韓国ドラマ『涙の女王』キム・ジウォン演じるヘインは、なぜ私たちを虜にするのか? | RBB TODAY

韓国ドラマ『涙の女王』キム・ジウォン演じるヘインは、なぜ私たちを虜にするのか?

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 4月8日、“韓国のゴールデングローブ賞”と称される「百想芸術大賞」が今年の候補作品と俳優を発表。テレビ部門の最優秀演技賞(男性)に『涙の女王』主演キム・スヒョンがノミネートされたのに対し、同作でW主演を務めたキム・ジウォンが最優秀演技賞(女性)候補から外れて議論が巻き起こっている。筆者はここ毎週、『涙の女王』に激しく感情を揺さぶられてばかりだが、それはスヒョンとジウォン、2人の卓越した演技の相乗効果によるものが大きい。そのため、私もこの結果に疑問を感じている方だ。今回の記事では、ジウォンのこれまでの歩みを振り返りつつ、『涙の女王』での彼女の演技はなぜ特別なのか、紐解いていきたいと思う。

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 1992年生まれのジウォンが芸能界入りしたのは、2007年。路上でスカウトされて当初の事務所に入り、3年間デビューの準備をしながら、演技やボーカルトレーニング、ダンス、日本語など様々なスキルを磨いていった。2008年、同じ事務所だった先輩歌手のキーボード兼コーラス担当としてMVや音楽番組に出演しているが、正式デビューは2010年、BIG BANGと共演した携帯電話のCM。お茶の間に広く知れ渡ったのは、その後に出演した東亜「オランシー」のCMだという。ギターで弾き語りする女学生で登場した後、ローラープレートを楽しむ女性、本に夢中の女性、音楽にノリノリの女性、そして最後にヘソ出しルックで踊る女性、と様々な姿を披露しており、甘く透き通る歌声と可愛らしい笑顔が破壊力抜群。きっと日本人にとってのガッキー(新垣結衣)のポッキーCM並みの衝撃だったことだろう。

 デビュー前にドラマ『ミセス・サイゴン』に出演しているが、本格的な俳優デビューは2011年のヒューマンドラマ系映画『ロマンティックヘブン』。以降、シットコムドラマ『ハイキック3 -短足の逆襲-』、ミュージカルドラマ『WHAT'S UP』、青春ラブコメドラマ『花ざかりの君たちへ』にメインキャストの1人として出演し、順調にキャリアを重ねていく。「オランシー」のCMに通じる快活なキャラクターが続いていたが、2013年、彼女自身もターニングポイントとして挙げるドラマ『相続者たち』で人生初の悪役に。本作は、貧困家庭出身の主人公ウンサンと御曹司タンによる格差恋愛を描いた作品で、ジウォンが演じたのは、タンの婚約者ラヘル。ぱっつん前髪の黒ロングヘアというお人形のようなビジュアルで、ワガママな財閥令嬢を完璧にこなしていた。母の再婚相手が気に入らなければ、親に反抗。主役カップルが相思相愛だと分かっても、「経営者同士の契約(親が決めた婚約)に無関係の貧乏人が首を突っ込むな」と、ウンサンをいじめまくる。思春期特有のトゲトゲしさを併せ持つ、嫉妬心を上手く消化できない不器用なキャラクターで、ドラマの盛り上げに一役買っていた。

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 役者道がさらに花開いたのは、2016年。社会現象になるほどヒットしたドラマ『太陽の末裔』のミョンジュ役だ。本作は、紛争地帯で任務に全うする軍人たちと医師たちが繰り広げるヒューマンメロドラマ。メインカップルは、ソン・ジュンギ演じる大尉シジンとソン・ヘギョ演じる外科医モヨンなのだが、それに負けず劣らず素晴らしいケミストリーを生み出していたのが、チン・グ演じる上士デヨンとジウォン演じる軍医ミョンジュのサブカップルだ。ミョンジュは将官の一人娘としてエリートコースを歩んできており、彼女の下士官にあたるデヨンとの恋愛を父親から反対されている。上下関係や義理などを大切にするデヨンは身を引こうとするが、ミョンジュは決して諦めない。父が職権乱用して2人を離れ離れにしても、どこまでも追いかけていく。複雑な駆け引きなどせず、自分の気持ちをストレートに伝え、愛を勝ち取る。その堂々たる振る舞いが、かっこよくて美しかった。ジウォンは本作で「第5回アジア太平洋スターアワード」最優秀助演女優賞、「第1回アジアアーティストアワード」ドラマ女子部門ベストセレブリティ賞、「KBS演技大賞」の新人賞、ベストカップル賞、ミニシリーズ部門女性優秀演技賞を受賞している。

