IoTで水田を管理!コウノトリの町で始まった国内初の取り組み | RBB TODAY

IoTで水田を管理!コウノトリの町で始まった国内初の取り組み

 KDDIが兵庫県豊岡市と協業した「豊岡市スマート農業プロジェクト」をスタートさせた。IoTセンサーで水田の水位を計測するなど、ICTを活用した環境に良い稲作事業をバックアップする。

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圃場では、実際に水位センサーを立てるデモもおこなわれた。水田により必要な水深は異なるので、1本ずつ設定していく
圃場では、実際に水位センサーを立てるデモもおこなわれた。水田により必要な水深は異なるので、1本ずつ設定していく 全 10 枚 拡大写真
 KDDIが兵庫県豊岡市と協業した「豊岡市スマート農業プロジェクト」をスタートさせた。IoTセンサーで水田の水位を計測するなど、ICTを活用した環境に良い稲作事業をバックアップする。なぜ豊岡市が選ばれたのだろうか?その理由には、国の天然記念物 コウノトリが関係しているという。

KDDIが兵庫県豊岡市と協業し「豊岡市スマート農業プロジェクト」をスタートさせた
KDDIが兵庫県豊岡市と協業し「豊岡市スマート農業プロジェクト」をスタートさせた


IoTを活用した「コウノトリ育む農法」とは?


 見渡す限りの田園地帯を、タクシーを走らせて市の中心部に向かう。その途中、60代の運転手は「あの鉄塔の上にいますね」と、わざわざ車両を路肩に駐車して説明してくれた。人工鉄塔の上で、たしかに大きな白い鳥が羽を休めている。兵庫県豊岡市は、コウノトリの生育地の保全に地域ぐるみで取り組んでいる自治体だ。

人工鉄塔の上で羽を休めるコウノトリ(タクシー車内から望遠カメラで撮影)。現在、100羽を超えるコウノトリが確認されている
人工鉄塔の上で羽を休めるコウノトリ(タクシー車内から望遠カメラで撮影)。現在、100羽を超えるコウノトリが確認されている


 豊岡市スマート農業プロジェクトが目指すのは、ICTなどを活用した省力・高品質生産の実現。その第一弾として2018年5月31日より、IoTを活用した「コウノトリ育む農法(無農薬)」の水田管理省力化を目指す実証事業がスタートした。同日、市役所で記者説明会がおこなわれた。

記者説明会の会場に展示されていたサンプル。この1m70cmほどの白いポールが水位センサーだ
記者説明会の会場に展示されていたサンプル。この1m70cmほどの白いポールが水位センサーだ


 豊岡市が取り組むコウノトリ育む農法とは、無農薬栽培を軸にした環境に優しい農法。(1)水田雑草の生育を抑えるため、通常よりも深く水を張る深水管理をおこなう必要があり、(2)また害虫を食べてくれるカエルやヤゴを増やすため、通常よりも長い期間水を張り続けなければいけない。この2つの理由により、通常よりも小まめな水管理が長期間にわたり必須となる。市では農家との意見交換をおこなう中で、コウノトリ育む農法の水田管理省力化を望む声が多かったことから、このたびの実証事業の実施に至った。

 豊岡市内の4農家が取り組みに協力、13.5haの水田において計60本の水位センサーが5月末より稼働を始めている。農家はスマートフォンで水位を確認できるようになり、見回り回数の削減や見回り時間の短縮による省力化とコスト削減を実現できるという。

 豊岡市の中貝宗治市長は「大規模農家は水田が広範囲に及ぶため、見回りに半日かかることもある。したがって水管理の省力化が課題だった。深水管理が徹底できれば、収量増により所得も増やせる」と説明。さらにはICT、IoTといった先端技術の活用を農業のイメージ向上につなげることで、農業に従事する若者を増やしたい思惑もあるという。

兵庫県豊岡市の中貝宗治市長は「農家の高齢化が進んでいる。若い後継者を増やしたい。スマートな農業により、泥だらけ、汗水だらけのイメージを改善していく」と話す
兵庫県豊岡市の中貝宗治市長は「農家の高齢化が進んでいる。若い後継者を増やしたい。スマートな農業により、泥だらけ、汗水だらけのイメージを改善していく」と話す


セルラーLPWA「LTE-M」を活用し、設置・運用ハードルを下げる


 水位センサーは、セルラーLPWAの規格である「LTE-M」に対応。省電力特性を活かして電源の確保の心配や電池交換の頻度を減らすことができるため、設置や運用のハードルを下げられる。また携帯電話回線を活用するので、ゲートウェイ(親機)を設置することなく幅広いエリアにおいて機器を設置できる。

