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ただし。現在IT化によって激変している「生活」の中で、中心的でありながら「食」自体は、あまりIT化を顕著に感じることができない分野でもある。もちろんレシピサイトは隆盛を極めてはいるが、それはむしろ情報流通の分野であって食そのものではないし、IT化が進行する家電の分野であっても、単体の便利さやできあがる料理のクオリティは向上しているものの、その向上が社会的な変化やライフスタイルの革命に結びつくには至っていない。
とはいえ、実は着実に食のIT化は進行していて、それを如実に感じられたのが、8月8日・9日に東京日比谷で開催された「スマートキッチン・サミット・ジャパン 2018」(以下SKS)である。スマートキッチンという単語自体はすでに聞き覚えのある単語になっているが、その最先端は“冷蔵庫にモニタが付きました”といった表面的なものではなく、家電メーカーやIT系の先端技術を持ったメーカーと、従来からシステムキッチンなどフィジカルな「生活」を考えてきたメーカーの融合が行われつつある、新しく熱量の高い分野になってきている。
ここでは、2日目のセッションから、こうしたスマートキッチン、食のIT化への進化を感じさせる話題をレポートする。
●デザインから見るスマートキッチンの本質
「Mirano salone」など海外イベント展示の例を挙げて、スマートキッチンの現状と課題を示したのは、LIXILの小川裕也氏。ビルトイン機器のスマート化やクラウド利用といった取り組みが進む中、興味を引かれるのは「システムキッチン」という文脈の中で、それらが捕らえられているかどうか? という点だ。つまり、家事の合理化に向けて作られたシステムキッチンの思想的流れとテクノロジーがいかに交わるのか? それにはまず、キッチンを長年考えてきた企業と、IT系企業のコラボレーションも必要になってくるであろう。
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こうした課題は、続いて行われた小川氏と日経BPの菊池隆裕氏とのトークセッションでも明確となった。曰く、家電メーカーとキッチンメーカーの歩み寄りである。従来家電メーカーとキッチンメーカーでは、それぞれのプロダクトがあってその枠の中での製品開発が行われてきたわけだが、今後はキッチンというひとつのソリューションを、ユーザーに対してどのように提供していくのか? 未だスマートキッチンの定型が見えていない中で、たとえばクックパッドのようなWeb企業の参加も含めて、現在は新しいユーザー体験が模索され始めている段階と言えそうだ。
●「ランチ難民の救世主 もうエレベーターに並ばないで済む!」
ゲームチェンジャー・カタパルトによる新規事業プロジェクト
パナソニックの新規事業を手がけるプロジェクト「ゲームチェンジャー・カタパルト」のプロジェクト紹介も、また興味深く生活が楽しくなりそうなトピックが紹介された。まずは、井上貴之氏による“ランチ難民の救世主”と謳われた「totteMEAL」というプロジェクト。これは、オフィス据え置き型の販売機器をスマート化しようというもの。オフィスに置かれたお菓子などの据え置き販売がスマート化され、お弁当なども販売できてしまうとイメージするとわかりやすい。
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オフィスでの昼食といえば、外に買いに行くか食べにいくのが定番だが、混雑するエレベーターに並ぶのはほとほとイヤになる。そこで置き販売となるが、弁当を置き販売するとなると品質管理や商品補充の障壁(企業のセキュリティ問題)など、様々な問題が浮上する。それを解決酢rのがtotteMEALで、業者はオフィスにスマートボックスを設置→販売したい商品をオフィスに配送→「アンバサダー」が商品を受け取って在庫登録→売れた商品は管理画面で確認可能で、必要個数を追加配送、という流れを作ることができる。
totteMEALの特徴は、トレイ型のアドオンユニットのため専用のボックスが不要であり、そのためクーラー機器内で複数の企業がボックスを共用できる点。さらに、顧客にはtotteMEALアプリをダウンロードしてもらえばOKという手軽さだ。これにより業者側は販売のログデータ分析やレコメンドの傾向分析、ユーザーの指向分析が可能にもなる。
