韓国での公開を目前に控えた映画『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』。その公開を記念して、主人公の炭治郎と妹・禰豆子の衣装を着た始球式がプロ野球で予定されていたが、中止となった。
反対の声があまりに多かったからだ。
予定されていたのは、8月9日に韓国ソウルの蚕室(チャムシル)野球場で行われるKBOリーグのLGツインズとハンファ・イーグルスとの試合だった。
先立ってホームのLGツインズは、「若者世代に親しまれているアニメ『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』の主人公・炭治郎と禰豆子が始球式・始打式に登場する」とメディアに知らせていた。

しかし8月7日、一転してLGツインズ側は「9日の始球式の予定はキャンセルされた」と明らかにした。修正された内容には、新たな始球式の人物についての案内は含まれていない。
「何を考えてるのか」
『鬼滅の刃』は韓国でも一定の人気を獲得しており、2021年1月に公開された映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、観客動員数222万人を記録している。同年5月26日時点では「2021年に韓国で公開された映画」のなかで最多観客動員数だった。
そんな人気コンテンツの最新映画の公開を記念して球団側が企画した今回の始球式だが、問題視されたのはそのタイミングだった。
『鬼滅の刃』始球式が予定された8月9日は、「光復節」(8月15日)の直前といえる。この日は、「韓国が日本の植民地支配から解放された日」にあたり、韓国にとっては独立を象徴する重要な日だ。
つまり光復節を目前にして、着物姿で始球式が行われるのは「不適切」という批判だった。実際、SNSやオンライン上では「光復節を前に何を考えてるのか」「ただの日本アニメではなく右翼アニメとか最悪」「極右アニメのキャラまでマウンドに立たせるのか」といった不満の声が相次いだ。
そもそも『鬼滅の刃』は、放送初期から韓国で「右翼的だ」という批判が一部で出ていた。炭治郎がつけている耳飾りのデザインが旭日旗に似ているとの指摘があり、実際に韓国版ではデザインが変更されているのが現状だ。

また、作品の時代背景が日本帝国の膨張期である大正時代であることから、「帝国主義を美化している」との見方もあった。
今ではそういった誤解の多くが解けており、新たに公開される『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』の前売りチケットも好調だというが、やはり「8月15日」の前後に日本の色が強いコンテンツは受け入れられないようだ。
炭治郎と禰豆子の始球式は幻となったが、『鬼滅の刃』への関心は依然として高い。タイミングと文脈が重視される韓国において、日本発コンテンツがどう受け止められていくのか、今後も注目される。
韓国で『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』は、光復節のちょうど1週間後、8月22日に公開される。
(文=スポーツソウル日本版編集部)