韓国ドラマ『善意の競争』が、Netflix他で配信中だ。本作は、韓国の上位1%の生徒たちが通う名門女子校・チェファ女子高校を舞台に、ユ・ジェイ(イ・ヘリ)とウ・スルギ(チョン・スビン)を中心に、韓国社会の根深い競争意識と学歴社会、厳しい受験を強いられる高校生の心の闇を描いた学園ミステリーとなる。本記事では、物語の見どころとユ・ジェイを演じたイ・ヘリ、ウ・スルギを演じたチョン・スビンの魅力に迫りたい。
(以下、物語の内容にふれるネタバレあり)
■筆者プロフィール
咲田真菜
大学卒業後、国家公務員、一般企業の会社員として勤務後フリーライターに転身。『冬のソナタ』で韓国ドラマにハマって以来、視聴し続けている。好きなジャンルはラブコメ、ファンタジー、法廷もの。ドロドロした愛憎劇はちょっと苦手。いつか字幕なしで鑑賞したいと韓国語を勉強中。
『善意の競争』タイトルに込められた強烈な皮肉

寝ずに勉強ができるからと売人から薬を買う高校生、弱みにつけこんで脅しをかける高校生、受験のプレッシャーに耐え切れず自慰行為が癖になってしまった高校生…。厳しい受験戦争の弊害を描いたドラマは数多くあるが、本作では、想像の斜め上を行く物語が展開されていく。
最大の見どころは、ジェイとスルギをはじめとした、チェファ女子高校の生徒たちの心理戦だ。名門校の生徒たちが、表向きは健全な競争を繰り広げているかのように装いながら、実際には嫉妬、裏切りが蔓延する闇に身を置く。それをジェイの父親をはじめとしたまわりの大人たちが、諫めるどころか助長させている点が痛い。韓国社会で問題になっていることが、そのまま投影されたドラマといっていいだろう。『善意の競争』というタイトルは、思い切り皮肉が込められているというわけだ。
父親の死の真相を暴くために奔走するスルギは、ジェイやその他のクラスメートたちから協力を得られたこともあれば、ひどい裏切りにもあう。一体何が真実なのかが最後までわからず、見ている側はヒヤヒヤするが、この作品は、単なるいじめや格差問題だけでなく、若者が受験競争の闇で人生をめちゃくちゃにしてしまう恐ろしさを社会派ミステリーとして描いている。
イ・ヘリが演じる不気味なまでに完璧なキャラクター

大病院の院長を父親に持ち、成績優秀・スポーツ万能・英語が堪能なジェイは、校内でカリスマ的な存在だ。誰もがジェイに憧れ一目置いているが、不気味なまでに完璧なキャラクターの中に、ジェイの深い闇を見てしまう。
演じているイ・ヘリは、K-POPアイドルグループGirl's Dayのメンバーとしてキャリアをスタートさせ、明るく親しみやすいイメージで知名度を確立した。ドラマ『恋のスケッチ ~応答せよ1988~』をきっかけに俳優としてブレイクしたが、筆者が印象に残っているのは、チャン・ギヨンと共演した『九尾の狐とキケンな同居』だ。
999歳の九尾の狐(クミホ)であるシン・ウヨ(チャン・ギヨン)と、ひょんなことから奇妙な同居生活を始める女子大生イ・ダムを演じたヘリ。イ・ヘリは、感情豊かで親しみやすいキャラクターをダム役で活かし、ファンタジーロマンスで愛らしい姿を見せた。「アイドルなのにそこまでやってくれるの!」と驚くほど体当たりで視聴者を笑わせ、チャン・ギヨンとのコミカルなやり取りも見事だった。
こうした明るく親しみやすいキャラクターのイメージが強いイ・ヘリが、今回は一筋縄ではいかない謎めいた優等生を演じた。これまでのイメージとは違う役を演じたことは、イ・ヘリにとって大きな挑戦だったことだろう。実際、最初の登場シーンでは、演じているのがイ・ヘリだとすぐに気付けなかった。
SNSでは「これまで演じてきた役の中で、今回が一番イ・ヘリに合っているかも…」という意見が少なからず見られたが、これに筆者も賛同する。女王のようにふるまってまわりを振り回し、すべてを手にしているジェイ。時折皮肉めいた笑みを浮かべる様子をイ・ヘリは非常に上手く表現している。物語の後半で判明するジェイの心の闇や父親への強い恨みは、物語のサスペンス要素を大いに盛り上げてくれた。イ・ヘリはこの作品で、また一つ俳優として大きなキャリアを築いたといえるだろう。
鋭い目線が魅力のチョン・スビンが演じる執念の女子高生

ジェイとは対照的に地方の児童養護施設で育ち、過酷な環境を生き抜いてきたスルギを演じるのがチョン・スビンだ。
不幸な事件をきっかけに児童養護施設に身を寄せることになったスルギは、激しいいじめを受けて育ってきた。ある日勉強ができればいじめられなくなると気付いて必死になって勉強し、やがて薬に頼ってでも1位を死守しようとする。それは「地獄のような過去に戻らないため」の彼女なりの必死の努力と執念だった。
チョン・スビンの過去作で印象的なのは、シン・イェウンが主演を演じた『代理リベンジ』だ。チョン・スビンは、シン・イェウンが演じるオク・チャンミの同級生、テ・ソヨンを演じた。謎めいた雰囲気があり、何より真っ白(シルバー?)な髪が印象的だった。
チョン・スビンは『代理リベンジ』以外でも、ミステリーやサスペンスのように緊張感が増す作品に数多く出演している。そのせいか、内面に秘めた複雑で暗い感情、鋭い眼差しで表現する演技に長けているといえる。
本作では、ジェイによって象徴される「完璧さ」の裏に隠されたエリートの欠陥、スルギが表現する「ハングリー精神」による上昇志向が対比して描かれ、この2人を演じたイ・ヘリとチョン・スビンがこのドラマに残した功績は計り知れない。

