そして、早く結末を知りたいと予定より早めに完走したにも関わらず、いざ終わるととてつもない喪失感に襲われ、「記憶を消してもう一度その作品を堪能したい」とか無駄な考えを巡らせたりする。
さて、何を伝えたいのかと言うと、久々にそんな気持ちで図らずも一気見してしまったドラマがある。台湾のヒットドラマ『時をかける愛』をリメイクした韓国ドラマ『いつかの君に』だ。今回は本作について紹介したいと思う。
(以下、軽いネタバレあり)
目次:
・あらすじ
・登場人物&キャスト
・見どころ
・ネットでの反応
■筆者プロフィール
山根由佳
編集者・校正士・写真家のマネージャーなど複数の草鞋を履くフリーライター。洋画・海外ドラマ・韓国ドラマの熱狂的ウォッチャー。観たい作品数に対して時間が圧倒的に足りないことが悩み。ホラー、コメディ、サスペンス、ヒューマンドラマが好き。X(Twitter):@ymndayo
山根由佳
編集者・校正士・写真家のマネージャーなど複数の草鞋を履くフリーライター。洋画・海外ドラマ・韓国ドラマの熱狂的ウォッチャー。観たい作品数に対して時間が圧倒的に足りないことが悩み。ホラー、コメディ、サスペンス、ヒューマンドラマが好き。X(Twitter):@ymndayo
あらすじ
“恋人の死を乗り越えられない女性が目覚めると、そこは1998年の世界。しかも目の前には、亡くなった恋人と同じ顔の青年がいて...。”(出典:Netflix)
登場人物&キャスト
ハン・ジュニ/クォン・ミンジュ役:チョン・ヨピン
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長年の恋人ク・ヨンジュンの死を受け入れられず、虚無な日々を過ごす会社員。しかし、36歳の誕生日前後。「27レコード」というお店を背景に自身とヨンジュンと知らない人物が写る身に覚えのない写真がSNSの捨てアカウントから届き、謎のカセットプレーヤーとテープが職場に贈られてくる。そのプレーヤーを再生して眠りに落ちると、1998年へタイムスリップ。自身と同じ見た目の高校生ミンジュになってしまう。内気だったミンジュが急に社交的な性格になったことで、彼女を取り巻く人間関係が変わり、それはジュニとヨンジュンの未来にも影響を及ぼしてゆく。
ジュニとミンジュを演じたのは、ドラマ『ヴィンチェンツォ』や映画『楽園の夜』など、独自の存在感で人気上昇中のチョン・ヨピン。その確かな演技力で、年齢や性格など中身の全く異なる一人二役を演じ切っている。
ク・ヨンジュン/ナム・シホン役:アン・ヒョソプ
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仕事で海外支社へ転勤したジュニを追って飛行機事故で亡くなった恋人。ジュニがタイムスリップした1998年には、彼と瓜二つのナム・シホンが存在していた。ミンジュはシホンに片思いをしてフラれていたが、彼女の中身がジュニになったことで、シホンはミンジュに惹かれるように。また、2023年にもヨンジュン/シホンと同じ見た目の人物がいるが、その正体は物語が進むにつれて明らかになっていく。
ヨンジュンとシホンを演じたのは、ドラマ『浪漫ドクター キム・サブ』シリーズや『社内お見合い』などロマンス演技で定評あるアン・ヒョソプ。愛に翻弄されるキャラクターはまさに適任だった。
チョン・インギュ役:カン・フン
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1998年、ミンジュとシホンの同級生だった人物。ミンジュに想いを寄せるが、途中でミンジュの中身がジュニになったたこともあり、親友シホンと三角関係に。ジュニが予知したミンジュに起こる出来事を食い止めるべく、シホンと共に協力するが、逆にその事件の当事者として巻き込まれていってしまう。
インギュ役は、『袖先赤いクットン』でブレイクしたカン・フン。人気者シホンとは対照的な影のある雰囲気で、ドラマを盛り上げていた。
ペ・チウォン役:パク・ヒョックォン
1998年にレコード屋「27レコード」を経営していたミンジュの叔父。当時高校生だったミンジュをアルバイトで雇っていたことで、友人として遊びに来るシホンとインギュとも交流ができ、3人組の写真を店先で撮影したこともある。レコード屋を店じまいした後、2023年に「カフェ27」を経営。例の写真の謎を追って訪ねてきたジュニを手伝うようになる。
