシステム」(イールド・マネジメントシステム)を構築し、地域のイベントなども加味したうえで、過去から現在までの予約状況から適切な打ち手を判断することで、売上げをアップさせた。
このほかにも、顧客満足度と生産性の向上を考慮してホテルの人員を最適配置する「ワークスケジュール」も導入している。さらに宿泊客の情報やアンケート結果を集計。なぜこの店舗で反応がよいのか? などを分析し、その結果を自社開発した共有システム「スーパーウェア」からスタッフ全員にフォードバックし、よりよい接客に役立てている。
「このような施策の効果は、数字としても明らかになっています。たとえば、お客様から感謝の気持ちが寄せられる“サンキューメール”の数は、3000通から6000通に倍増しました。また外部評価機関からの顧客満足度も高く、J.D.パワーの“ホテル宿泊客満足度調査(1泊9000円未満部門)”で2年連続1位を獲得し、ビジネスパーソンのリピート率も大幅に向上しています」(山本会長)。
■人間力が豊かで、感性の優れた「自律型感動人間」の育成がカギ!
具体的に目に見える形で、サービス価値を高める施策と改策を繰り返すことで、顧客満足度を高めてきたスーパーホテルだが、その根幹に通底しているのは、やはりサービス業としての人材育成にあるという。いくら環境やITシステムが整っても、それを最後に提供するのは、やはり人だからだ。そのため同社では「自律型感動人間」の育成を掲げている。
「ビジネスで成功している人を観察すると、感謝・感動の価値観をもつ“人間力”と、何かピンチに際して乗り越えられる“感性”が備わっています。私はすべての社員に成功する人になってもらいたいと考えています。そこで人間力が豊かで感性の優れた“自律型感動人間”になるための支援を、ホテルの運営に関わるすべてのスタッフに行っているのです」(山本会長)。
当然のことかもしれないが、マニュアル的な経営やサービスだけでは、どんな事業でも顧客の心には響かない。期待を超えたサービスの先に感動の源泉があり、それに対して個々のスタッフがどうすべきか、自身で考えて行動できる人間になるということだ。社員一人ひとりが、自律型感動人間になることによって、何度もスーパーホテルに足を運んでもらえるリピータが増えていく。
とはいえ、このような理念を全社員に浸透させるのは大変だ。そのため同社では、理想的な社員の姿を「経営指針書」と「Faith」と呼ばれる小冊子に記し、それを配布。さらに本社の朝礼で、経営指針書を毎日1ページずつ唱和したり、ページに書かれている内容を持ち回りで発表している。また月に一度の月曜朝礼では、社長が中期経営計画の読み合わせを行い、その内容を前出のスーパウェアで全店舗にも配信しているという。
そして、このような絶え間ない地道な努力の積み重ねが、今回の2度の日本経営品質賞に結実したといえよう。同社の取り組みは、その理念やITシステムによる生産性向上も含めて、他のサービス産業のお手本となるベストプラクティスになるものだろう。
最後に山本会長は、同社の今後の展開について次のように語った。
「いま海外に4店舗を展開していますが、日常の感動とLohasサービスにITを刷り込むことは、我々の独自のノウハウとなるものです。非日常の感動よりも、日常の何気ない営みを見て、“ここまでスーパーホテルはやってくれるのか!”という感動をつくりたい。これは世界に誇れる“おもてなし”であり、海外に輸出できる文化だと思います。今後アセアン諸国も成長し、訪日客も増えていくでしょう。そういったお客様にもスーパーホテルの良さをアピールしていきたい。一方、国内では、都心部での競争が激しいため、直営店を中心に回し、地方では地方創生を念頭にFCで展開していく方針です。いずれにしても、いくらIT化が進んで生産性が向上したとしても、それだけでは顧客満足度は得られません。最後に一番重要なのは、スタッフ全員のハートであり、自律型感動人間の育成にあると思います」(山本会長)。
なぜスーパーホテルは2度も「日本経営品質賞」を受賞できたのか? その秘密を探る
《井上猛雄》
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