サッカー韓国代表を北中米W杯本大会出場に導いた洪明甫(ホン・ミョンボ)監督が、本紙『スポーツソウル』の単独インタビューに応じた。
「私のサッカー人生で最も重い時間だった。言葉より覚悟で示したい」
忍耐の9カ月だった。「心中有心」の思いで、常に心を整えてきた。
サッカー韓国代表の洪監督は就任前から予期せぬ逆風にさらされながらも、指導者として2度目のワールドカップ本大会出場に成功した。洪監督は『スポーツソウル』創刊40周年(1985年6月22日創刊)インタビューで「韓国サッカーがまだ到達していない地点に向かわなければならない。海外開催大会でのベスト16(2010年南アフリカ大会・2022年カタール大会)は2度達成したので、それ以上を目指して走る」と語り、2026年北中米W杯での目標を掲げた。



無敗で本大会進出、「ブーイング」との戦い
洪明甫監督体制の韓国代表は、北中米W杯アジア最終予選B組で無敗(6勝4分)の1位となり本大会出場を決めた。これにより、韓国サッカーは11大会連続12回目のW杯出場を果たすこととなった。
ただ、洪監督はW杯予選期間中、建設的な批判よりも多くの誹謗にさらされた。
昨年、韓国サッカー協会(KFA)はさまざまな混乱で物議を醸した。ユルゲン・クリンスマン前監督を解任した後も、新たなA代表監督選定における不透明な手続きをめぐり非難を浴びた。最終的に就任した洪監督にも、その矛先は向けられた。


韓国政府の文化体育観光部は昨年10月、洪監督の選任過程に対する監査結果を発表し、洪監督本人が選任に関与したり特別待遇を受けたりした事実はなかったことを発表した。
また、KFAの戦力強化委員会が最後の10回目の会議後、外国人候補者との追加面接を行わず、1位に選出された洪監督をそのまま任命していれば、問題は生じなかったとした。つまり、洪監督を“騒動の被害者”と示したわけだ。
にもかかわらず、一部の人々はKFAと洪監督を結び付け、否定的な世論を扇動した。情報が選択的に露出されやすい現代のメディア環境において、洪監督をめぐるフェイクニュースに触れ、非難の隊列に加わる人々も少なくなかった。
では、なぜ洪監督は沈黙を守ってきたのか。彼は「世の中が私の置かれた立場を見て、話を聞こうという雰囲気ではなかった。悔しくても『違う』という言うことは難しかった」と語る。そして「もし私に監督の資格がなければ、自ら退いただろう。だが、私は戦力強化委員会から1位で選ばれ、正式に提案を受けた。悩んだ末に決断しただけだ」と明かした。
一部のファンやイ・ガンインなど代表の主力選手たちは、直接的あるいは間接的に洪監督を支持・擁護する立場を示した。洪監督は「ありがたくて、申し訳ない気持ちしかない」とし、「自分が何に集中すべきかが明確になった。自分の性格上、言葉より行動を重視する。冷静になり、代表チームをどう発展させるかだけに集中するようになった」と振り返った。

「蔚山HDファンは私を非難する資格がある」
一部世論の心無い非難を甘受する洪監督だが、彼が心から申し訳ない気持ちを抱いているのは蔚山(ウルサン)HD FCのファンだ。
昨年、KFAはクリンスマン前監督体制で出場したアジアカップ期間に発生した代表内の内紛、先発固定によるチーム内競争の弱化などを問題視した。新監督選任にあたっては、内部文化を正し、新たな競争力をもたらせる韓国の指導者を優先視していた。世代別からA代表までの監督経験を持ち、当時Kリーグ1で蔚山を2連覇に導いていた洪監督が最有力候補となったのは自然な成り行きだった。
だが、KFAの不透明な選任過程の中で、洪監督は蔚山残留の意志を見せていた。それでも、長期ビジョンを掲げたKFAの説得に最後は背を向けられなかった。指導者キャリアで唯一の“汚点”となってしまった2014年ブラジルW杯の失敗を挽回したいという思いも湧き上がっていた。
一方で、蔚山ファンとしては突然指揮官を失う形となっただけに、失望は大きかった。洪監督は「私を非難する資格がある人は蔚山のファンだけだと思う。今も本当に申し訳なく思っている。蔚山は指導者人生で最も幸せでインパクトのある時間を過ごした場所だっただけに、心が痛い」と語った。



「コモン・ゴール」で北中米W杯へ
自分自身に没頭した時間の中で、それなりに意味のある成果も出した。
W杯最終予選では、「ブーイング」に満ちていた昨年9月のパレスチナ戦こそスコアレスドローに終わったものの、その後は中東アウェイ含め4連勝を飾り、本大会早期出場への足掛かりを築いた。この過程で洪監督はペ・ジュンホ(ストーク)やオ・ヒョンギュ(ヘンク)など若手欧州組を積極的に起用し、未来志向の戦力強化に着手した。最終予選10試合で交代選手が計9得点に関与(7得点2アシスト)するなど、実利的な選手起用で円熟した指導力も見せた。
洪監督は「初戦のパレスチナ戦後、次のオマーン遠征で選手たちがどの選手と一緒に食事をしているかなどを観察したことがあるが、チームが分かれていることを直感した。その時から新しい若手を使おうと決めた」と語る。そして、「昨年10月にペ・ジュンホやオ・ヒョンギュらが活躍し、チームの方向性が明確になった。代表入りと主力争いへの意欲が再び生まれた」と振り返った。
とはいえ、中盤3列目の不安やW杯本大会で活躍を期待できるストライカーの確保など、課題は多い。洪監督は「2014年ブラジル大会では、本大会を1年後に控えたタイミングで指揮を引き受けた。当時は選手の把握が難しかった。だが、今はKリーグの監督も務めたことで、主要な選手の長所や短所を把握している」と自信を示す。そして「本大会直前は欧州組のコンディションが不透明だ。北中米地域の酷暑もあり、体力勝負を予感させる。だからこそ(本大会直前の)コンディションが良く、上手くプレーできる選手を選ぶ必要がある」と語った。

最後に、韓国代表としての使命感を強調した。
洪監督は「代表は短期間で集まり準備するため、完璧なコンディションや戦術を整えるのは難しい。だからこそ重要なのは“コモン・ゴール(共通の目標)”だ。自分たちで目指す方向性を見つけること」とし、「昔は精神力や愛国心を強調したが、今は時代が変わった」と話す。
さらに、「私は立場を変えて考える。選手には『我々を支えるスタッフや協会職員、食事を作ってくれる方々を家族だと思ってみてほしい』と言っている。我々もプロとして、国家代表としての使命感を持ち、責任を果たさねばならない」と呼び掛けた。

“マネージャー型指導者”として生まれ変わった洪監督は、史上最も個性豊かな韓国代表の“ワンチーム”を目指し、北中米W杯を見据える。「指導者人生最後の挑戦」を宣言した彼が、あらゆる逆風を乗り越えて最後に笑うことができるかを見守りたい。
(構成=ピッチコミュニケーションズ)
Copyright @ 2018 Sportsseoul JAPAN All rights reserved.
■【あわせて読みたい】洪明甫監督単独インタビュー「常に挑戦は避けない」