オフィスの第一目的は“人が集まる場所”
リクルートでは2010年代後半からテレワークやフリーアドレスを導入しており、新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年には、週5日の完全テレワークにもある程度順応できる状態にあったという。2021年には組織再編を行い、翌年には都内に23か所あった拠点を3か所に統合。その中でも最大規模となっているのが、丸ノ内のグラントウキョウサウスタワーにある本社オフィスだ。
現在、リクルートは同建物の計21フロアに入居しており、執務フロアの席数は約5000席。部署単位で利用するフロアを固定するゾーンフリーアドレス制を導入しており、約1万2000人の従業員が在籍している。
今回のオフィス統合にあたり、リクルートではテレワーク時代のワークプレイスの在り方として、「CO-EN」というコンセプトを打ち出した。これは、“公園”と“Co-Encounter(出会い)”というダブルミーニングから付けられたもの。オフィスの役割を“人が集い、リアルコミュニケーションが生まれる場所”と捉え、フロアのリニューアルを行っている。
これには、リクルートが長年培ってきた、リモートワークの経験が活かされている。同社では現在、全国に84か所の拠点があるが、オフィスへの出社率は平均すると38%。社員はオフィスやサテライトオフィス、自宅で働くかを自由に選べるため、出社日数はあまり多くない。その中で出社した社員は、主に会議やビデオ会議を行い、残った時間を使って自宅で行っていた仕事(デスクワーク)を片付けているケースが多いようだ。
“おなかでつながる”コミュニケーションを生み出す
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オフィスの主要な用途を「リアルコミュニケーション」と定めたことから、リクルートでは執務フロアとは独立させた“CO-EN”フロアを、2つの階に設置。そのうち小~中規模での交流を想定して作られているのが、22階の“CO-EN”フロアだ。ここには、以下の6つのスペースが用意されており、スタッフ間の交流や、小~中規模のイベントに利用されている。
・セミナールーム
・ラウンジ
・パーゴラ
・テンポラリー
・ダイニング
・カフェ
その中心的な役割を果たしているのが、“おなかでつながる”をコンセプトとした「ダイニング」だ。席数は325席。定食や丼物、麺料理を毎日日替わりで提供しているが、そのメニューは会社支給のスマホで確認することができ、中にはその日の定食を目当てに出社する社員もいるという。
同社の広報によると、ダイニングは今回のリニューアルでは特に力が入れられており、「社員食堂のイメージを超えた空間にしたい」という思いが込められている。具体的には毎朝昆布とかつおで出汁を取り、かまどでご飯を炊いて、熱々の鉄板料理を提供するなど……、その食事メニューはかなり本格的だ。一日を通して700~800食が提供されているとのことで、その利用率はかなり高い。取引先との打ち合わせが終わったら、そのまま一緒に食事を楽しむ社員もいるようだが、このダイニングを見れば思わず連れて行きたくなるのも納得だ。
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その他、ダイニングの一角に配置されている「パーゴラ」、ひとつながりになっている「ラウンジ」は、どちらも壁のない開放的な空間となっており、活発なコミュニケーションを生み出すことを目的としている。特に、パーゴラはラウンジから食事を持ち込むことができ、席の予約もできることから、ランチミーティングに使われることもあるとのこと。リクルートでは会社の福利厚生の一環として部活動が行われているが、その活動の場にもなっているようだ。
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さらに、このフロアには「カフェ」も用意されており、社員同士がちょっとしたコミュニケーションを行う場所として利用されている。小川珈琲の豆を使った本格志向のコーヒーを提供するほか、ドーナツやピザ、珍しいところではジェラートの常設販売も実施。17時以降はアルコールの販売も行っているが、帰宅前に社員同士がちょい飲みしている姿も見られるようだ。
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カフェに隣接する「テンポラリー」は展示スペースで、こちらは組織を超えた出会い・集まりを生み出すために用意されたもの。関連企業のプロダクトを展示するなど、テストマーケティングに利用されることもあるようだ。
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ちなみに、同フロアにはセミナールームも用意されているが、片側の壁面を開放することで、ラウンジと地続きになる。そのため、参加者の交流スペースとしても、ラウンジやダイニングが利用できる。
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“CO-EN”フロアに人が集い、コミュニケーションが生まれる
一方、建物内に用意されたもう一つの“CO-EN”フロアには、大規模なイベントに対応できるスペースを用意。41階と眺めの良い場所にあることから、普段は社員一人一人がリフレッシュするために立ち寄る場所としても機能しているという。
その他の執務フロアには、階ごとに会議室や“小CO-EN”と呼ぶスペースを用意して、社の内外を含めた異なる組織の人たちが集う場所としている。ただ、リニューアルから10カ月が経ったが、会議室のサイズ感については改良の余地を感じているようだ。議題を一方的に伝えるようなミーティングについては、「リアルで集まる必要性を感じなくなっている」とのことで、今後はより小規模な会議室の需要が高まっていくのかもしれない。
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リクルートではパソコンや入館管理のログを取り、勤怠管理を社員自ら申請する形となっているが、彼ら一人一人が「どこにいるか?」を管理するような仕組みにはなっていない。例えば、広報部では出社時に「今日は〇〇にいます」とグループメールを送るルールがあるようだが、何か全社を通じて運用しているシステムやルールは存在しないという。これについては、「管理されるのを嫌う従業員も多いし、彼らが喜ばないものは浸透しない」とのことで、ゾーンフリーアドレス制を導入しているのも、そのあたりに理由がありそうだ。
その一方で、リクルートではコロナ禍における規制が緩和されていく中、徐々に人が集まる空間へのニーズが高まっていったという。そこで新たに用意されたのが、今回のリニューアルで登場した“CO-EN”フロアというわけだ。ダイニングやラウンジを1つのフロアに集約することで、自然と人が集まり、さらに人を呼んで集まるランドマークとしても機能している。
人の流れを誘導し、滞在時間を増やすための満足度を高めるような仕掛けを施すことで、社内のコミュニケーションを活発化させる“CO-EN”フロア。テレワークによって、同じ部署でも出社する日がバラバラになりつつあるが、こうしたスペースがあれば、社員が顔を合わせてコミュニケーションを取る時間は増えるかもしれない。