■本気で日本市場を狙ってきたPixelシリーズ
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このところ日本のスマートフォン市場に世界中の端末メーカーからSIMフリースマホが押し寄せてきている。これまで日本の市場は通信キャリア主導のやや閉鎖的な市場環境だったために、通信キャリアと組み、通信キャリアを通じた販路での販売しなくては成功しないと言われてきた。しかし、この数年でようやくMVNOの認知も広がり、端末だけ購入して回線契約はユーザーが最適なものを選ぶという、いわば世界では当たり前の購入スタイルがようやく日本のユーザにも受け入れられ始めたところだ。そうした市場変化の潮目を狙って世界中の端末メーカーが押し寄せてきているのであろう。
ちなみにGoogleは、自ら設計開発し発売するスマートフォンとして、かつて「Nexus」シリーズをラインアップし、その一部は日本市場でも市販されてきた。今回発売される「Pixel」シリーズは、Nexusシリーズの後継として2016年10月に登場しているが、これまで日本市場では正式に発売されてこなかった。このPixelシリーズがいよいよ3世代目のモデルとして10月9日に米国で発売開始されたが、その「Pixel 3」と「Pixel 3 XL」が日本市場においても11月1日から発売が開始されれることになった。Googleストアでオンライン販売するほか、NTTドコモおよびソフトバンクでも取り扱いを開始する。日本向けモデルではおサイフケータイ(モバイルFeliCa)に対応するなど、日本のユーザ向けの配慮も抜かりない。
2モデルの基本スペックは、SoC(CPU)はクアルコムのSnapdragon 845(オクタコア、4x2.5Ghz+4x1.6Ghz) 、RAMは4GB、ROMは64/128GBで、両モデルとも同じである。異なるのはディスプレイサイズとバッテリー容量、そして外寸で、「Pixel 3」は5.5インチ/2,915mAh、「Pixel 3 XL」は6.3インチ/3,430mAhとなる。本体サイズは「Pixel 3」が68.2(W)×7.9(D)×145.6(H)mm/148g、「Pixel 3 XL」が76.7(W)×7.9(D)×158mm/184gとなっている。
ディスプレイサイズは、Pixel 3が5.5インチ2,160×1,080ドット、アスペクト比18:9、Pixel 3 XLが6.3インチ、2,960×1,440ドット、アスペクト比18.5:9で、どちらも有機ELパネルを採用している。なお、Pixel 3 XLのディスプレイは上部にノッチがあるディスプレイとなっている。ディスプレイ面下部にはマイク穴があるがホームボタンは設置されていない。本体右側に電源ボタンと音量調節ボタンを、底面にはSIMカードスロットとUSB Type-Cポートを備える。SIMカードスロットはnano SIM1枚が装着可能だが、microSDメモリーカードは使用できない。背面にはシングルのカメラと指紋認証センサーが搭載されている。
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端末の表面仕上げだが、背面は2トーンデザインになっており、カメラ部分は光沢のある処理だが、その下側の部分はつやを消した処理が施されている。この背面のつや消し処理はNexusシリーズから続くGoogleスマホの特徴ともいえ、独特のサラッとした手触りで指紋も付きにくく実用的だ。一見プラスチックのような素材感にも感じられるが、Pixel 3/3 XLはガラスパネル上に塗装処理をしてこの触感を出しているそうだ。なおIP68準拠の防水対応にも対応している。
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おサイフケータイのロゴが本体に印字されていないが、FeliCaのアンテナは背面の指紋認証センサー部分にある。背面をリーダにタッチして利用する形になる。Suicaや楽天Edy、nanaco、WAON、QUICPayといったFeliCaベースの電子マネーや、各種会員カードなどの利用が可能である。
箱、同梱物も共通となっており、18W/2A USB Type-C充電器、USB-Cケーブルヘッドホンアダプター、USB-Cイヤホン、変換アダプタ、取説などが入っている。端末カラーはJust Black、Clearly White、Not Pinkの3色で、電源ボタンがClearly Whiteは緑、Not pinkはオレンジでGoogleらしいPOPな感じのアクセントとなっている。
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OSはAndroid最新版のAndroid 9 Pieを採用し、Google製スマホということでAndroid OSもカスタマイズのないオリジナル状態での提供となる。時刻や検索バーが表示されたホーム画面で、Playストアからアプリをダウンロードするなどしてアイコンを追加していくとメインページから右にページが増える。Android 9からホームボタンの仕様が変わり、これまでのような△○□ボタンが廃止され、小さなホームボタンのみとなった。このホームボタンを上にスワイプするとドロワーが引き出され、さらにもう一度上にスワイプするとアプリが一覧表示される。操作は慣れるまでは少々戸惑いそうだ。
