【3Dプリンターと製造業】中小企業の街・大田区蒲田で3Dプリンター活用を支援
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
▼3Dプリンターの普及が遅れる原因は「中小企業の情報不足」
▼製造ラインには無いものづくりでコストを削減
▼素早いサンプル提供で販売機会を拡大
■国産3Dプリンターメーカーが中小企業を支援
中小企業の街、大田区蒲田。ここに日本では数少ない3Dプリンターメーカーのひとつ「スマイルリンク」がある。「おおたFab」というFabLab――3Dプリンター、レーザーカッター、NCなど、ITや工作機械を使ってものづくりを支援するコミュニティを運営するなど、中小企業の3Dプリンター活用にも力を入れている企業だ。
代表取締役社長 大林万利子氏は、長年勤めていたキヤノンを辞めて、12年にスマイルリンクを設立した。同社の核となる事業は3Dプリンターの開発。最新モデルのNt100は、Webブラウザから出力指示、操作が可能という特徴を持つ。他にも3Dスキャナーなど関連機器の販売、モデリングを含む3Dデータの作成、ワンオフ部品の製造も手掛けており、3Dプリンターに関することはすべて対応する。FabLabの運営もそのひとつだ。
おおたFabには5種類の3Dプリンター、UVプリンター、3Dスキャナー、レーザーカッターなどが用意され、会員はこれらの設備を利用できる。会員は主に個人で、趣味で3Dプリンターを使いたい社会人や学生、そしてデザイナーなどのクリエイターが中心だ。
一方、中小企業に対しては、希望に応じて設備を貸し出し。必要なら3Dプリンターのセミナーやワークショップを開催するなどして、3Dプリンター活用を支援している。
「日本の中小企業の3Dプリンター活用はまだ遅れていると思います。もっと活用の場面はあるのですが、そのための情報が少ないのも一因ですね。スマイルリンクでは、おおたFabを利用して、3Dプリンターに興味のある企業、導入を検討している企業に、基本的な使い方や活用のヒントなど情報提供を行っています」
■特注部品や金型のコマを3Dプリンターで安価に制作
3Dプリンターは好きなものを出力できるという知識はあっても、業務でどう利用するかと聞かれると、試作品の射出くらいしか思い浮かばない人は少なくない。「面白そうではあるが、自社で使うほどのものではない」。そう考える中小企業は多いかもしれない。
しかし、大林氏に話を聞くと3Dプリンターの使い道は試作品の出力だけではない。小回りが利く中小企業ほど、ラインによる製造ではないものづくりに生かせるという。
「弊社の3Dプリンターで工場の部品ケース、工具ホルダー、書類ホルダーといった工場の備品を出力することで、コストを数百万円単位で下げたという会社があります。また、金型に入れるコマをABS樹脂の3Dプリンターで短時間で制作し、プレスのサンプルをその日のうちに顧客に見せることで売上を伸ばしている会社、精巧な住宅模型を3Dプリンターで作成している会社もあります」
大林氏のいう事例を詳しく見ていこう。ディスプレイ部品の製造を行うEIZOエムエスでは、工場内で使う部品ケース、書類ケースやちょっとした小物を入れるホルダー、機械の操作をしやすくするハンドルやマーカーなどを3Dプリンターで作るようにした。
工作機械のハンドルや取手にちょっとしたエクステンションや色のカバーをつけるだけで、操作がしやすくなり、ミスを減らせる。部品なども色分けしたケースに整列させておくと作業効率が上がる。しかし、これらの部品は汎用品ではなく、業者には特注品扱いとなるため、コストもかかる。しかし、3Dプリンターで作るようにしてから、好きな部品を自由に作れるようになり、特注部品やケースの発注費用を大幅に下げることができたという。
また、金型のコマを3Dプリンターで出力できると、顧客から相談されたプレス加工について、その場で「型」を作成して実際にプレスしたサンプルを見せられる。従来はサンプルでわざわざ金型を作るわけにはいかないし、射出成型で樹脂製のコマを作るのも時間がかかっていた。しかし、ABS樹脂の3Dプリンターなら、数時間でモデリングと出力を終わらせられる。相談されてから7時間あれば、サンプルのプレス見本を顧客に見せられるという。
この時短によるコストダウンと、販売機会を広げることのメリットは大きい。
■ライン製造、大量生産に頼らない新しい中小企業へ
スマイルリンクでは今後、ネットでモデリングデータを受け取り、3Dプリンターで出力したものを届けるというサービスを展開する予定だという。ようするに「DMM.make」のようなサービスを独自に展開するわけだが、特徴は部品の強度や仕上がりの精度を上げるため、部品の出力方向、向きを指定できることだという。
以前のようにモノが大量に売れる時代は終わった。商品開発やサービスにおいて、企業提案から消費者ニーズに応えることが、企業の生き残りを左右する時代。同じ物を大量に作ってビジネスをするのは、ますます難しくなっていくだろう。
特殊な部品を多用しつつ、大きなロット数が期待しにくいIoT、ロボット、介護製品など。これからの分野においてこそ、3Dプリンターの活用場面が増えると大林氏はみている。大企業の発注で大量生産ができる部品は、ビジネス効率はよいが、そもそもの発注自体が減少傾向にある。個別の依頼やワンオフ部品への対応、あるいはラインによる製造ではない手作りメーカーなど、中小企業ならではの戦略があるはずだ。
【3Dプリンターと製造業:2】試作を超えた中小の活用術
《中尾真二》
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