AI・人工知能 EXPOは今回が第2回目を迎えた。いま国内外でAIへの注目度が急激に上昇している中での開催だったこともあり、初日の会場は大勢の来場者で賑わっていた。ただ、会場を見回してみると多種センシングデバイスや機械学習のアルゴリズムを搭載するソフトウェアの技術を活かして、市場に商品あるいはサービスとして既に投入されている技術をベースに、あらためてAIとして呼び名を変えて提案する展示も少なくなかった。今をときめくトレンドワードであるAIの定義についてあらためて考えさせられた次第だ。本稿では今回のイベントの中で、筆者が特に興味をそそられた展示をいくつか紹介したいと思う。

オンキヨーが独自のAIを開発。製品化第1号は“ウェアラブル”なスマートスピーカー?
オンキヨーは昨年秋にGoogleアシスタントを搭載するスマートスピーカー「G3」を発売。作年秋に招待制での販売がスタートしたAlexa搭載スマートスピーカー「P3」も今春ようやく一般販売のスタートを迎えた。ほかにもアップルのSiriと連携を深めたLightning接続のイヤホン「RAYZ Plus」をパイオニアから発売したり、オンキヨーとパイオニアのブランドはいま「マルチAI戦略」を展開している。
そのマルチAI戦略の下でもう一つの柱を担っているのが米SoundHound社のAIである「Houndify(ハウンディファイ)」だが、オンキヨーではこのHoundifyをベースにした独自のAIプラットフォーム「ONKYO AI」を立ち上げ、これから同社の様々なスマートプロダクトに搭載することを視野に入れた開発を進めている。
そのONKYO AIを搭載した、おそらく第1号の製品になるであろうウェアラブルタイプのスマートスピーカー「VC-NX01」をイベント会場で体験することができた。本機は今年の1月にラスベガスで開催されたコンシューマーエレクトロニクスショー「CES」や、2月末にバルセロナで開催されたモバイル・通信の展示会「MWC」に出展されて話題をさらったばかりだが、国内のイベントでは初めて出展された格好だ。
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発売の時期・価格ともに未定とされている試作機だが、同社のスタッフによれば「デザインはほぼ最終形」とのこと。スピーカーというよりはネックバンドスタイルのイヤホンに近いぐらいのコンパクトサイズと軽さを特徴としており、肩に乗せた位置でパワフルな音楽再生が楽しめる。「屋外でもなるべく周囲に音が漏れないよう、ビームフォーミングスピーカーのように音の指向性をコントロールする技術を搭載することも検討に入れている」(同社スタッフ)とのことなので、リスニング感は今回展示された試作機よりもまだまだ良くなりそうだ。
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本機はBluetoothでスマホやタブレットにペアリングして、モバイル端末の通信機能を使ってクラウドにあるONKYO AIの様々な機能を利用するスタイルを想定している。暫定的に設定された「ハロー、ブルージーニー」(アラジンと魔法のランプに出てくるあのジーニーのこと)というトリガーワードをスピーカーに搭載されている常時スタンバイ状態のマイクが拾って、モバイルアプリとして提供を予定する“オンキヨーマネージャーアプリ”(仮称)を介してクラウドAIにコマンドを送って処理する。HoundifyをベースにしたONKYO AIのプラットフォームでは、現在グーグルやアマゾン、アップルがスマホ向けに提供するAIアシスタントと同じように天気・Web情報の検索、地図によるナビゲーション、音楽ストリーミングコンテンツのボイスインタラクションによる操作が可能になる。
オンキヨーのスタッフによれば「Houndifyの特徴は自然な対話形式によるボイスインタラクションが可能なところ」であるという。その仕組みはONKYO AIのプラットフォームを構成するセンサリー社の音声識別技術、Houndifyのスピーチ(音声)>テキスト変換と自然言語理解(コマンド解析)処理に、東芝が開発するコミュニケーションAI「RECAIUS(リカイアス)」の技術の一部を使ったテキスト>スピーチ(音声)変換の技術をベースにしている。こちらにユーザーの行動を解析するディープラーニングのアルゴリズムを追加することによって、たとえばユーザーがいつも昼食を取る時間帯にスピーカーを起動すると、周囲のレストラン情報を検索・レコメンドしたり、その場所への行き方をナビゲーション機能で知らせてくれるようなシームレスな使い勝手が実現できる。毎度トリガーワードを発声する必要もなくなるのだ。
今回試作されたウェアラブルタイプのスマートスピーカーには「ユキノ」「ツトム」「モエ」という3つの異なるAIの音声が収録されていて、ボイスコマンドによってそれぞれを切り替えるデモンストレーションも披露されていた。AIアシスタントの声をパーソナライズできる機能を実現することによって、AIとユーザーの距離をより近づけることが狙いだ。ビジネスとしてはスピーカーの発売後、多種多様な声のデータをオンラインストアに公開して、ユーザーが好みの声をダウンロードして使えるカスタマイズサービスも検討されている。実現すれば今よりますますAIやスマートスピーカーに関心を寄せる層が広がるだろう。
オンキヨーでは同じONKYO AIを乗せた車載用スマートスピーカーのプロトタイプ「VC-AX02」も開発中だ。こちらも今年の2月にバルセロナで開催されたMWCで初めて披露されたもの。オンキヨーではこれから音声インターフェースを活用したハンズフリー操作が有効な車中で、スマートスピーカーをベストな形で設置する方法も検討しながら、デザインをブラッシュアップしていく考えだ。
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ほかにもオンキヨーがBtoB向けにビジネスを立ち上げた加振器(エキサイター)「Vibtone」シリーズの紹介にもブース内で特別にスペースが割かれていた。加振器とは装着した対象物を振動させて音を発生させるデバイスであり、オーディオ用途にも使われる技術をバスルームの壁面やポスターなどに装着して、“音の鳴る壁”を今回オンキヨーが実現した。これまでに筐体を振動させてよりリアリティの高い演奏感を実現した河合楽器の電子ピアノや、タイガーの炊飯ジャーのアラーム音を鳴らすためのスピーカー代わりのデバイスとしても採用実績がある。バスルームのインテリアはそのままに、天井などを振るわせて音を出せる加振器を活用したウォールマウント・オーディオシステム「X-WM300」も販売が始まっている。

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オンキヨーでは独自開発の加振器から発展させるかたちで、スマートスピーカーのマイクや通信技術、AIアシスタントなどの技術を組み合わせて、家の中にその姿を「隠して設置できるスマートスピーカー」のように、革新的なソリューションを提案することも視野に入れている。今後の展開が楽しみだ。
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