■シングルでも背景をぼかせるカメラ
このところ、レンズを2個以上搭載したスマホが多数登場している。そうした複数のレンズを用いて被写界深度をとらえて被写体の背景のぼけを調整できたり、さらにはAIを用いてSNS映えするよう色彩やコントラストを強調するスマホが増えている。ちょっと行き過ぎるぐらいのカメラ機能を備えたスマホが多い中で、このPixel 3/3 XLのカメラは「正直」で「端正」といった印象の仕上がりだ。
アウトカメラは1,220万画素デュアルピクセルセンサー/F1.8のシングルレンズ仕様となっている。1度に7枚の写真を撮影して合成する「HDR+」機能も備え、目で見たものに非常に近いコントラストで黒つぶれや白飛びのない写真の撮影ができる。たとえば逆光で人物を撮影しても表情がしっかり写せるし、明るい風景写真でも雲の明暗がしっかり描画される。一方、インカメラは800万画素/F2.2の広角と800万画素/F1.8の標準という2つのレンズを組み合わせのダブルレンズ仕様となっている。
アウトカメラ、インカメラともにポートレートモードを備え、とくにアウト側のカメラはレンズが1つながらも、画像処理プロセッサー「Pixel Visual Core」がピクセル単位で被写体を認識することにより、しっかりと背景だけをぼかすことが可能である。また撮影後に被写界深度を調整することもできる。
また人物撮影をする際の「顔レタッチ」機能がアウトカメラ、インカメラ共に使用可能である。しかも標準モード、ポートレートモードの両方で機能する。この機能は被写体となる人物を自動認識し、肌の状態などをレタッチしてくれるもので、ナチュラル/ソフト/OFFを選択できる。昨今の自撮りブームに対応させたものであるが、中国メーカー製スマホに多く見られる「自撮り写真が別人になる」ぐらいまで盛るようなことはせず、見た目に近い正直な描画を心掛けている印象だ。
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■これぞ電脳メガネ、内蔵されたGoogleレンズ機能
カメラの「その他」メニューの中には、「360°パノラマ」「スロモ録画」「フォトブース」に加えて「レンズ」というモードが備えられている。この「レンズ」は、Googleが11月1日から日本向けにもアプリで提供を開始予定の「Googleレンズ」と同等の機能が内蔵されたもの。すでに海外ではサービスインしているようだが、この機能を使ってカメラを被写体に向けると、それに関する情報が提示されるというものである。これこそまさに映画『電脳コイル』に出てくる「電脳メガネ」を現実化したような機能だ。現時点で利用可能なのは、商品検索する、植物や動物を調べる、書籍やメディアを探す、テキストを抽出してコピーするといった機能に限定されているが、正直なところその精度の高さにかなり驚かされた。実際にどのような情報検索ができたかは、以下の画面キャプチャとキャプションを参考にしていただきたい。
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これはGoogle検索に蓄積されている様々な情報をカメラを通して簡単に検索できるようにした機能といえ、これまでテキスト入力や画像検索などによって行っていた検索が、「カメラを通じて被写体を映す」だけで簡単に情報を得られるという、今後トレンドになりそうな画期的な情報検索手段といえる。
かつてGoogleがHDM型デバイス「Google Glass」を開発し、2013年には開発者向けに販売を行ったことがある。筆者はこの端末を入手し実際に使って近未来を体験した一人だが、あの時にこの「Googleレンズ」の機能が実現していれば、どれほどGoogle Glassは利便性の高い端末として価値を高められたことだろうと考える。世の中、ハードとソフトウェア、コンテンツの足並みをそろえていくことがどれほど重要なことなのか感じさせてくれる。
なお、Googleレンズでは、現状は人物の検索結果は出ないようだ。たとえば筆者を画像検索するといくらでも本人の顔写真が並ぶが、Googleレンズからは検索できない。当然のことながら個人のプライバシーを配慮してのことだろう。
■ワイヤレス充電スタンドなどのアクセサリも登場
Pixel 3とPixel 3 XL発売に合わせて、専用アクセサリもいくつか発売される。なかでも専用のワイヤレス充電スタンドはQi準拠のワイヤレス充電に対応しており、起立式のスタンドなのでPixelを急速充電しながらGoogleアシスタントやフォトフレームを起動して使うこともできる。
また単なるワイヤレス充電スタンドと思いきや、個別のPixel端末を認識でき、たとえば家族でPixelを使っていてもそれぞれの端末を識別して自分なりのタスクや機能カスタマイズが可能である。
具体的な活用事例として、Googleアシスタント機能を利用すればもはやGoogle Homeばりに天気予報から、音楽再生、スマートホーム系プロダクトとの連携で部屋の電気のON/OFFなど、音声でコントロールできる。目覚ましとして活用することもできるし、Googleフォトに保存されている画像をフォトフレーム代わりに表示させることも可能だ。
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■クラウドにシームレスにつながることを目指す?
