韓国を代表する企業、ウンソングループで「どんなスキャンダルも華麗にもみ消す」と評価されてきたファン・ドヒ(キム・ヒエ)と、常に弱者に寄り添う熱い弁護士、オ・ギョンスク(ムン・ソリ)。真逆の考えを持った2人の女性がタッグを組み、腐敗した政治の世界へ殴り込みをかける物語だ。
クールなドヒと熱いパッションを持ったギョンスク。ベテラン俳優が醸し出す「バディぶり」が見る者の心を揺さぶり、話題となっている。
すでに全11話が配信されており、一気見確実の本作の見どころを紹介したい。
(以下、物語の内容にふれるネタバレあり)
あらすじ:
ファン・ドヒ(キム・ヒエ)は、韓国の大手企業、ウンソングループの戦略企画室長として、ウン一族のトラブルを片付ける敏腕フィクサー。部下のハン・イスル(ハン・チェギョン)が不幸な事故で命を落としたことをきっかけに、ウンソングループと決別。
同じ頃、ウン・チェリン(キム・セビョク)が常務を務めるウンソンデパートの一方的な非正規社員解雇に抗議をしていた弁護士のオ・ギョンスク(ムン・ソリ)。ドヒはウンソングループを潰すためには、ギョンソクの力が必要だと確信し、ソウル市長選への出馬を依頼する。2人の女性が巨大な勢力に立ち向かうため、闘いを始めた。
登場人物
ファン・ドヒ(キム・ヒエ)
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大企業・ウンソングループの戦略企画室長として、ウン一族を守る敏腕フィクサー。部下の不幸な事故をきっかけにウンソングループを潰すことを決意。人権派弁護士のオ・ギョンスクと手を結び、政治の世界へ足を踏み入れる。
オ・ギョンスク(ムン・ソリ)
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第18代ソウル市議会議員、女性労働者人権弁護人団代表として常に弱者に寄り添い、ついたあだ名は「イカれたサイ・闘う鶏」。猪突猛進なところがあるが、理解のある夫に支えられ信念を曲げずに突き進む強い女性。ソウル市長選に出馬し、ドヒとともに闘う。
ペク・ジェミン(リュ・スヨン)
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グリーンピープル財団理事長で、ソウル市長選に出馬する。ソン会長の次女、ウン・チェリンの夫。見た目は紳士的だが、女癖が悪く卑劣。
ソ・ミンジョン(チン・ギョン)
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ソウル市長候補。国民改革党の議員。「庶民のしもべ」として国民の支持を得てきたが、オ・ギョンスクがソウル市長選に出馬したことで激しく対立。手段を選ばずギョンスクを攻撃する。
ソン・ヨンシム(ソ・イスク)
ウンソングループ会長。亡き夫からウンソングループを引き継ぎ、会社を大きくした。ソウル市長に義理の息子を据え、意のままに操ることを画策している。
カール・ユン(イ・ギョンヨン)
ジェミンの選挙参謀。長年ソン会長と懇意にしている。
ウン・ソジン(ユン・ジヘ)
ソン会長の長女。浪費家で男癖が悪く、堕落した生活を送っているが、ジェミンの本性を見破っている。
ウン・チェリン(キム・セビョク)
ソン会長の次女。気に入らないことがあるとまわりに当たり散らす性格だが、経営については長女のソジンよりも勉強している。
クク・ジヨン(オク・ジャヨン)
ドヒの部下で、戦略企画室のチーム長。野心があり、ドヒを超えたいと考えている。
ハン・イスル(ハン・チェギョン)
ドヒの部下。不幸な事故で命を失う。
マ・ジュンソク(キム・テフン)
ドヒの元夫で、国民改革党政策局長として、ソ・ミンジョンを支える。
キム・ヒエVS ムン・ソリ 屋上で繰り広げるバトル合戦
ソウル市長選を舞台に繰り広げられる政治バトル。「やられたら倍にして返す」とどこかで聞いたことがあるせりふも登場し、当選するためにあらゆる手法で選挙戦に挑んでいく様を興味深く見ることができるドラマだ。
物語の中心人物となるファン・ドヒを演じるキム・ヒエと、オ・ギョンスクを演じるムン・ソリ、そして彼女たちが立ち向かう大きな壁は、ウンソングループの会長、ソン・ヨンシムを演じるソ・イスク。凄腕の女性たちが会社を牛耳り、さらには政治を動かしていくのは、なかなか見ごたえがあり爽快だ。
ウン一族の問題児たちが起こすトラブルを片っ端から片付けていくドヒ。物語の冒頭、かつて韓国で話題となった「ナッツ・リターン事件」を思わせるようなエピソードが繰り広げられるのだが、ドヒの戦略でマスコミの目を他へ向けさせ、騒動が鎮火していく様を描いている。「なるほど、そういう手があるのか」と感心してしまうほど、ドヒの手法は鮮やかだ。
