【息子がかわいい】第1回 立ち会い出産と一生の不覚
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息子は2015年10月9日の朝に生まれた。その瞬間のことはとても鮮明に覚えている。お産に立ち会うこともでき、それはそれは感動したのだが、一点だけ後悔していることがある。
■立ち会い出産
出産当日、分娩室には看護師・助産師さんが3人ほどと、担当の産科医、妻、そして私がいた。助産師の方たちはなにやらたくさんの数値をこまめに確認・報告したり、妻に声をかけたり、産科医の指示に素早く対応したり、一瞬たりとも立ち止まることなく動き続けている。産科医はさまざまな処置をおこないながら、リアルタイムに伝えられる数値や妻の状態を元に次々と新しい指示を返していく。妻は疲労と痛みとで大変な状態でも必死にがんばっている。前日の夕方頃から陣痛が始まり、すでに15時間以上が経過していた。
私はというと、「ここにいて奥さんを励ましてあげてください!」と、所定の位置に据え置かれ、できる範囲でマッサージをしたり、「が、がんばれ」と耳元で言ってみたりしていた。前夜、陣痛に苦しむ妻の横でうっかり寝落ちしてしまったおかげで体力的には余裕があった。ちなみに、この病院では夫が出産に立ち会うために『両親学級』という研修への参加が必須条件となっている。そこで出産までの流れやどうサポートすればいいのかなど教わっていたこともあり、比較的落ち着いていられた。
この時つくづく思ったが、命を扱う現場で働く人たちは本当にすごい。皆、自分のすべきことを正確に把握して全力でそれにあたっている。それでいて妻や私が必要以上に不安にならないように、焦ったり慌てたりしている様子は見せない。まさにプロフェッショナルだ。途中からは妻を励ますというより“この人たちの足を引っ張ってはいけない”という思いの方が強くなっていた。最終的には“うちの嫁、部活もやってないし、(呼吸法やいきみ方の)要領悪くてすいません”ぐらいの気持ちになっていた。少し落ち着きすぎていたのかもしれない。
陣痛開始から数えると17時間、分娩室に入ってから約2時間半で、息子は無事に生まれてきてくれた。少し時間がかかりそろそろ吸引分娩した方が、と途中で言われていたが、最後はヘルプで入ってきたもう1人の産科医の強烈な一押し(文字通り、思いっきりお腹を押して赤ちゃんを押し出す)で、すっと出てきてくれた。
■それはそれは感動した
生まれたばかりの我が子を目にしたときの感情は、なんと言えばいいか。胸の奥からこみ上げてくるものがあり、病院スタッフの方たちや頑張った妻への感謝の気持ちが湧いてきて、かと思えば“すでに俺に似てるぞ!”と嬉しくなってみたり。いろんな気持ちが混ざり合って、笑うでも泣くでもない微妙な表情をしていたと思うが、とにかく感動していた。
先ほどまでプロの仕事に徹していた方たちも一様に顔をほころばせ、口々に「おめでとうございます」「頑張りましたね」とお祝いの言葉をかけてくれる。妻も、「……かわいい」と涙声で噛みしめるように呟いている。生まれたばかりの息子は元気に泣いている。体重や身長をその場で計測し、この後は検査をするため一旦別の部屋に移されるとのことだった。
■一生の不覚
ひとりの助産師さんが息子のことをタオルにくるみながら、「検査の前に記念撮影ができるので、カメラ出しておいてください」と言った。“……ん?……カメラ?……ん?”。
病院によって色々方針は違うのだろうが、この病院は分娩中の撮影はダメで、出産後の撮影はOKというポリシーだった。思い返してみると、同じ日に出産予定で立ち会いに来ていた旦那さんたちは、しっかりカメラを用意していたような気がする。それはそうだ、せっかくの記念、やはり少しでもいいカメラで撮りたい。悔やんでも時すでに遅し。ポケットに、先日買ったばかりのiPhone 6sが入っていたので、「これでお願いします」と助産師さんに手渡した。
余談だが、分娩室に入る時、立ち会いの人間は特に着替えることもなく私服でそのまま入ることができた。携帯もずっと手元にあって、時間の確認などをしていた。当然、途中で音がなったり助産師さんたちの作業に支障がでたりしてはいけないので、マナーモードと機内モードの設定は必須だろう。
あれほどプロフェッショナルで感情を表に出すことのなかった助産師さんだが、出産も終わり気も緩んでいたのだろう、ほんの一瞬、“え?スマホ?”という表情をしたように見えた。やはり、カメラを用意している人の方が多いのだろうか。“スマホはスマホでも出たばかりのやつだし!1200万画素だし!4K動画も撮れるし!”と、言い訳したい気持ちをぐっと抑え、息子と妻との初めての3ショットを撮影してもらった。室内で十分に明るかったこともあり、特に問題なく撮影できたのは不幸中の幸いだった。
もはやこの先もスマホだけで十分なのでは、と一瞬思ったりもしたが、3ショットも撮れるとわかっていたら、やはりカメラはあった方が良かったなと少し後悔した。そして、“この先もスマホではうまく撮影できないシーンがあるはずだ” “こうしている間にも息子は刻一刻とかわいくなっている”という強迫観念に襲われ、落ち着いたらすぐにカメラを買いにいこうと決意した。
次回、「第2回 いきなりかわいい!iPhoneではだめ?やはりデジカメを買うべき?」に続く。
《白石 雄太》
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