 KDDI 関西総支社長の宇佐見典正氏によれば、セルラーLPWAを利用した水田の水位監視は国内初の取り組みだという。「弊社では地域と連携した観光・物販・農業・漁業・防災などの取り組みを加速させている」と同氏。魅力ある特産品をストーリーとともに全国の消費者に届けたいとして、今後、収穫した「コウノトリ育むお米(無農薬米)」をKDDIのネットワークで販売していく可能性にも触れた。

KDDI 関西総支社長の宇佐見典正氏(左)と、KDDI 地方創生支援室の阿部博則氏(右)
KDDI 関西総支社長の宇佐見典正氏(左)と、KDDI 地方創生支援室の阿部博則氏(右)


 ところでLTE-Mについて、聞きなじみがないと思う読者もいるだろう。KDDIをはじめ、各キャリアでは「高速・大容量、多接続、低遅延」の第5世代移動通信システム(5G)の開発を進めているが、その一方で「低価格・小容量」の方向にも通信ネットワークを進化させている。これはIoT機器に用いられることを想定した技術で、LTE-MもIoTに最適化された規格のひとつ。KDDIでは6月末までに全国エリアをカバーできる見込みと説明している。KDDI 地方創生支援室の阿部博則氏は「LPWAにより、あらゆるモノがネットワークにつながる社会を実現していく」とアピールした。

見回り作業を省略できればかなりの負担減につながる


 午後は、実際に実証事業に協力する平峰英子さんの圃場で説明がおこなわれた。センサーは単2乾電池×3本で駆動する仕様。1時間に1回、データを送信しては休止状態に入るため6ヵ月はもつという。静電容量方式で水位を測っており、(水田や時期によっても異なるが)一般的には5cmを下回ったとき、10cmを上回ったときにアラートがメールで通知される。稲刈りを終える9月頃までデータを取り続ける予定だ。

圃場では、実際に水位センサーを立てるデモもおこなわれた。水田により必要な水深は異なるので、1本ずつ設定していく
圃場では、実際に水位センサーを立てるデモもおこなわれた。水田により必要な水深は異なるので、1本ずつ設定していく


水位、水温、地温のデータをスマートフォン / タブレットのアプリから閲覧できる。しきい値を設定でき、異常が出た場合は農家にアラートメールが届く仕組み
水位、水温、地温のデータをスマートフォン / タブレットのアプリから閲覧できる。しきい値を設定でき、異常が出た場合は農家にアラートメールが届く仕組み


 脱サラして、父親の事業を受け継いだという平峰さん。常時2人で水田を管理しており、農繁期には2、3人のアルバイトを雇っている。「自宅から圃場まで10分かかる。水田に来なくても水位が確認できるのが嬉しいですね。もっとも、使いはじめは不安もあり、データ取得後も実際に自分の目で確かめに来ていました。データは正確だと感じています」と穏やかに話す。

これまで、かなりの時間を割いて田んぼの水の深さを見てまわっていた。水位センサーにより確認できるようになれば、かなりの負担軽減につながる
これまで、かなりの時間を割いて田んぼの水の深さを見てまわっていた。水位センサーにより確認できるようになれば、かなりの負担軽減につながる


 自身、今回は5回目の米作りになるという。「年配の方は、ベテランの勘で農業をされています。見て覚えなくてはいけない部分が多く、素人にとってはハードルが高い。センサーでデータを取得できるのであれば、これから農業に従事される若い方も入り込みやすいでしょう」(平峰さん)。

 地元の人にとっては、コウノトリはどんな存在なのだろうか。最後に、そんな質問をしてみた。「コウノトリも大事だけれど、私はコウノトリの住める環境を維持することが何より大事だと思っています。農薬を使わないことで自然が豊かになり、ひいては人間の身体にも良い。ひとつのキーワードとして、コウノトリという存在があります」(平峰さん)。コウノトリが野外で生きていくため、里山や田んぼ、川や水路に多様な生きものが息づく自然が必須となる。地元の人と協力してそんな環境を守っていければ、と話していた。

コウノトリをひとつのキーワードに、里山の自然を守っていきたいと平峰さん
コウノトリをひとつのキーワードに、里山の自然を守っていきたいと平峰さん


市役所に展示してあった、コウノトリの剥製。豊岡市内では、町のいたる所にコウノトリをモチーフにしたキャラクターが見られた
市役所に展示してあった、コウノトリの剥製。豊岡市内では、町のいたる所にコウノトリをモチーフにしたキャラクターが見られた

《近藤謙太郎》

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