タイにはまだまだ知られざる“B級グルメ”がある。観光客の動線から少し外れた路地や旧市街の通りに、地元客で賑わう安くて旨い店が点在する。なかでも、チャオプラヤー川沿いの旧市街を貫く「ジャルンクルン通り」は、一皿ごとに個性が光るB級グルメの宝庫だ。
今回お話を伺ったのは、バンコクを拠点にタイ国内の旅行業を営み、YouTubeチャンネル「Nishio Travel」でタイ飯の発信活動を行う西尾康晴さん。西尾さんは2011年にタイへ移住。2015年からバンコクのローカル食堂を紹介するブログを開始し、2017年に旅行会社を設立、2019年にYouTubeでの発信を本格化した。現在はタイ国内の“超ローカル”な食や旅情報を中心に紹介している。
そんな西尾さんがタイ移住当初に数年間暮らし、足しげく通ったのが「ジャルンクルン通り」だった。ジャルンクルン通りはいわば「バンコクのB級グルメストリート」。特にこのエリアに惹かれて引っ越したわけではないというが、暮らすうちにどんどん魅了されていったという。とにかく安くて旨い店が多く、タイのグルメ情報を発信するきっかけにもなった場所だ。西尾さんが1週間で同通りの飲食店14店舗を食べ歩いた動画は、5万回再生を超える人気コンテンツとなっている。
RBB TODAY編集部では「観光ガイドでは見つからない、リアルに美味しいタイのローカル店」を紹介する連載を展開している。今回は西尾さんに、ジャルンクルン通りの中でも特に気に入っているB級グルメ・飲食店をうかがった。
バンコクでもっとも有名なお粥専門店『ジョークプリンス(Jok Prince)』



最初に紹介するのは、西尾さんが“バンコクでもっとも有名なお粥専門店”と評する「ジョークプリンス」だ。ジョークとは、タイ風の「トロトロのお粥」のことで、生米から長時間煮込むため、米粒の形がなくなるほど滑らかに仕上がるのが特徴。ミシュランガイドのビブグルマン(価格以上の満足感が得られる料理)常連の老舗で、朝食時はもちろん夜まで地元客で賑わう人気店だ。

千切りの生姜やネギなどをトッピングでき、具材は豚のひき肉やホルモンに加え、生卵やピータンも選べる。西尾さんは選べるトッピングをすべてのせた“全部のせ”のジョークを注文。一口食べると、中華ベースの味付けが豚肉の旨味と調和し、思わず舌鼓。さらに、卓上の酢・胡椒・ナンプラーを加えて混ぜると、味が引き締まっていっそう美味しくなる。最後にトッピングの卵を割ればクリーミーさが増し、コクが口いっぱいに広がる。



“肉厚ムーデーン”に感動!ミシュラン3年連続掲載の実力店『タンジャイヤーン(Tang Jai Yang)』


今回の動画で、西尾さんが「初めて行ったけど美味しかった」と語るのは、チャーシュー(ムーデーン)で評判の『タンジャイヤーン(Tang Jai Yang)』。ミシュランのビブグルマンに2023年から3年連続で選ばれている実力店だ。店主が趣味で作っていた自家製ムーデーンが評判を呼び、デリバリー営業から店舗化し、行列ができる人気店へと成長したという。入口にはミシュラン掲載の印であるシールが貼られていた。

店内は、1階に小さなテーブルが5卓、2階に2卓ほどの小ぢんまりとした造り。西尾さんが店内に入ると、ムーデーンとシークロンムー(スペアリブ)、リンムー(豚タン)の3種盛りが提供された。特に西尾さんが感動したのは、親指第2関節ほどの“極厚スライス”のムーデーンだ。断面はむちっと詰まり、表層はほんのりと照りがあり香ばしい焼き目。西尾さんは「これだけ肉厚で、ほどよく脂が乗っていて、柔らかいムーデーンに出会ったことがない」と絶賛した。



続いて西尾さんは、ミースアという麺をムーデーンや野菜とともに炒めた「ミースアムーデーンヤーンターン」を堪能。ムーデーンとしいたけの旨みが見事にマッチし、上品な甘みが特徴だ。一口食べるとスモーキーな香りが鼻腔を抜け、いっそう食欲をそそる。


海老入りワンタンスープの「ギアオクンナー」も絶品だ。ぷりぷりの海老に驚きつつワンタンを口に運ぶと、思わず目を瞑ってしまうほどの美味しさ。西尾さんも動画で「これは贅沢だよ」と心の声を漏らしていた。


“とにかく魚の出汁がいい”と絶賛『カオトム・プラ・キンポー(Khao Tom Pla Kimpo)』



西尾さんがジャルンクルン通りの飲食店で特に気に入ったのが『カオトム・プラ・キンポー』。夕方に明かりが灯ると、人が吸い寄せられるように席が埋まる。白身魚やエビ、イカを使った“米入りスープ(カオトム)”が看板の老舗だ。西尾さんは動画でプラーガポン(スズキの一種)を使った「カオトムプラーガポン」とそれと海老を使ったヤムのヤムクンを注文した。

西尾さんは同店のカオトムを「ここの出汁がよく効いている」と絶賛。さっぱりした味わいの中に魚の出汁が効いているという。まずは何も足さずにレンゲで一口。続いて、卓上にある大豆調味料のタオチオを使ったナムチムをつけて「味変」すると、よりいっそうコクが出て旨みが増す。



一緒に注文したヤムクンは、海老のプリプリ感がたまらない。酸味と唐辛子の辛味が効いたタレが新鮮なエビの香りと複雑なハーモニーを織りなす。シーフードは同店のような繁盛店で食べるのが、新鮮なものが提供されるのでおすすめだという。


独特な酸味がクセになるカオマンガイ屋『スイヘン(Sui Heng)』



「日本人にぜひ食べてほしい料理」を尋ねると、西尾さんは「タイはカオマンガイが絶品」と答えた。カオマンガイは鶏のゆで汁で炊いたご飯の上に、しっとりと茹でた鶏肉を乗せ、特製のタレをかけて食べるタイ料理。特に“飲んだ帰りの締めで通っていた”という西尾さんの思い出のカオマンガイ屋が、動画で紹介されている『スイヘン』だ。



早速、西尾さんはカオマンガイを注文。通常のカオマンガイはタレが甘辛いのが特徴だが、同店のタレは色が黄色くて酸味が強く、他店とは一風変わった味付け。独特の酸味が鶏肉とよく合いご飯がすすむ。カオマンガイ屋としては珍しくビールも置いているようで、西尾さんは「よくここで夜中にカオマンガイ食べてビール呑んでたな。大変お世話になりました。たまに呑みながらテーブルで寝ちゃったりして」と懐かしそうに語った。
今回、紹介した4店舗のほかにも、タイには地元客で賑わう旨くて安いお店がたくさんある。特に屋台グルメは現地の人しか知らない、観光客があまり訪れない隠れた名店も多い。次回の記事では『バンコク屋台巡り』をテーマにおすすめの屋台について伺う。