続いては、山本尚明氏による、一見奇抜だが流行りそうな「味噌」を扱った「Ferment2.0」。
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ひとことで言えば「手前味噌をつくるキット」なのだが、味噌メーカーであるマルコメとのコラボ製品。味噌の素材を専用の容器に入れておけば、その温度で味噌の発酵具合がわかり、最適な食べ頃状態を教えてくれるというものだ。味噌を自前で作れるようになることで、たとえばアーモンドや桜エビをまぶした自分オリジナルのの「味噌ボール」を作る……といった楽しみ方もできる。さらにFermentを使った試みとして「Miso BALL CLUB」も構想されている。これは、専用アプリによってクラブ会員各家庭の味噌が、いつ食べ頃なのかを共有する仕組み。「もうそろそろAさん家の味噌が熟成されている」と分かれば、そこで味噌パーティーを繰り広げるなどコミュニケーションが広がるというものだ。Ferment2.0は、味噌の素材となる大豆などの農業従事者からマイクロメーカー(たとえば味噌をボトル?キープするような飲食店)、味噌作り教室、そして最終的には家庭まで、味噌を軸にした世界を構想している。全国のパナソニック特約店がそのハブになれば、面白い展開が可能かもしれない。
ゲームチェンジャー・カタパルト最後の発表は、「炊飯器技術部が作ったおにぎりロボット!世界で新マーケット開拓狙う!」https://www.rbbtoday.com/article/2018/08/09/162651.htmlでも紹介した、加古さおり氏によるおにぎりロボット「OniRobot」。
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炊飯器開発歴27年の同氏によるおにぎり愛は凄まじく、「おいしいお米、塩、海苔、すべての日本食の要素が詰まっている」と言い切り、全国の産地を巡ってお米を食べたのだそうだ。現在寿司(スシ)とは違った付加価値を武器に海外展開を図ろうとしているのは前記事の通りだが、オイルレス、片手で食べられるというおにぎり本来の良さに加え、アツアツでも握れるという、「あたたかさ」という武器もまた、魅力になるという。
●「スマートキッチンは確実に来る!」
ゲームチェンジャー・カタパルトのトークセッションが終わると、続いて登壇したのはクックパッドの住朋享氏、金子晃久氏、大谷伸弥氏の3人。彼らは「OiCy」という、レシピとさまざまな機器を繋げる“料理プラットフォーム”を開発している。要はクックパッドに投稿されたレシピを機器が読める形に変換して提供するわけだが、「スマートキッチンは確実に来る!」(住氏)と語る彼らは他企業からクックパッドに集まってきた面々なので、いずれもクックパッドの膨大なレシピデータの活用が魅力と語る。
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会場ではコンセプトモデルとしてレシピ連動調味料サーバ「OiCy Taste」を展示。これは、レシピに合わせて必要な文量の調味料を計量して出力するもの。開発を担当した金子氏によれば、数年前から始めた家事分担で料理を本格的に開始したが、困るのが調味料だったとのこと。つまり、レシピを見て料理を続ける間、賞味量の分量を忘れるためにレシピを見直したり、もちろん計量自体も面倒。ボトルの開け閉めや締まったり出したりという作業も、効率を下げる。そこで、調味料サーバをまずは作ってみようと思い立ったのだとか。
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現在OiCyはまだプロトタイプを発表するといった段階だが、今後他社の製品と連携していけば、本項冒頭で述べたLIXIL小川氏が提示したように、ソリューションとしてのキッチンを繋げていく重要な要素になるかもしれない。
「スマートキッチン」という言葉は生まれているものの、現在はようやく各社メーカーがそれぞれの製品を「繋げていこう」という動きが始まっている状況だが、ITが進出可能な巨大市場という意味において、キッチンは十二分に魅力的な分野。家全体の、住環境のスマート化が急速に進む今、今後数年で、その“システム”は大きく様変わりをする可能性もあるだろう。