金のスプーンが、使用してから1ヶ月、1年、10年の節目で元に戻るかどうか選べる設定ということもあり、前半8話は高校生編、後半8話はその約10年後の成人編という構成になっている。前半は韓国ドラマにおいてやや既視感を感じる展開だったが、後半はスプーンに関する新たなルールも発覚し、入れ替わり設定を活かしたスリリングな展開へと転じていくので、興味を持った方はどうか最後まで完走してほしい。
今回は、13話から16話のハイライトと共に、本作について振り返っていきたいと思う。なお、メインキャラクター2人の名前は、それぞれ生まれた時の名前(入れ替わる前の名前)で書いていく。(以下ネタバレあり)
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12話までの大まかなあらすじ&相関図
主な登場人物は、こちらの相関図の通り。
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貧困家庭のイ・スンチョン(ユク・ソンジェ)が謎の老婆から金のスプーンを購入し、大手企業会長の息子ファン・テヨン(イ・ジョンウォン)と入れ替わることで、二人の人生が複雑にねじれていく。入れ替わったことはスンチョンと、同じく金のスプーンの持ち主であるオ・ヨジン(ヨヌ)しか知らない。テヨンの人生を手に入れたスンチョンは、貧困に喘ぐ家族を助けるため孤軍奮闘。実の父が事故で大怪我をしたことで、一度は「カネより家族」を選び元に戻るも、家計がますます悪化の一途を辿ったことから、再び金のスプーンに手を出してしまう。
約10年間、スンチョンとテヨンは入れ替わったまま過ごし、スンチョンはテヨンが巻き込まれた事件や跡継ぎ争いなどを背負い、一方でテヨンはスンチョンが直面するはずだった貧困に悩まされ続ける。二人が再び入れ替わる機会が迫る中、あらゆる場面で違和感を感じていたテヨンが、金のスプーンの存在を知ってしまう。
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スンチョン、遂に入れ替わりがバレる
テヨンが自身の正体に気づいた上で「スンチョンとして生きる」ことを選んだ後、スンチョンの入れ替わり「バレるか・バレないか問題」は解消されていく。ジュヒ(チョン・チェヨン)は、スンチョンとテヨンによる言動の違和感や金のスプーンに関する情報を突き止めていき、入れ替わりを確信。スンチョンを海辺のデートに誘い、すべて気がついたことを伝えた。
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2人は晴れて両思いとなるが、そのことに腹を立てたヨジンは、スンチョンの父イ・チョル(チェ・デチョル)に「息子が一体何をしたのか知りたくありませんか」とスンチョンの金のスプーンを渡す。チョルはためらうも最終的にはスプーンを使い、これまでの出来事をすべて知り、嗚咽する。チョルはスンチョンを食事に誘い、「スンチョンの温かい心を覚えていてくれ」「お前がどんな名前で生きようが、お前を愛している」と言い、その後スンチョンの身代わりとなり、ジュンテに殺されてしまう。
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ラスボス、ファン・ヒョンド会長との骨肉(?)の争い
金のスプーンには「誕生日に実の親に会うと元に戻る」というルールがあるが、テヨンとその父ファン・ヒョンド(チェ・ウォニョン)の場合には当てはまらなかった。そこから発覚していくのが、ヒョンドも金のスプーン使用者であり、その中身がトシングループの元協力業者クォン・ヨハンであること。本物のヒョンドが自殺と見せかけ殺されていたことも明らかになっていく。
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テヨンを散々脅かしていた叔父ジュンテも、偽ヒョンドから「実母が姉である」という事実を聞かされたことで自殺。偽ヒョンドは、父の死により改心したスンチョンの様子を見て「退路を断つしかない」と、テヨンの命をも脅かしていく。最終的にスンチョンと偽ヒョンドは殺し合いになるが、テヨンが仲裁し、またテヨンの継母の協力もあり、偽ヒョンドは逮捕。その後、作品の“らしさ”を感じる展開となっていくのだが、それはぜひご自身の目で見届けてほしい。
原作漫画『金のさじ』との違い
『ゴールデンスプーン』の原作は、ウェブトゥーン発の人気漫画『金のさじ』だ。そちらでは、金のスプーンは使用後3ヶ月、3年、30年の節目で元に戻るかどうか選べるルールで、主人公かける(ドラマ版:スンチョン)は小学6年生。無職漫画家の父、家計を支える美人な母、強気な姉などの登場人物や、父の事故後、同じスプーン使用者のゆい(ドラマ版:ヨジン)の家で使用人扱いされながら生活するなど、ある程度ドラマと同じ内容となっている。
異なるのは、“金のスプーン”である亮太(ドラマ版:テヨン)と許嫁の優香(ドラマ版:ジュヒ)が両思いで入れ替わり後も惹かれ合うことや、亮太の父が悪事に手を染めておらず、亮太に継母や叔父がいないこと、などだ。ドラマに比べるとややスローペースな展開で、かける、ゆい、亮太、優香の恋愛模様が主軸となっており、かけるとゆい、亮太と優香、それぞれがくっついたところで連載休止となっている。ドラマはその世界観を広げ、叔父や偽ヒョンドを登場させたことで、サスペンス色を強化。原作ファンでも納得しつつ、楽しめる物語になっていたと思う。
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この世の理想と現実を炙り出し、導き出したエンディング
本作はカネにまつわる印象的な台詞が多く、時には「カネか、それ以外のものか」という題材のディベートを観覧している感覚に陥る時もあった。終盤、金の亡者である偽ヒョンドは「人は富には簡単に染まる」「カネこそが信仰」といった発言を繰り返す。スンチョンの母から「満足したことがないあなたは貧しい人間に見える」とバッサリ言い切られても動じない。むしろそのことを認め、「金持ちだと思った瞬間、その後は貧しくなるしかない。常に貪欲でないとその先には進めない」と、“物質的な豊かさ”において貧しいと言う。
どん底を経験したジュヒは、再びテヨンとして生きようとするスンチョンに対し、「どんな親から産まれどんな環境で暮らすかも重要だが、誰といるかがもっと重要」と説得する。スンチョンは、「結局はカネのため」にテヨンの人生を選ぶが、父の死を経験したことで最も大切なことに気づいていく。
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確かに世の中は非情で、スンチョンや偽ヒョンドの発言には的を得たものもあり、一方でテヨンやジュヒ、スンチョンの両親の発言には“きれいごと”だと感じるものもある。しかし、ラストには“本質的な豊かさ”とは何かを気づかせてくれる。まるで現代版『クリスマス・キャロル』のような作品であった。
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■筆者プロフィール 山根由佳
執筆・編集・校正・写真家のマネージャーなど何足もの草鞋を履くさすらいのフリーライター。映画・海外ドラマおたくだが、コロナ禍に人生二度目のカン・ドンウォンのブームが到来し、出演ドラマも鑑賞したことで韓ドラの世界に興味を抱くように。さらに『ヴィンチェンツォ』を観て完成度の高さに度肝を抜かれ、韓ドラにのめり込む。ホラー、コメディ、サスペンス、ヒューマンドラマが好き。映画・海外ドラマ・韓ドラを網羅したいため、観たい作品に対して時間が圧倒的に足りないことが悩み。2022年現時点でのベスト韓ドラは『私の解放日誌』。