本作は、韓国大手の法律事務所・ユルリムを舞台に、さまざまな「愛」をテーマに繰り広げられるリーガルドラマだ。
『イカゲーム』シリーズ2・3での演技が記憶に新しいイ・ジヌクが、クールで実力のあるパートナー弁護士ユン・ソクフンを演じ、新米弁護士のカン・ヒョミンを『ゴールデンスプーン』で正義感あふれる財閥令嬢を演じたチョン・チェヨンが務める。 基本的に1話完結型だが、ソクフンとヒョミンが抱える心の傷やユルリムに所属する弁護士たちの人生ドラマが随所に盛り込まれている。本作の見どころについて紹介したい。
(以下、物語の内容にふれるネタバレあり)
■筆者プロフィール
咲田真菜
大学卒業後、国家公務員、一般企業の会社員として勤務後フリーライターに転身。『冬のソナタ』で韓国ドラマにハマって以来、視聴し続けている。好きなジャンルはラブコメ、ファンタジー、法廷もの。ドロドロした愛憎劇はちょっと苦手。いつか字幕なしで鑑賞したいと韓国語を勉強中。
今を生きる私たちに刺さる題材が盛りだくさん
法とは何か。この問題を理解するために第1話で興味深い話が展開される。韓国大手の弁護士事務所・ユルリムの入所試験を受けるカン・ヒョミン(チョン・チェヨン)たち。先輩弁護士にさまざまな事例に対する法的見解を問われ、ディスカッションするシーンが面白い。
例えば、100人を乗せた電車の目の前に大きな岩が立ちはだかっていた。まっすぐ進めばぶつかり大惨事になる。そこで運転手はレバーを切って支線に入り、1人の作業員を轢いて死なせてしまった。この運転手に殺人罪は成立するか…という問題だ。 いわゆる「トロッコ問題」としても有名な話だが、ヒョミンは「殺人罪は成立します。運転手は作業員を轢くことが分かっていながらレバーを切ったのだから、殺人罪の要件を満たします」と冷静に答える。「100人を救ったのに罪に問われるのか?」とのツッコミにもひるまず「殺人罪は成立するか…という質問をされたから、成立すると答えたんです」と切り返す。

ヒョミンが持つリーガルセンスと度胸に注目するのが、ユルリムのエース弁護士のソクフンだ。笑顔を見せず冷静沈着なソクフンは、部下からとっつきにくいと怖がられている。しかし依頼人には「法律に縛られずに助けます。必要であればリングの外でも戦います」と言ってのける熱い人間だ。

そんな2人の目の前に立ちはだかるのは、社会で問題となっている事例だ。子どもへの虐待、いじめの被害者が起こした犯罪はこれまでのリーガルドラマでも扱われてきたが、病院に預けた精子を失い自暴自棄になった男性、認知症の妻の尊厳死を実行した夫を弁護するなど、本作では興味深い事例が盛りだくさんだ。

ドラマだと分かっていながらも、ヒョミンとソクフンが手掛ける事件を通じて、今を生きる人たちの生きづらさを実感する人も多いだろう。このドラマで描かれている事例にはリアリティーがあり、他人事とは思えないものがある。
「愛」をテーマに弁護士たちの人生ドラマも描く
このドラマのテーマになっているのが「愛」だ。ヒョミンはユルリムに入所後、みんなが嫌がる訴訟部を希望した理由について「人はそれぞれ異なる愛し方をします。異性愛、同性愛、母性愛、無性愛、兄弟愛、友情人類愛、自己愛…。その中で傷つき、最後の手段として法に頼り、幸せになれると信じている。そんな彼らの力になりたい」と語っている。 最初は時間にルーズでまわりがあまり見えていないヒョミンに良い感情を抱いていなかったソクフンだが、この言葉には共感し彼女を受け入れた。

ヒョミンとソクフンも「愛」について悩みを持つ人物だった。裁判官の父親と大学教授の母親を持つヒョミンは、生まれつき聴覚障害を持つ双子の姉がいた。姉を養子に出した母親に対し、世間体を気にして姉に対して愛がなかったから追い出したのだ…とヒョミンは反感の気持ちを持っていた。
ソクフンには離婚した妻がいた。妻と愛犬と仲睦まじく暮らしていたが、妻が何の相談もなく子どもを中絶したことにショックを受ける。そんな彼女を許せずに離婚し、心は沈んだままだった。
しかしさまざまな愛憎が絡み合う事件を担当することで、ヒョミンとソクフンもそれぞれの問題に向き合うようになる。事件を通して未熟なヒョミンが少しずつ変わっていく様や心を固く閉ざしたソクフンが明るくなっていくのが見ていてうれしい。その変貌ぶりをイ・ジヌクとチョン・チェヨンが巧みに演じている。
ヒョミンやソクフンだけでなく、ソクフンを慕う後輩弁護士のイ・ジヌ(イ・ハクジュ)と夫と姑のモラハラに苦しみ、離婚後に弁護士となったホ・ミンジョン(チョン・ヘビン)の恋模様も心温まる。
最終話では、子どもを一緒に育てるだけのために愛のない契約結婚をしたカップルの離婚裁判が描かれた。最終的に裁判官は離婚を認めるのだが、判決を言い渡したあと、このカップルに向けてあるメッセージを放つ。
「愛は完璧ではなく、結婚はその不確実な愛を共に耐える過程です。だからこそ難しく、失敗することや離婚に至ることもあります。しかし愛が難しいからと排除してしまえば、結婚という旅路の本質的な価値を失ってしまう。たとえ婚姻関係が終わっても、そこにあった誠意と責任は長く残ることを願います。」
この言葉がずっしりと心に響き、この物語の最後を締めるのにぴったりだと感じた。

いろいろな愛の形をみせてくれた本作だが、ヒョミンやソクフンはそれぞれ本当の愛を見つけられるのだろうか。2人が上司と部下というだけでなく、男性・女性としてお互いを意識し始めたところで物語は終わってしまった。こういう終わり方で良かったと思う反面、やっぱりその後の2人が気になる…と思う自分がいる。シーズン2が制作されるといいな…とふと思った。
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