演じたパク・ヒョックォンは、最近ではドラマ『ヒップタッチの女王』の胡散臭い霊媒師役で笑いを誘っている名バイプレーヤー。本作では主人公たちにとってのキーパーソンを好演している。
見どころ
1. 思わずメモして状況を整理したくなる物語
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時々、現実世界においてもタイムトラベラーとされる人物が登場し、その真偽が話題になることもあるからか、映画やドラマ作品においてタイムトラベルは人気テーマの一つだ。しかし、タイムトラベルものと一口で言っても、どの時代からどの時代へ飛ぶか、肉体だけなのか精神だけなのか、肉体は同じか全く異なるか、など様々な設定がある。その点で、本作はどちらかと言うと難解なタイプの作品だと思う。
2023年時点で36歳だった主人公ジュニが、24年前の1999年、自分の見た目と同じだが全くの別人格の体にタイムトラベルする。つまり、1999年のある時点において、12歳のジュニと36歳のジュニ(社会的にはミンジュ)が存在することになる。そして、シホンとヨンジュンと同じ顔をした謎の人物の正体が、“あの時の彼は、どの時代の誰(中身は誰で社会的に誰)なのか”と混乱に陥れる。そこへ追い討ちをかけるのが、1999年にミンジュに起こる出来事の真犯人探しである。
本作は、世代間に渡る不思議を描いたドラマ『ダーク』や、明晰夢を駆使して任務に挑む映画『インセプション』のように、パズルを解くような体験をしたい方にオススメだ。
2. 主演2人のロマンスケミストリー
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チョン・ヨピンとアン・ヒョソプの組み合わせが発表された際にはあまりピンと来なかったのだが、蓋を開けてみると相性抜群。ヨピンはどうしても『ヴィンチェンツォ』のイメージが強いからか、仕事をバリバリとこなす役柄が似合う。そんな彼女が恋人の死だけはどうしても受け入れられず、あえて職場で陽気に振る舞う姿や、ヨンジュン姉に声をかけられても感情を押し殺して淡々と話そうとする姿がなかなかリアルで、早速もらい泣き。
その後のヨンジュンとの回想シーンも愛に溢れており、1話目にしてすっかりジュニに感情移入してしまった。そして、2人が捻れる運命に翻弄されながらお互いを求め合う姿に、感情が大きく揺さぶられていく。
ヒョソプの演じた、モテモテの人気男子校生、恋人を一途に想う木工職人、脚が悪く身なりもボサボサの謎の人物も、三者三様に見た目・言動共にとても魅力的だった。
3. 感性に訴えかける美しい画作り
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本作は、3~4月頃に撮影を始め、12月末に撮影終了。満開の夜桜、白シャツが映える新緑、秋晴れの海岸沿い、ちらつく雪など、春夏秋冬の美しい情景が、よりエモーショナルな気持ちを高めてくれる。
また、同じく90年代を舞台にした映画『20世紀のキミ』、ドラマ『二十五、二十一』を彷彿とさせる、青と緑を効かせて鮮やかな色味で整えた映像が青春劇をよりドラマチックに仕立てている。ちなみに、「27レコード」の舞台となった店は、『二十五、二十一』に登場した貸本屋のお向かいさんだそう。
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4. 原作との違い
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筆者は本作の後に台湾版を見たのだが、物語の大筋は同じでありつつも細部は異なっており、その違いの比較も楽しめた。韓国版はより情報量を絞って、主人公2人(4人)の出会いのエピソードなども短縮・変更されており、それがラストにも影響していると考えられる。
その他、同性愛者の登場人物にまつわる展開や、ある事件に関与する人物の正体などは、台湾版と韓国版で大きく異なる。韓国メディアの記事を読む限り、これらの改変について韓国の原作ファンからは賛否両論のようだ。
ネットでの反応
『時をかける愛』自体が2019年公開とけっこう前なので、SNSを見る限りすでに物語を知っている上で韓国版を視聴した人も多い様子。「原作の神がかった演出は越えられていない」「原作同様に楽しめた」「複雑な箇所をより理解することができた」とやはり日本でも原作ファンからの意見はまちまち。
一方、初見で視聴した人たちからは軒並み高評価。主演2人の演技やノスタルジック感溢れる演出が絶賛されている。