IoTセンサーで広がる未来……意外と知らないIoTの基礎知識#06
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
最終回となる今回は、IoTの未来を予測するために大きなヒントとなりうる、技術者側の視点から見た「IoT」に対する思いを、7月より提供開始されたIoT市場向けセンサー&アプリ「環境センサー」を手がけたオムロンの事業開発本部 マイクロデバイス事業推進部 営業推進部 営業技術1課の主査・柿谷淳也氏、そして同社のプロジェクトをサポートするニフティのIoT推進室 IoTデザインセンターの三嶋英城氏、前野粒子氏に話を伺ってきた。
●IoTの「I」を支援するニフティIoTデザインセンター
まずはじめに、オムロンとニフティIoTデザインセンターによる「環境センサー」プロジェクトの概要から説明していこう。
オムロンは、センシング技術や省電力技術を持つ企業だが、IoT市場でのビジネス展開を考えると、多種多様な人&シーンでセンサーを活用するためのアプリケーションの企画・開発ノウハウを持つパートナーと密接に事業推進する必要があったと柿谷氏はいう。
そこで組んだのが、IoTデザインセンター。同センターは、これまでニフティが培ってきた一般ユーザー向けのWebサービスやスマートフォンアプリを開発・提供する中で得た知見を生かして、IoT事業への参入を考える企業に対して、IoTの「I」、すなわちインターネットの部分の技術を支援する組織となる。
また、三嶋氏によれば、同センターは、アプリケーションの開発支援に止まらず、@nifty会員を対象に潜在ニーズを探る調査を実施するなど、マーケティング段階から企画面での支援にも対応しているそうだ。実際、オムロンの柿谷氏もその点を一番有益だったと語っている。
そうした中で、「環境センサー」プロジェクトは、IoTデザインセンターの事業のモデルケースといえる取り組みで、柿谷氏いわく、オムロンが単独でアプリケーション開発をした場合に想定された開発コストをニフティの「ニフティクラウド mobile backend」を活用した事で約2分の1に削減し、迅速な開発・提供開始を実現できたという。
「環境センサー」端末自体を見ていくと、手のひらサイズ(縦46mm×横39mm×厚み14.6mm)ながら、「温度」「湿度」「気圧」「照度」「紫外線」「音圧」「加速度」を計測することができる多機能センサーで、取得した情報は専用アプリで確認することができる。
この端末が想定する主なユーザーはIoTサービス事業者となり、住宅での見守りやオフィスや作業現場の安全管理などを実現するためのセンサー機器として、環境センサー本体と専用アプリを展開していくビジョンだそうだ。
●特定の使用目的に限らない活用
さまざまな情報を取得できる環境センサーだが、柿谷氏に用途を尋ねると、「ある程度の利用例は掲げていますが、特定の用途だけに限定はしていません。むしろ特定のサービスを提供するための専用端末という位置づけではなく、さまざまなサービスを提供するために欠かせないハブ的な役割を環境センサーに担って欲しいと思っています」と語る。
確かに用途を“見守り”といった形で限定してしまうと、“できること”は限られてくるが、ハブ的な役割を果たす機器として考えれば、収集したデータをヘルスケアに活用したり、気象観測、災害予測、災害発生後の被災状況の収集・分析といった多様な活用方法も見えてくる。
ハブ的な活用法として柿谷氏が例に挙げたのが、各戸に環境センサーが普及している地域で地震があった場合。普段は各戸が見守りやヘルスケアなどに環境センサーで収集した情報を活用し、いざ災害発生後には、加速度センサーなどのデータを元に地域の中でも特にどのエリアで揺れが大きかったのか、同じエリアでもどのような構造の住居が被害が少なかったのかなど、きめ細やかな災害データの収集が可能だという。
もちろん、こうした活用方法を実現するなら、センサーで収集した情報の活用のガイドラインや、センサーの設置や費用負担を誰がするのかといったことを決める必要はあるが、ハブ的な使い方であれば、公共性も高まり、より大きな枠組みでのIoT社会の実現も考えられる。
●人間の感覚を研ぎ澄ましてくれるセンサー
そんな「環境センサー」にはどんな思いが込められているのか?その辺を柿谷氏に尋ねると少し意外な答えが返ってきた。
「技術が進化し、さまざまなことが便利になり過ぎると、“人間が馬鹿になる”なんていわれることもありますが、われわれが製品を通じて目指す世界観としては“人間の感覚をより研ぎ澄ましてくれるセンサー”にしたいと思っています」
つまり、センサーで得られた情報を元に、結果の表示だけでなく、経緯を含めた気づきの提示だったり、豊富な情報をどう活かしていくかというサジェスチョンを提供していきたいと、柿谷氏は考えている。
では具体的にはどういう使い方が“人間の感覚をより研ぎ澄ましてくれるセンサー”につながっていくのか? その一例として挙げられるのが、熱中症対策だ。
“IoTにできること”として、熱中症対はしばしば例に出されるが、一般的には一定以上の室温になったら、利用者に通知するといったことに止まる。しかし、環境センサーが目指すのは、経緯の分かるデータ収集だという。ジワジワと室温が上がったのか、一気に上がったのかでは、熱中症リスクの度合いも変わってくるし、そうした差異を認識できるようにすることで、よりきめ細やかな対策を実現できるからだ。
また、気圧データを収集できることから、ビッグデータやAIなどによる解析・活用を行い、台風の接近だったり、気圧の変動が人体にどう影響を及ぼすのかといったことを解明することも不可能ではないと、柿谷氏は語る。
ビッグデータやAIとの連携に関しても、柿谷氏は「結果だけを示すのではなく、人間が何かを考えるきっかけとなる情報を提供するのが理想です」という。
そんなオムロンとニフティの取り組みだが、ニフティの前野氏によれば、今回の取り組みをベースにし、今後も共に新たなビジネスを開拓していく予定だという。そして、IoTデザインセンターではビジネス支援に留まらず、IoTビジネスの共創を視野に入れているとのこと。
●IoTの普及と今後の展望
新たな産業を創出しうる技術として、業界の垣根を越えて注目され、さまざまな“夢”が語られている「IoT」だが、2016年9月時点では、まだまだ進化の途中にある技術といえる。
それだけに“今語られている夢”や“想定されるリスク”が、1年後、2年後にはガラッと変わっている可能性もある。
新しい技術に対しては、期待と危惧が入り交じり、さまざまな意見が出てくるが、そこは冷静にこれまでの連載で紹介してきたIoTに関する基礎知識を振り返って欲しい。安全にIoTを利用するには、どういう点を注意すべきなのか、どんなリスクが考えられるのか、そしてIoTで何を実現したいのか、それらをユーザー側もしっかりと認識していくことで、よりよいIoT社会の実現につながっていくだろう。
《防犯システム取材班/小菅篤》
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