【仏教とIT】第16回 認め合える世界を作る寺社フェス | RBB TODAY

【仏教とIT】第16回 認め合える世界を作る寺社フェス

自分自身の源をたずねて

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【仏教とIT】第16回 認め合える世界を作る寺社フェス
【仏教とIT】第16回 認め合える世界を作る寺社フェス 全 5 枚 拡大写真


自分自身の源をたずねて



前回は、ニコニコ超会議の仏教ブース「超テクノ法要×向源」のうち、「超テクノ法要」について書いた。今回は「向源」の話である。向源とは、公式サイトの言葉に基づいていうと、「宗派や宗教を超えて、仏教や日本の文化を体験できるイベントを展開する寺社フェス」である。その名称が表すとおり、自分自身の「源」に「向」き合うことをコンセプトにしている。



ニコニコ超会議の喧騒をヘッドホンで遮断し、自分自身に向き合う「サイレント坐禅」



ニコニコ超会議の喧騒をヘッドホンで遮断し、自分自身に向き合う「サイレント坐禅」



向源のきっかけは、平成23年3月11日に発生した東日本大震災だった。未曽有の大災害の惨状がメディアから配信されると、「次に同じような災害が東京を襲ったらどうしよう」「被災地に支援ボランティアに行かなきゃいけない」と、人間の心は情報に翻弄された。その様子を見ていて、天台宗常行寺(東京都品川区)副住職の友光雅臣さん(35)は、違和感を覚えた。「私たちは他人に振り回されずに、自分の心に基づいて生きられないのか」と。そして、「自分自身に向き合う助けになるのが仏教であるはずだ」と。なんとかして、「お寺=供養のための場」というステレオタイプを打ち砕きたい。震災から半年後の9月。DJとしてのキャリアも持つ友光さんは、常行寺を舞台に、声明公演、音楽ライブ、DJという3本のコンテンツを軸に、第1回向源を実施した。足を運んでくれた70名ほどのお客さんからは、「坐禅をやってみたい」「精進料理って私たちが食べてもいいの?」などと反響が返ってきた。お寺とは生きている人々の祈りや気づきの場でもあるべきという、友光さんの渾身のメッセージは、しっかり伝わった。


拡大路線と破綻



半年後の平成24年4月に、第2回向源が同じく常行寺で行われ、150名が参加した。前回のお客さんからの期待に応え、坐禅や精進料理などの五感をゆさぶるワークショップを提供した。その翌年の第3回向源は徒歩圏内の3つのお寺と1つの神社が舞台となり、宗教の枠さえ超えたフェスとなった。その後も毎年1回、ゴールデンウィークに行われ、回を追うごとに規模が拡大していった。ちなみに私と向源の関わりについていうと、第2回の開催直前にプレスリリースをいただいたが、日程が合わず断念。第3回に初めてうかがい、今年のニコニコ超会議を含めると5回足を運んでいる。うち3回はワークショップやトークイベントを担当した。そのなかで、一番印象的だったのが、常行寺の位置する北品川の社寺をジャックして行われた第3回だった。住宅地エリアでも、地域に根差した社寺が手をとりあえば、町全体が活性化しうる――そんな可能性を感じたフェスだった。

天台宗、真言宗、浄土宗の3つの修行をいちどに実践して、宗派の違いを体感してもらう「仏教プラクティス」。第3回向源にて



しかし翌年、向源はあっさりと北品川の地から離れてしまった。それは私にとって悲しい出来事ではあったが、やむをえない判断だったとも思う。というのも、向源の動員数が伸びていくなかで、東日本大震災の後、自分自身のよるべを仏教に求めた首都圏の人々の期待を、友光さんは一身に背負っていたからである。平成26年の第4回は、友光さんの常行寺を離れ、浄土宗大本山増上寺を舞台に、2,000人を動員。寺社フェスとしては例のない規模になった。それは、お寺が「気軽に関わっていいもの」だと理解され始めたことを示すものでもあった。運営ボランティアを募ったところ、80名もが手伝ってくれた。これは、オウム真理教のサリン事件以降、宗教への忌避感が強かった時代にはありえない現象だった。私はこの平成26年を「お寺ボランティア元年」だととらえている。また、コンテンツで印象的だったのは、長蛇の列を作った「お坊さんと話そう」というコーナー。ただお坊さんと話すだけの時間が「価値あるもの」とわかったことは、「お寺離れ」の閉塞感に苦しんでいるお坊さんに、大きな自信を与えた。