iPhoneは完成度が高いと評価されることが多いが、それはAppleがiPhoneというハードウェアとiOSとを一体的に設計開発できるからといえる。一方のAndroidスマホは、Googleが各端末メーカにAndroid OSを供給し、それをメーカごとにカスタマイズして搭載している。ハードウェアとOSとの足並みが一致していないために、操作にぎこちなさや違和感を感じるスマホも散見する。しかしPixelシリーズはAndroid OSを開発するGoogle自らが端末の設計開発も行い、Android OSを搭載した標準スマホとして世に送り出している。このためハードウェアとOSの一体感はiPhoneに引けを取らない。
その上で、Appleに対するGoogleの強みとなればクラウド上にある膨大な情報資産ということになる。地球上のあらゆる情報をクラウドに集約してきたGoogleの情報資産を一体的にスマホで活かしていこうという意気込みをこのPixelシリーズから感じた。
というのは実際にiPhoneを利用していても、GmailをはじめとしてGoogleドライブやGoogleフォトなど、クラウド系のサービスをGoogleに集約しているというユーザも少なくないはずだ。iPhoneでもGoogle謹製アプリを使えばそれらのサービスを活用可能だが、Pixelではプリインストールアプリでそれらをほぼ網羅しているだけでなく、前述のカメラ機能のように別アプリで提供してきた機能をシームレスに活用できるようにスマホ本体機能として取り込むことで、スムーズにユーザが利用できるような工夫がみられる。
スマホは、情報通信機器であり、コミュニケーションの道具であるが、むしろ昨今はオンライン上にある様々な情報や個人のデジタル資産にアクセスするための「クラウドの出入り口」としての役割が一層重要になってきている。そのために、どのようなインターフェイスを備えるのが理想なのかを各社が試行錯誤している段階にある。たとえば、AppleのSiriや、GoogleのGoogleアシスタントもそうしたシームレスなクラウドへのアクセスの試行の一部だろう。ちなみにPixelでは端末自体をぎゅっと握るという動作でGoogleアシスタントを起動させることができる。別に「OK Google」と声を掛ければいいじゃないかと言われそうだが、ユーザがアシスタントを使う敷居はたったそれだけでも大きく変わるはずである。
■スマホはなぜこんなに高価になったのか
Pixel 3/3 XLは完成度も高く、またGoogleの各種サービスを手のひらで活用するにあたって大変魅力的なスマホと感じたが、一方で残念なことはその価格設定である。Pixel 3が64GBモデルで95,000円、128GBモデルで107,000円。Pixel 3 XLが64GBモデルで119,000円、128GBモデルで131,000円となっている。NTTドコモ、ソフトバンクでも取り扱いが開始されるが、両キャリアの定価設定はさらに若干高くなる。ただし、様々な販売施策で割引が行われるので、これらキャリアで使い続けるならお得に購入することも可能だろう。
確かにiPhoneをはじめとする他の端末メーカーのフラッグシップラインと肩を並べた価格帯といえばそれまでだが、スマホの価格が年々高価格になっていくのは痛いところだ。Pixelに搭載されるSoCや各種デバイス類などに妥協はみられないが、見た感じからは高級な端末という感じは薄い。もちろん、あえてきらびやかにせずに高級な素材を使いながらもカジュアルに仕上げるというのがGoogle流なのかもしれないが…。