【VRと中小企業】VRスマホが転機、実用進む3業種とは? | RBB TODAY

【VRと中小企業】VRスマホが転機、実用進む3業種とは?

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VR制作ソフト「SYMMETRY」のデモ。HMDやコントローラなど、必要な機材は30万円程度とか
VR制作ソフト「SYMMETRY」のデモ。HMDやコントローラなど、必要な機材は30万円程度とか 全 4 枚
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【記事のポイント】
▼VR普及のスタートラインは16年の秋頃
▼熟練者の動きを共有することで、教習コストを削減する
▼視聴端末はスマホ、ソフト価格も2、3年で大幅に値下がる


■16年秋に登場のVR対応スマホが転機に

 USJなどVRを演出に取り入れるテーマパークが次々と現れ、16年10月にはPlayStation専用のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)が発売を予定。VRが徐々に我々の身近なものになりつつある。だが、それはあくまでもエンターテイメント業界に限ってのことで、多くの中小企業はそれが自らの事業に関係あるとは考えていない。

 しかし、VRはビジネスの領域でも、思いのほか早く浸透していくかもしれない。その突破口の一つになりそうなのが、16年5月に発表されたGoogleのモバイルVRプラットフォーム「Daydream」だ。これに対応したスマホが秋頃には、複数のメーカーから市販されることになる。

 つまり、普段持ち歩いているスマホでVRを体験できる環境が、あと半年足らずのうちに急速に広まることになる。VRコンテンツの開発を手掛けるDVERSEでCEOを務める沼倉正吾氏によると、どうやらこのタイミングに合わせてVR対応のアプリやサービスが、一斉に登場するようだ。

「大企業はもちろんのこと、多くのスタートアップがVCなどから融資を受けて、VRの開発に取り組んでいます。現状ではまだ情報が伏せられていますが、恐らくDaydream対応のスマホの発売に合わせて、日本をはじめとする世界中で一斉に発表されるのではないでしょうか」

■VRが“イメージ”と“熟練者の動き”を共有する

 では、VRに関連するアプリやサービスが一斉に登場したとして、それが中小企業のビジネスにどのように関わってくるのだろうか。沼倉氏によると、その最先鋒になるであろう分野が建設、製造、教育だという。

 建設や製造の現場においては、これまでもCADを利用して、パソコン上で3Dでのモノづくりが行われてきた。その理由の一つが、設計図では伝えきれない情報を、クライアントや作業員へとリアルに伝えること。VRの利便性のひとつ“イメージの共有”は、その延長線上にある。

 例えば、建設であればこれまで一度も家を建てたことが無い人に、設計図からその完成像を説明するのは難しい。これは、建設業者と施工業者、さらにその現場作業員との間にも同じことが言える。作業の仕上げから重機や足場が入ることによる安全確認まで、その完成図をVRでシミュレーションできる利便性は大きい。特に、現場監督の仕事はその約6割が安全管理といわれているので、負荷を軽減することへのニーズは非常に高いという。

 一方で製造の分野では“熟練者の動きの共有”がVRの主な役割だ。製造現場である作業工程を10秒縮めるとして、手順短縮のシナリオは作れても、それをビデオやマニュアルに従って作業員が習熟するには時間がかかる。しかし、VRであれば習熟者の動きをコンテンツ化すれば、それが自分の手足であるかのように動く姿を仮想体験し、後はそれを再現すればよい。

「海外に進出している工場では人の出入りが激しく、教習を受けてから1週間で辞めてしまう人も少なくありません。このような現場でトレーニングの時間が短縮できれば、それはコストに直結しますので。VRの導入が一番早いのは、恐らく工場ではないでしょうか」


 このような使い方については教育分野も同様だ。分かりやすい例であれば、スポーツでは熟練者の動きのトレースが上達のためには欠かせない。最適な動作を仮想現実で見て、それを反復することは、精度と習熟速度の両面で的確なトレーニングとなるだろう。しかも、VRであれば自分の動きを記録して、傍観者の視点で見ることもできる。

 また、習熟時間の短縮については、ソフトへの習熟が必要ないことも大きい。物体の奥を見ようとしたときに、パソコンであればマウスとキーボードの操作が必要になる。しかし、VRなら歩いて裏側を覗きこむだけと、その使い方を教える必要すらない。

■進む価格破壊、中小企業にもVR参入のチャンスが

 ほんの数年前までVRを動作させるには、1000万円を超えるような高価な機材が必要だった。それが今や数万円のスマホで動作する。これについてはソフトも同じ。今でこそ50万円から数百万円と高価なものだが、「2、3年後には価格は相当に下がる」と沼倉氏は話している。

「DVERSEで開発中のVR制作ソフト『SYMMETRY』についても、皆さんが普段購入しているソフトの1/5から1/10ぐらいの価格で提供できる予定です。サブスクリプション(月額使用権)も広まっているので、VRが日常的に使われる頃には、価格は相当下がっていると思います」

 その一方で、VRの利用は事業のコストと時間を短縮する。例えば、マンション建設では内見の部屋を用意していたが、今後はそれをVR空間で代用できる。CADのデータをVRコンテンツに変換するだけなので、コスト的な負担はほとんどない。安価で小さな物件でも、今後は内見の場をVRで提供できるようになるだろう。

 さらに、VRは距離の問題を解決できる。現地の視察も、熟練者による指導も、VR空間で行えば移動に時間と旅費はかからない。近年では3Dスキャンの技術も発達しており、例えばスマホのカメラで撮影するなど、モノをVR空間に送ることも簡単だ。入力の敷居が下がった分だけ、VR空間におけるリアルタイムのシミュレーションも、そう難しいことではない。

 15年頃からHMDが数万円で手に入るようになり、これを機会にVRに手を出そうとしている業界も少なくない。そのため、16年はVR元年と呼ばれているが、その本格的な普及が恐らくもう間もなく訪れる。では、一体どのタイミングでこの流れに参入すべきか。先駆者となる道もあるが、もう一方で沼倉氏は3年後が一つの区切りになると示唆している。

「VRにおけるコントローラーのデファクトが定まるまで、恐らく3年から5年かかります。また、3年たてば世間にもVRが浸透し、ソフトなどの価格もこなれてくるのではないでしょうか」

 VRにおける応用範囲と費用対効果が、ようやく中小企業にも手に届く範囲に降りてきた。これをどのタイミングで掴むか、注意深く見守っていきたい。

【VRと中小企業:1】VRスマホが転機、実用進む3業種とは?

《丸田鉄平/H14》

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