第4回向源。協力してくれた多くのボランティアスタッフとともに


平成27年の第5回は同じく増上寺で2日間にわたって6,000人動員。平成28年の第6回は増上寺会場のほか、日本橋会場なども設け、1週間の会期中に百本以上のワークショップなどを展開し、15,000人以上の来場者を迎えた。関わってくれたボランティアスタッフはのべ400人を数えた。しかし、思うほど収入は伸びず、200万円の赤字を出した。初めての大きな赤字だった。「オリンピックイヤーに百万人動員することを目標にして、常に向源を大きくしてきましたが、赤字に陥って軌道修正が必要になった時に、『俺自身が目標に縛られてたんだ』と気づいたんです。代わりのビジョンなんてなかったですが、『やりたいことがわからなくなってしまったけど、やりたい』と言ったら、裸になった自分を多くのスタッフが受け入れてくれました」と、友光さんはこのときの向源が転機だったと振り返る。


認め合える世界をつくる



翌年以降は、「自分のやりたいことだけやろう」と腹をくくり、コンテンツを見直して厳選し、開催規模も1,000人程度に縮小した。手を引いたスポンサーやメディアもあったが、自由に企画ができるようになった。平成29年秋には京都でも初開催。そして昨年からはニコニコ超会議に出展。

超テクノ法要の朝倉行宣さん(左)と向源の友光雅臣さん(右)


「ニコニコ動画ってコメントが動画の画面上に流れるでしょう。この機能自体が象徴的なんですが、ニコニコのサービスって双方向的です。ニコニコ超会議も『会議』だから、傍観者がいないんです。生放送する人もいれば、コスプレする人もいれば、踊ったり歌ったりする人もいます。全員に役割があるから、自然と自分に向き合うことになる。つまりニコニコは『向源』そのものですよね」と友光さん。そして、「全員で一つの世界を作り上げていく。そういうフェスが好きだし、時代に求められているとも思うので、ニコニコ超会議に誘われたときは、渡りに船という感じでした」という。私は、この言葉を聞いて、北品川に一つの世界を作った懐かしい第3回向源が、円熟した形で再現されていると嬉しく感じた。もう一つ嬉しかったのは、時代の流れに迎合することなく、仏教の果たす役割について自由に語り合えたこと。

「今年はニコニコ超会議が『同じってうれしい。違うってたのしい』という言葉をキャッチコピーに使っていました。これに類似する言葉が最近あまりに頻繁に使われますが、背景にあるのは他人に認めてもらえない絶望感でしょう。コミュニティが小さくなっていくなかで、ヤケになってコミュニティから引きこもるのは簡単ですが、それをなんとか思いとどまって一緒に世界を作ろうと踏み出せるか。その背中を押すのは自分の外にある何かじゃない。単純に、自分が何をしたいか。仏教や神仏はあなたを認め、信じています。もっとのびのびと、思うがままに生きるきっかけになれればと思っています」向源は来年以降も続いていく。私たちが心から認め合えるはるかなる世界を求めて。

池口 龍法氏
池口 龍法氏

【著者】池口 龍法
1980年兵庫県生まれ。兵庫教区伊丹組西明寺に生まれ育ち、京都大学、同大学院ではインドおよびチベットの仏教学を研究。大学院中退後、2005年4月より知恩院に奉職し、現在は編集主幹をつとめる。2009年8月に超宗派の若手僧侶を中心に「フリースタイルな僧侶たち」を発足させて代表に就任し、フリーマガジンの発行など仏教と出合う縁の創出に取り組む(~2015年3月)。2014年6月より京都教区大宮組龍岸寺住職。著書に『お寺に行こう! 坊主が選んだ「寺」の処方箋』(講談社)、寄稿には京都新聞への連載(全50回)、キリスト新聞への連載(2017年7月~)など。
■龍岸寺ホームページ http://ryuganji.jp
■Twitter https://twitter.com/senrenja

《池口 龍法》

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