
ハイパーループ(Hyperloop)は2013年にテスラの共同摂理者でもあるイーロン・マスクが構想を発表した。真空近くに減圧された円筒形のチューブの中を、同じく円筒形のポッドと呼ばれる車両を浮かせて輸送するというアイディアだ。空気抵抗がなくなるため理論上の最高速度は時速約1200キロと、飛行機を超える「マッハ1」相当の速度を出せるという。ハイパーループは地上を走るように見えるが、実際は地上の上に作られたパイプの中を移動する「空飛ぶ鉄道」なのだ。

ハイパーループならロサンゼルスーサンフランシスコの間(約600キロ)を30分で結ぶことができるという。これは東京大阪間なら約20分で移動できる速度だ。鉄道のように車両を長編成つなぐのではなく、1つのポッド(定員数十名程度)をチューブの中に連続して複数走らせることができる。毎分数個のポッドを動かすことができるので、1時間あたり数千名の旅客を移動させることも可能だ。
このハイパーループ構想を実現すべく複数の会社が商用化に向け開発を進めている。その中の1社、バージングループの「バージン・ハイパーループ・ワン」は中東のアラブ首長国連邦で世界初のハイパーループ路線を建設しようとしている。ドバイとアブダビの間、約160キロは現在車で90分かかるが、ハイパーループはわずか12分で結ぶことができるという。1時間あたりの輸送人員は1万人で、小型旅客機の6から8機分の輸送力を持つ。

10月6日からドバイで開催されたIT展示会「GITEX2019」でバージン・ハイパーループ・ワンは同社が開発中のハイパーループの実物大のモックアップを展示していた。同社のポッドの全長は一般的な鉄道車両と同じくらいの大きさで、先頭はわずかとはいえ空気抵抗を受けるので流線型のデザインとなっている。まだ駅の構造などは決まっておらず、モックアップは円筒のチューブの側面にポッドの入り口と同じ大きさを開けて展示されていた。

室内は中央で上級と一般の2つのクラスに分かれている。上級クラスは左右に1列ずつ座席が並んでおり、室内空間はかなり広く感じられる。室内に入ると入り口側は2列、反対側は3列と座席の数はわずかに5席とかなり贅沢な作りだ。先頭にはニュースなどを流す大型ディスプレイが配置されている。
座席は横幅も広く、前後の間隔もかなり開いているので足をのばして十分くつろぐことができる。リクライニングはしなかったが実車では多少のリクライニング機能があるようだ。乗車時間は10分ちょっとなので飛行機のビジネスクラスのようにフルフラットにはならないようだ。

窓はないが、情報を表示するディスプレイが設置されている。ひじ掛け部分にはスマートフォン用のワイヤレス充電台と、側面ディスプレイに表示する内容をメニューから選ぶ小型ディスプレイが設置されている。側面には現在地と速度などを表示できる。

チューブ内部を走行するため室内の断面は飛行機のように天井に向かって狭くなっているが、広々としたインテリアデザインのため狭苦しさは感じられない。

一方一般クラスは左右に2席が4列+3列、合計14席となる。3列側の後方にも出口があるため、乗車時は上級クラスと一般クラスは別の入り口を使うようだ。は上級クラス同様に斜めに配置されており、前後間隔を最大限撮れるようになっている。

一般クラスの座席は上級クラスより狭いが、それでも飛行機のエコノミークラスよりは広いようだ。また付属設備は無く、上級クラスにあった壁側のディスプレイも無い。必要最小限の設備、すなわち座席とシートベルトのみが備わっている。

ヴァージン・ハイパーループ・ワンは現在ラスベガス北部に試験用トラックを設置してテストを行っている。同社は2020年10月からドバイで開催される「ドバイ・エキスポ2020」の会場とドバイ空港を結ぶ10キロの路線を先行開業させる予定だが、あと1年で技術問題をクリアし建設も間に合わせるのはかなり厳しいチャレンジだ。果たしてハイパーループは次世代交通システムの主役となるのだろうか?世界中が同社の動向に注目している。
