TKローファームの弁護士オ・スジェは、高卒ながらも圧倒的な勝率を誇るスター弁護士だ。TKローファーム会長のチェ・テグク(ホ・ジュノ)も一目置いている存在だが、裁判に勝つために手段を選ばない冷酷なところがあるため敵が多い。
一方ロースクール1年生として夢の第一歩を踏み出したコン・チャンにも暗い過去があった。義妹が何者かに殺害され、その罪を着せられたのだ。真犯人がつかまり無罪となるが、世間から激しいバッシングを受けたことにより心に深い傷を負っている。
そんなスジェとチャンが出会い、2人を取り巻く環境がものすごい勢いで動き始める。
(以下、物語の内容にふれるネタバレあり)
3つの事件が物語の柱となり、次から次へと事件が勃発
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スジェを陥れようとする人物により不当に逮捕されてしまう
本作は「凍てつく心を溶かす美しく切ない大人のラブロマンス」と銘打っているが、それだけではなく、かなり密度の濃いサスペンスドラマでもある。
オムニバス形式で物語が展開していく法廷ものが多い中、第1話でスジェが遭遇する事件を発端に10年前の2つの事件がからみ、最終話まで結論が分からない展開となっている。
オープニングが衝撃的だ。白い服を着たスジェが血だらけとなって歩いていくシーンが描かれる。一体何が起きるのかと見ていると、スジェが担当した裁判の相手方の女性、パク・ソヨン(ホン・ジユン)がスジェの目の前でTKローファームのビルから転落する。そのシーンの描き方にインパクトがあり、序盤からハラハラさせられる。
この事件を発端にスジェは左遷され、ロースクールに教授として勤務することになるのだが、そこで新人弁護士だった頃に弁護したキム・ドングと再会。彼はコン・チャンと名前を変えて新しい人生を歩んでいた。
物語はパク・ソヨンの転落死、コン・チャンが過去に罪を着せられた義理の妹殺害事件、そしてその背後にあるもう一つの事件の3本を中心に展開していく。
スジェのまわりで次から次へと事件が起こり、一時は不当に逮捕までされてしまう。彼女を陥れようとする人間ばかりで気の毒としかいいようがないのだが、そんな境遇のスジェを必死に守るのがチャンなのだ。かつて殺人犯として逮捕されてしまった時、親でさえ無実を信じてくれない中、弁護を引き受けてくれたスジェだけが信じてくれたことをチャンはしっかり覚えていたからだ。
受けた恩を忘れずに一人の女性を守り抜く青年と欲深い人間たち。この真逆のコントラストは、物語が展開していく上で非常に大きな役割を果たしている。
ソ・ヒョンジン&ファン・イニョプが表現する切ない愛
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スジェは、高卒ながら弁護士となった人物で、当初は純粋に弱者を守ることに尽力してきた人物だ。新人弁護士だった頃に国選弁護士として引き受けたキム・ドング(コン・チャン)の事件では、ドングの無罪を信じて捜査上に問題があったことを必死に訴えるものの、受け入れられなかった。
その背後には、当時検事長だったTKローファーム会長のチェ・テグクがいた。この瞬間からスジェはテグクに翻弄されることになる。
テグクの指示どおり仕事に邁進し、周りの非難をものともせず、自身の望む地位まで上りつめたが、笑顔が消え寂しい女性になってしまった。金と地位を手に入れても常に何かに追い立てられ、心に隙間風が吹いている様は痛々しい。
そんなスジェをなんとか助けたいと奔走するのがチャンだ。自分を弁護士してくれた時に見せてくれた優しい笑顔がなく、全く違う姿になってしまったスジェの苦しみを理解し、何があっても助けようとする姿に心が温かくなる。
かつての優しいスジェに戻ってほしいと懸命に尽くすチャンによって、スジェの凍ってしまった心が少しずつ溶けていく様を見ていると、無償の愛は強いと改めて感じる。
2人の間にはさまざまな壁が立ちはだかるが、苦しみながらも乗り越えていくスジェとチャンを応援するのも、このドラマの醍醐味だ。
ホ・ジュノの悪役ぶりに戦慄が走る
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スジェとチャンの前に立ちはだかるTKローファーム会長のチェ・テグクを演じるのはホ・ジュノ。日本ではドラマ『オールイン』『朱蒙』でその名を知られている。個性的な役を演じることが多かったが、今回ほど最初から最後まで悪役に徹した役を演じたことがあっただろうか。
何しろテグクはやることなすこと、えげつない。徒党を組んでいるのは大企業・ハンスグループの会長、ハン・ソンボム(イ・ギョンヨン)と国会議員のイ・インス(チョ・ヨンジン)。表面上は友好的に接しているものの、心の中では「無能なやつら」とののしり、最終的に2人を利用して、国を牛耳ろうと壮大なビジョンを持っている人物だ。
問題ばかり起こしている長男のチェ・ジュワン(チ・スンヒョン)を守るためには殺人を犯すことも躊躇せず、かつてジュワンと結婚を約束したスジェを非情に裏切ることで、スジェの人格を変えてしまった人物がテグクなのだ。
テグクは、最終話に至るまでしぶとく生き残る。終盤、自らの欲のために雑に扱ってきた部下たちによって悪事のすべてが明らかになるのだが、一度も「悪かった」と反省するシーンがないほど悪役に徹している。
最後は刑務所に入るくらいなら死んだほうがマシ…と思ったのか、大量の薬物を摂取して自殺をしてしまう。
自殺を図る前、スジェに電話をし「ジュワンとスジェを結婚させていたらどうなっていたのか…」と恨み言を言うのだが、その一方で「今、私の電話に出てくれるのはスジェだけだ」と寂しく言うところに哀愁を感じる。
一緒に悪事を働いてきたソンボムとインスは、死んでしまったテグクが主導権を握っていたと言い「友人は選ばなければいけない」とまで言われてしまう始末。テグクの自殺で物語を締めくくってしまったのは納得できない部分もあるが、欲望を抱きすぎた成れの果てを演じるジュノの上手さが、もの悲しさをより一層際立たせているように感じる。
※『なぜオ・スジェなのか』
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■筆者プロフィール
咲田真菜
舞台・映画・韓国ドラマの執筆を手掛けるフリーライター。映画『コーラスライン』でミュージカルに魅了され、あらゆる舞台を鑑賞。『冬のソナタ』で韓国ドラマにハマって以来見続け、その流れで韓国映画、韓国ミュージカルにも注目するようになる。好きなジャンルはラブコメ、ファンタジー、法廷もの。ドロドロした愛憎劇は苦手。好きな俳優はイ・ビョンホン、イ・ジョンジェ、ヒョンビン、キム・ドンウク、チャン・ギヨン。いつか字幕なしで鑑賞したいと韓国語を勉強中。