そしてギョンスクも、ドヒに負けず劣らずパワーがある。人権派弁護士として強い信念を持つ彼女は、ウンソングループが経営するウンソンデパートが非正規雇用者を一方的に解雇したことに抗議し、デパートの屋上に籠城する強者だ。屋上で拡声器を手に旗を振る姿は、現代のジャンヌダルクのようだ。
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そんな二人が敵としてウンソンデパートの屋上で出会い、激しい言い争いをするシーンが第1話で描かれる。ビシッとしたスーツに身をつつんだドヒと髪の毛を無造作に後ろで束ね、みすぼらしい恰好をしたギョンスク。
ベテラン俳優2人の激しい掛け合いと、最後にギョンスクがドヒに対して驚きの攻撃を仕掛けるところは、思わず「うぉ~」と声を出してしまい、この作品の名シーンの一つとなっている。
ドヒの圧巻のプロデュース力で変貌していくギョンスク
真逆の立場にいたドヒとギョンスクが手を結ぶことになるきっかけとなったのは、ドヒの部下ハン・イスルが転落死したことだ。
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ソン会長の次女の夫、ペク・ジェミン(リュ・スヨン)の秘書を務めていたイスルは、ジェミンから暴行を受けたのだが、それをもみ消そうとしたジェミンに怒りを覚えるドヒ。これ以上、ウン一族に仕えることはできないと決別宣言をする。
ソウル市長に出馬するジェミンを何とか止めなければならないと、ドヒは対抗馬としてギョンスクを推す。
もちろん屋上で言い争いをした2人がすぐに手を組むはずがない。紆余曲折を経てウンソングループを倒すべく手を組むことになるのだが、ドヒの抜群のプロデュース力でギョンスクは華麗に変貌していく。
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無造作に後ろで束ねていた髪の毛はショートカットに、見栄えのするスーツに身を包んだギョンスクは見違えるほど美しくなる。「人は見た目じゃない」とはいうものの、変貌したギョンスクが熱く政治理念を訴えると、思わず耳を傾けてしまいたくなるのは不思議なものだ。
しかしドヒに言われるまま、言うことをきくギョンスクではない。体のラインをきれいにみせるため、ドヒに補正下着を着せられたギョンスクは、その窮屈さに耐えかねて生放送の番組中に下着を脱いでみせる。
突然のパフォーマンスにさすがのドヒも度肝を抜かれるのだが、計算することなく素のままの自分を出していくギョンスクに、ドヒは次第に信頼を寄せていくようになる。次第に2人の女性の間に生まれる友情が、物語のスパイスとなっていくのだ。
ウーマンパワーに押され「小者感」がいがめないジェミン
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2人のパワフルな女性がソウル市長選で戦う相手はジェミンだ。ウンソングループの会長であるソン・ヨンシム(ソ・イスク)によって、ソウル市長選に担ぎ出されるわけだが、この男の「小者感」が半端ない。
第1話で登場した時は、妻に虐げられ、ウン一族の婿養子として苦しい立場にいるかわいそうな男性なのかと思いきや、早くも第2話で化けの皮がはがれた。
ドヒに部下のイスルから脅されていると相談をしたジェミンだが、実際はジェミンがイスルを辱め、死に追いやった。その事実が分かったことでドヒはウンソングループを離れるのだが、その際ジェミンに対して「あなただけは許さない」と怒りをあらわにする。そんなドヒに対して「僕もウン一族の一人だ。室長、頼みますよ」と言い、ニヤリと笑う。
そんなジェミンも、少年時代に政治家だった父親が自殺をするという悲しい経験をしていた。父親の無念を晴らしたいという思いが彼の上昇志向のエネルギーとなっていたようだが、どうにも考えが浅はかで軟派な感じがして仕方がない。それが演じているリュ・スヨンの上手さでもあるのだが、選挙の手助けをするカール・ユン(イ・ギョンヨン)が、ジェミンを心の底から信用しきっていないのもうなずける。
ソウル市長選では、ジェミンが最後までギョンスクのライバルになるが、結局のところウン一族の駒として利用されるだけのジェミン。その存在感は、軽いままで終わってしまうのがなんとも皮肉なことだ。
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■筆者プロフィール
咲田真菜
舞台・映画・韓国ドラマの執筆を手掛けるフリーライター。映画『コーラスライン』でミュージカルに魅了され、あらゆる舞台を鑑賞。『冬のソナタ』で韓国ドラマにハマって以来見続け、その流れで韓国映画、韓国ミュージカルにも注目するようになる。好きなジャンルはラブコメ、ファンタジー、法廷もの。ドロドロした愛憎劇は苦手。好きな俳優はイ・ビョンホン、イ・ジョンジェ、ヒョンビン、キム・ドンウク、チャン・ギヨン。いつか字幕なしで鑑賞したいと韓国語を勉強中。