 そして2017年、夢を諦めた幼馴染のアラサー男女が再び夢を目指しながら恋仲になっていくサクセスストーリー『サム、マイウェイ~恋の一発逆転!』で、遂にメインカップルを務める。元テコンドー選手のドンマン役はパク・ソジュン(『梨泰院クラス』など)、アナウンサー志望のエラ役はジェウォン。明るく元気で親しみやすい、愛嬌たっぷりなキャラクターをコミカルに演じていた。2019年の古代ファンタジードラマ『アスダル年代記』では、霊能力者タニャ役を熱演。平和なコミュニティで暮らしていたタニャは、氏族同士の争いなどに巻き込まれるうち、純粋さを失い権力に目覚めていく。ジェウォンは、あどけない少女が国民の母になっていく成長過程を体当たりで演じている。



 2020年のラブコメドラマ『都会の男女の恋愛法』では、海の家で自由気ままに暮らす天真爛漫な女性として登場。しかし、話が進むにつれて“ワケアリ”な人物であることが分かっていく、どこか影を感じさせる役柄だった。そして、その時の奥行きを感じさせる演技が、2022年の『私の解放日誌』に繋がっていったと思う。『私の解放日誌』の主人公は、ソウル郊外で両親と同居する長女ギジョン(イ・エル)、長男チャンヒ(イ・ミンギ)、次女ミジョン(ジェウォン)。彼らはあらゆる不満を抱えながらも、代わり映えせぬ毎日をただひたすら消化しており、どこか閉鎖感を感じている。

 ギジョンとチャンヒは喋ることでストレスを発散するが、対照的なのがミジョン。職場では同僚に馴染めずパワハラ上司のストレス発散先となり、元恋人の借金返済に追われているが、誰にも心の内を話せない。このまま何も起こらず死んでいってしまうことを恐れていたが、父の農作業を手伝うアルコール中毒の男ク氏(ソン・ソック)の存在に目を付け、現状打破への第一歩を踏み出す。この作品で、ジウォンは自身の煌めきを一切消し去っている。「あらゆる人間関係が労働」、「何も起こらないし誰も愛してくれない」。覇気のない表情や鬱々としたナレーションで、人生に疲弊した地味な会社員の切羽詰まっている感覚や、そこから自分解放のために歩み出し瞳に力が宿っていく様を繊細に表していた。



 こうして『私の解放日誌』で円熟味を増したジウォンが次に選んだのが、『涙の女王』である。『相続者』以来11年ぶりの財閥令嬢役だが、今回は単なるワガママなお嬢様ではない。才色兼備の自負があり、社長業で着実に結果を出してきた自信もあり、今後も成功を収めるための意欲も携えた、隙のない“女王”である。ジウォン演じるヘインはとにかく負けん気の強い人物だが、実は夫ヒョヌ(キム・スヒョン)のことを心の底から愛している。プライドの高さ故にツンケンした態度をとって誤解を招いてしまうが、ヒョヌに優しくされると後に一人はにかんでいたり、家族の口撃から実はヒョヌを庇っていたりと、時折見せる彼女なりの愛情表現が愛おしい。あらゆる衣装やジュエリーをバシッと着こなせるほど美しさに磨きがかかっている分、そのギャップがたまらないのだ。

 また、ヘインは単なるツンデレキャラに留まらない。家族の死にまつわる悲しい経験も重ね、彼女なりの理由から相手に冷たく接していたりもする。完璧に見えて実は脆い、そんな彼女の感情変化などを、ジウォンは細やかに表現。特に“目元”の演技は、職人芸の域に達している。戦闘モードになると誰にも感情を悟られぬよう冷酷な目つきになるが、ヒョヌとの会話では、目を潤ませる、目の周りを赤くする、一筋だけ涙を流す、泣き出しそうな顔で泣くのを堪える、など様々。わりと使い古されてきた、悲劇も抱えるツンデレ財閥令嬢という設定に深みをもたらしており、だからこそ私たちは彼女に夢中になり、より物語に没入してしまうのだろう。

■筆者プロフィール
山根由佳
編集者・写真家のマネージャーなど複数の草鞋を履くフリーライターであり、海外ドラマ&映画の熱狂的ウォッチャー。観たい作品数に対して時間が圧倒的に足りないことが悩み。ホラー、コメディ、サスペンス、ヒューマンドラマが好き。X(Twitter):@ymndayo

《山根由佳》

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