日本公式の作品紹介ページに載っているコピーは「きっと人生が愛しくなる、極上のラブストーリー!」であり、ポスターも癒し度抜群の雰囲気。それをなぜ危険だと感じたのか、その理由はのちほど明かすとして、まずは大まかなあらすじを紹介しよう。
(以下、ネタバレあり)
■筆者プロフィール
山根由佳
執筆・編集・校正・写真家のマネージャーなど何足もの草鞋を履くフリーライター。洋画・海外ドラマ・韓国ドラマの熱狂的ウォッチャー。観たい作品数に対して時間が圧倒的に足りないことが悩み。ホラー、コメディ、サスペンス、ヒューマンドラマが好き。
山根由佳
執筆・編集・校正・写真家のマネージャーなど何足もの草鞋を履くフリーライター。洋画・海外ドラマ・韓国ドラマの熱狂的ウォッチャー。観たい作品数に対して時間が圧倒的に足りないことが悩み。ホラー、コメディ、サスペンス、ヒューマンドラマが好き。
主人公は、出版会社に4年勤めているイ・ヨルム。上司からのパワハラ・モラハラに加え、先輩に手柄を取られるのが日常的で、要は世渡りが下手。それでも何とか真面目に生きていたが、大学時代から6年間交際している恋人に振られ、母を突如亡くし、孤独に。相変わらず会社では上手くいかず、家と会社を往復するだけの日々に辟易し、会社を辞め、バックパック一つだけで自然豊かな田舎町アンゴクへ。元ビリヤード場の空きビルを格安で借りることができたため、貯金が尽きるまで自由気ままに過ごすことを決意する。
いきなり都会からやってきた若者に対し、最初は良くない印象を抱く住民もいたが、ヨルムの人柄の良さが徐々に伝わり、彼女はアンゴクでの暮らしに馴染んでいく。
人生のストライキ!しずる感たっぷりの昼飲みシーンも魅力的なドラマ
最近、中学生の甥たちを見て感じるのが、人生で何もせずに過ごせる時期は、人によっては5歳ぐらいまでだけではないかと思ってしまう。もちろん一人ひとり異なるとは思うが、小学校に上がると習い事や塾が始まり、中学からは部活に受験勉強、大学ではアルバイトや就職活動、そして社会人になって会社中心の生活に…といった具合で、気がつくと様々な責任を背負い、目の前のやるべきことをこなすのに精一杯になってしまう方も少なくないのでは。
だからこそ、『なにもしたくない~立ち止まって、恋をして~』の1話・2話は、人々の共感を多く得られるはずだ。仕事で上手くいかない時はあるし、さらにプライベートでもどん底の出来事が発生するといった“泣きっ面に蜂”の時もある。何のために同じような日々を繰り返しているのか疑問に抱く時もある。そんな誰しもが経験しうる状況の主人公が、すべてを投げ出し、最低限の荷物と身体一つだけで田舎町でのニート生活を始める姿には、胸がすくと同時に憧れの気持ちを抱いてしまう。
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そんな羨ましい気持ちがさらに募ったのは4話、食堂で腸詰スープに舌鼓を打つ場面だ。ふと見渡すと、周りには昼飲みを楽しんでいるおじさんや年配者ばかり。そこでヨルムも「人目を気にせず生きよう」と、焼酎を注文。ご飯を入れて雑炊仕立てにしたアツアツの腸詰スープを食べた後、焼酎をぐいっと流し込み、顔をしかめながら「っあ~!」と言葉にならない喜びの吐息を漏らすのである。心の声は、「うまい。熱いスープと冷たい焼酎。最高の組み合わせ」。
美味しそうなのは言わずもがな、悩みごとゼロで昼飲みができる気持ち良さを疑似体験できる、何ともたまらないシーンだった。立ちこめるスープの湯気、じゅるっと音を立てて食べる姿には、思わず永○園のCMが頭をよぎり、本気でお腹も空いた。ちなみにそのシーンに登場する焼酎は本物だったようで、撮影中にはスタッフのお腹が鳴る音も聞こえていたらしい。
他にも、服のまま海に飛び込んだり、好きな時に映画や本を楽しんだり、成り行きで犬を飼うようになったり、早朝ジョギングをするようになったりと、自分の気持ちの赴くままに人生を謳歌するようになっていくヨルムの姿は、とても眩しい。
ここで最初の感想に戻るのだが、この作品が危険な理由は、自分の人生も投げ出したくなってしまうから、である。私は20代の頃、色々と挫折を味わっていた時期に同作を観ていたら、確実に影響されて同じような行動に移していたことだろう。なので、本作を観るのであれば、少し覚悟して臨んだ方が良いかもしれない。
“演技ドル”の2人、キム・ソリョン(元AOA)×イム・シワン(ZE:A)が初共演!
主人公ヨルムを演じたのは、元AOAで、ドラマ『昼と夜』などで知られるキム・ソリョン。覇気のない都会生活時代から一転、生き生きとその日暮らしを楽しむようになるヨルムを自然体で演じている。
韓国ドラマにおいて、メインキャラクターが酔っ払って珍騒動を起こすのは“あるある”の一つだが、本作のソリョンの酔っぱらい演技は白眉。まだアンゴクに馴染んでいない頃、ヨルムは昼飲みの後に酔っ払って図書館で深夜3時まで爆睡、やけ酒をして全財産紛失&顔面負傷するなど、お酒によって様々な失態をやらかすのだが、そのぐでんぐでんな姿があまりにもリアリティたっぷりで非常に愉快であった。
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ヨルムの行きつけとなるアンゴク図書館の司書アン・デボムを演じたのは、ソリョン同様アイドルからキャリアをスタートさせ、今や演技派俳優として活躍の幅を広げているイム・シワン(ドラマ『ミセン~未生~』など)。初対面では直接会話ができないほど極度の人見知りながら、ソリョンにはアンゴク初日から親切に接する、心優しい青年を慎まやかに演じている。
ここ最近、映画『非常宣言』『スマホを落としただけなのに』とサイコパス役の作品公開が続いていたシワンなので、その端正なルックスそのままの印象のキャラクターは久々。まるで子犬のようなふわふわヘアスタイルもお似合いであった。
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ヨルムの図書館仲間となり、互いに支え合うことになる高校生ボム役は、ドラマ『模範家族』での熱演が好評だったシン・ウンス。そんなボムを想う高校生ジェフン役は、今回が本格的なデビュー作となるパン・ジェミン。ちょっと生意気なウンスとムードメーカーなジェフンを、それぞれフレッシュな魅力たっぷりに演じている。
また、元ビリヤード場を所有する大家の息子ソンミン役のクァク・ミンギュと、デボムの同僚である図書館司書ジヨン役のパク・イェヨンは、ヨルムの移住を受け入れることに葛藤する、人間味のあるキャラクターを演じ、物語に深みをもたらせている。
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『なにもしたくない~立ち止まって、恋をして~』は16話まで配信中で、残り6話は6月2日より配信が始まる。時たま不穏な空気が流れていたヨルムとデボムの周辺が、どのように解決していくのか。また、2人は友人以上の関係へと進んでいくのか。作品全体に流れるゆるりとしたムードはそのままで、どうかハッピーエンドを迎えてほしいと願っている。
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